落とし前―③―
ロックの右手で放り投げられる、巨漢で黒縁眼鏡のカンタ。
その先にいるのは、黒いスーツを着た若い男が三人。
いずれも、羊の頭蓋型“命導巧”が両腕から青白い光を両腕に宿している。
突っ込んでくる半裸のカンタにむけ、その内の一人が青白い弾丸を発射した。
宙に浮かぶ巨漢の背に当たった指向性熱力弾が爆発し、青白い光が商店街の路地を照らした。
ロックはカンタを盾に、“政市会”会員へ距離を詰める。
意識を失っていたカンタの眼の色に輝きが戻り、全身から紫電を発した。
雷の“物の怪”と化したカンタが、ロックと“政市会”会員の間で更に雷鳴を轟かせる。
二人の間に、土瀝青の擂鉢とイオン臭を残して消えていた。
カンタは逃げたものの、彼の巨漢で視界を塞がれた“政市会”会員は、ロックの攻撃に出遅れる。
二弾目の青白い弾丸が放たれようとした時には、ロックの右直拳撃が素早く男の左顎を抉っていた。
顎への衝撃で意識を失う男の両眼に、ロックが映る。
そして、カンタへの攻撃で発生した青白い爆発の煙幕で逃れた“政市会”会員の二人も。
ロックの右肩まで到達する“政市会”の男に向け、彼は右後ろ回し蹴りで応戦。
だが、男の右手の得物に眼を奪われる。
男たちの両手に付けられた“スウィート・サクリファイス”とは別に、右手に黒い警棒が握られていた。
把手の近くに、引き金が付いている。
――電磁警棒!?
そう考えた時には、男の持つ警棒状のものがロックの右の靴底を叩いた。
「弟弟子!! 離れろ!!」
姉弟子のリンカの声で、ロックは異変を感じ取った。
両手足に静電気が、駆け巡る。
――そういうことか!?
痺れて行動を奪われたロックに、もう一人の警棒を持つ“政市会”会員の男が迫る。
視認するが、考えても攻撃に移せない。
ロックは、咄嗟に後退を取る。
しかし、二人目の警棒の男の踏み込みの方が速い。
男の両眼が、紅い外套を纏うロックの脳天を見据える。
ロックの右後ろ回し蹴りを逃れた男も、右手の警棒で追い打ちを仕掛けた。
――……“力”が入らない!?
右拳に力が籠められないことに内心戸惑うロックに、一対の警棒が同時に振り下ろされた。
しかし、二振りの棒から放たれる害意の風が唐突に消える。
「考えもなく走り過ぎ、弟弟子よ……?」
ロックを背にして諭す口調の姉弟子――リンカ。
両目元に施された星屑のメイクのように煌めく風が、ロックに吹いた。
しかし、それを切り裂く閃刃がリンカと対峙する二人の男に一筋、疾走る。
凜華の駆る大太刀による一振りが、男たちの警棒を真っ二つにしていた。
「さて、“大和保存会”か“ホステル”か、定かじゃないけど……嫌なもの持ち出したね……」
凜華が、真っ二つにされ、舗装された道路上に散らばった警棒状のものを目にして、溜息を吐く。
その眼は、眼光の鋭さと内の忌々しさを隠そうとしない。
しかし、“政市会”会員の二人も同じような目線を凜華に送る。
特に、彼女の持つ“二尾の魚と一羽の鳥”が刻まれた柄の大太刀へ。
「そちら程じゃない……“イペタム”を手にした者がいるとは聞いていたが……まさか、“望楼”にいるとは……」
二人の男の片割れが、凜華に答える。
「他の“政市会”会員に比べると、話が分かりそうだね……」
「なら、じっくり話と行きたいところだな?」
二人の“政市会”会員の男、ロックと凜華の周囲に人が集まり始める。
服装は背広もいれば、カジュアルもいる。
男もいれば女もいて、世代を問わなかった。
「……無論、こちらに来ていただければ、だが?」
「一人の女に大勢を嗾けるような奴は、ゴメン被るよ!!」
ロックを守る様に、凜華が前に出て、大太刀を構える。
ロックに峰を見せ、刃が彼を覆う肩越し構え。
彼女の剣気による牽制をしつつ、
「……ついでに言うと、先約があるから、どっちにしろ断る」
「……デートだろうが何だろうが、お前と一緒はお断り」
凜華の言葉にロックは、辟易して言った。
「それは置いといて、身体の方は?」
「……少しだが調子を取り戻してきたが……?」
ロックは考えながら、右手に集中する。
力が入ってきている感覚を覚えながら、“政市会”の持つ“スウィート・サクリファイス”以外の得物に目を向けた。
「……“微細機械”との繋がりが回復してきているが……」
「“芝打”……名前は修験道の剣を使った呪術から取られているけど、れっきとした……“UNTOLD”による武器で、“リア・ファイル”の機能を一時的に停止できる」
イペタムという名の大太刀の刃の輝きを、相手に見せながら牽制する凜華が続ける。
「……どういうことって面だな、“弟弟子”?」
「アイツらの持っている得物までは知らなかった……だが、この状況の見当はつく……」
どこか勝ち誇った顔の姉弟子に、ロックは眼の前の状況に被りを振りたかった。
しかし、現実へ向き合うことを選び、
「“UNTOLD”に関連する“遺跡”……それを手にしたのは、“ワールド・シェパード社”や“政声隊”ばかりじゃなく……“政市会”――というよりは、“大和保存会”も含まれる」
“遺跡”という施設が世界中にあるのなら、日本にもある。
当然、それに“大和保存会”が目を付けない理由はない。
まして、菅原の狙いが“真の民主主義”と“秩序”――それらをもたらす“天之御中主神”の復活なら、“UNTOLD”に関する技術への造詣は――浅さや深さ――問わず、当然ある。
「……しかも、機能を止めるものを真っ先に発掘して、隠し持っているとは、涙が出てくる……」
「私の胸で泣くか、弟弟子?」
タンクトップを着ている凜華は、しっかり出ている胸の双丘を控えめに張ると、
「誰がお前なんかに……というのもあるけど、そろそろ大丈夫だ」
振り向いた凜華の眼が、呆れるロックを見据える。
勝ち誇り、炎の様な煌きを確認した凜華が、
「じゃあ……時間稼ぎだね!!」
「頼むぜ、姉弟子さんよ!!」
ロックの声と共に、上空で爆音が響いた。
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