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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第八章 Reckoning

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落とし前―⑤―

 ロックは翼剣“ブラック・クイーン”を逆手に構えた。


 剣の残光を思わせる鋭い眼光が、二対の分銅型“命導巧(ウェイル・ベオ)”を従えるオーツを見据える。


「……俺の名前は()()()()()()()()って……聞いてないよな……」


 先ほどのオーツの仇名に、ロックは肩をすくめる。


 オーツはロックよりも背が高いが、横に広いこともあって寸胴にも見えた。


「“紅き外套の守護者クリムゾン・コート・クルセイド”……()()()()()()()”……それを()()()()()()()()()、忘れられねぇよ……」


「……じゃあ、()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


 ロックは一言とともに、土瀝青(アスファルト)の大地を蹴る。


()()()()()()()()()()()()()()()


 恨みを腫らせる恍惚感と、傷つけられたロックへの怒りに混じる表情のオーツ。


 彼の眼に映る、猛禽と猛獣の眼をしたロックの背後は土煙を上げ、擂鉢が出来ていた。


 擂鉢の中心にあるのは、頭蓋骨台の分銅。


 背広姿や普段着と問わず、老若男女の“政市会”会員も擂鉢の放物線上に倒れていた。


 衝撃によって店舗の壁に身体を叩きつけられた者もいれば、土瀝青(アスファルト)や放置されていた車の残骸に潰された者もいる。


 血の臭いが漂い始めると共に、“ブラック・クイーン”の籠状護拳(バスケットヒルト)越しの一撃をオーツの左頬に向けた。


 ロックは左腕で鉢金を作り、右側から腰を入れる。


 だが、オーツの顔面に届かない。


 彼のもう一つの分銅が、ロックの放った“ブラック・クイーン”の籠状護拳(バスケットヒルト)による一撃の前に立ちはだかる。


 ロックは右拳から斥力を感じ、吐き捨てた。


 相対するオーツの眼の輝きが、凶刃のそれに変わる。


 オーツの眼に映るロック。


 その背後で、“政市会”会員を巻き添えにした分銅が浮かび上がり、ロックに牙を剥いた。


 オーツの分銅による挟撃。


 しかし、彼の眼に苔色の風が疾走(はし)った。


 双迅の風が、ロックの背後を取った分銅を切り伏せる。


「ロック、背後に注意!!」


 ブルースの苔色の眼、そして同色に染まる苔色の双刃がオーツを反射。


 苔色の迅雷となり、ブルースがオーツに肉迫する。


 しかし、オーツがブルースに気を取られている間に、もう一つの分銅からの斥力が弱まった。


「色々言われて、感謝する前に泣けてくるな……」


 ロックは“駆け抜ける疾風(ギェーム・ルー)”で、全神経を加速して跳躍。


右回し蹴りをオーツの左顎へ放った。


オーツは両手で出した“磁向防スキーアフ・ヴェイクター”で、ロックの急襲を防ぐ。


頭への一撃は免れたものの、ロックの蹴りの衝撃を受け、オーツは後退った。


長身で寸胴な、オーツの両脚が土瀝青(アスファルト)の大地を抉る。

 

 舌打ちをしたオーツに、ブルースのショーテル型“命導巧(ウェイル・ベオ)”の双刃が迫った。


 オーツは眼を見開くと、彼の分銅型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“アンダー・プレッシャー”が疾走。


 二つ並べて、ブルースの緑銀の刃を防ぐ。


 緑の光と灰色の奔流が、路地に広がった。


 二人の出す力の激突に、遅れて爆風が吹き荒れる。


 膠着状態となり、ロックはすかさず、爆風の中を突き抜けた。


 しかし、オーツの両眼に映る“政市会”会員が力の衝撃に煽られ、一歩下がる。


 それから、彼らの眼に戦闘の意思を秘めた輝きが両目に宿った。


 両腕に付けられた“羊のしゃれこうべ”の形の“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“スウィート・サクリファイス”を向ける。


 羊の頭蓋骨の眼窩に灯る青白い光が、ロックとブルースを捉えた。


 しかし、彼らの眼に紫電が発生する。


 “スウィート・サクリファイス”を構えた者たちの全身が、弛緩と収縮を繰り返して、その場に倒れた。


「本当に“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


 迸る電流で倒れる“政市会”会員の男の眼に、滑輪板(スケートボード)に乗るシャロンが映る。


 板の下から()()()()()()()()()()()()()()、何匹かが“政市会”会員たちの足元を這い回っていた。


「そう言うなよ、シャロン……よく言うじゃん、“()鹿()()()()()()()()”とか“()()()()()()()()”ってね?」


 凜華がそう言いながら、シャロンの前に立つ。


 彼女の星屑の両眼と共に眼光を煌かせ、大太刀“エペタム”を振るった。


 電流を運ぶ鰻から逃れた“政市会”会員の女性三名が、太刀筋の舞に倒れる。


 いずれも、シャロンに向け“芝打”を構えていた。


()()()()()()()()()()()……ロック?」


「テメェも言われてんだよ……()()()()()()()!!」


 ロックは吐き捨てて、オーツの右側に。


 ブルースの攻撃に気を取られている、長身寸胴の男に右の直蹴りを放った。

 

 腹を押さえて呻くオーツの間合いに、ロックはさらに踏み込む。


 右から左へ“ブラック・クイーン”を持ち替え、ロックは右肘の迫撃砲をオーツの顎に食らわせた。


 仰向けに倒れそうになりながら、両足で踏ん張るオーツ。


 ロックは“ブラック・クイーン”を両手に、切っ先を地面に突き立てる。


 翼剣全体に炎が宿り、ロックの顎への一撃で血に染まった口腔のオーツを照らした。


 ロックは翼剣を斬り上げ、オーツを炎の羽ばたきで煽る。


 “迷える者の怒髪(ブイル・アブァラ)”。


 噴進(ジェット)火炎による斬撃による衝撃が、オーツの腹部で炸裂する。


 爆轟と爆炎に見舞われたオーツの寸胴の身体が、斬り上げにより宙を舞った。


 駅前商店街で、“政市会”会員の眼に留まり、オーツの身体が放物線の頂点に達する。


 万有引力の法則が彼の身体を捉え、土瀝青(アスファルト)の大地に叩きつけた。


 “命熱波(アナーシュト・ベハ)”使いという、ロックやブルースと同じ存在は“政市会”会員でも強者と言う認識があるようだ。


 オーツの変わり果てた姿を見て、“政市会”会員の動きを止める。


 ロック、ブルース、凜華とシャロンの4名に恐怖を抱き、距離を離そうとしていた。


 4人と“政市会”の膠着状態に、商店街全体の空気が震える。


 その震源地を、ロック達が探ると、


「駅前北口広場だ!! “電脳左翼(デンサヨ)”の野郎どもが思ったより、やりやがる!!」


 声が“政市会”会員から聞こえて来て、ロック達に背を向けて走り出した。


「……駅前広場?」


 ロックが呟くと、ブルース達と向き合う。


「ロック!!」


 “アルティザン”を含んでいる雑居ビルの入り口から、サキが出てくる。


 サミュエル、龍之助、一平も彼女に続いた。


「“アルティザン”から駅前広場の方で大きな爆発が見えた!!」


 ロックの双子の証であろう、湖面の碧眼を怒りで輝かせる。


「恐らく、前面衝突だな……」


 サミュエル達の後に続いた、“ソカル”の大男の使者――“バイス”が、騒動の起きている場所に目を向ける。


 そこから見える色をロックが判断しかねていると、


「止めなきゃ……」


 バイスの背後から聞こえて来た声は、長髪を二房にした少女――元“政声隊”の秋津だった。


()()()()()()()()()、色々揉めているんだ……」


 元“政市会”の堀川も不安の混じった声を出して、秋津を見る。


 彼女は彼に頷き、何を思い詰めたのか、


「ロックさん、サキさん……私たちを、駅前広場まで連れてって下さい!!」


 秋津の突然の提案に、ロックは愚か、隣のサキの言葉も詰まる。


「このままだと、駅前が無関係な人が傷付きます……僕たちには、止める義務があります!!」


 堀川は愚か、秋津の眼にも輝きがあった。


 それは、微かに混じった涙と共に、駅前で起きた残骸や負傷者を反射している。


「……残念ながら、“バタリオン・ピース”の到着も()()()()()


 “ソカル”の使者ライダースーツのライトが、携帯通信端末(スマートフォン)を手にしながら、口惜しそうに呟く。


 ロックは駅前商店街を見渡した。


 ロックに倒されたオーツの姿はない。


 どさくさに紛れて逃げたようだ。


 よく耳にすると、警察、消防に救急の車両の放つサイレンの音が、上万作(あまんさく)の市内と駅前を覆い始めた。


 少なくとも、伊那口――厳密に言うなら、B.L.A.D.E.地区――から来る場合、行政の対応により、時間を食うことだろう。


「わかった……その代わり、()()()()()()()?」


 ロックの言葉に、堀川と秋津は言葉を返さない。


 ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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© 2025 アイセル

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