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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第八章 Reckoning

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落とし前―②―

 ひび割れた眼鏡の奥に映る、卑屈さに満ちたカンタの目が涙に溢れる。


 猛禽か猛獣を思わせる、ロックを映した。


 カンタの両眼に映るロックは、自身の獰猛な笑みを見て、更に口端を吊り上げる。


 ロックはカンタの顎を再び掴み、右手へ更に力を籠めた。


 首への苦しみで瞳孔を細めたカンタは紫電を迸らせる。


 鳥の羽ばたきから溢れる翼の様な硝子が、ロック達を映し出す。


 彼らの背後では、一平の両腕に付けられた“ライオンハート”が虚空へ火を噴いていた。


 彼の援護に付くのは、龍之助。


 彼の矛槍は水を紡ぎながら、黄昏時の空を穿つ。


 彼らの眼に映るのは、太陽が沈みかけた空が見えるほどの大穴の開いた、“アルティザン”の窓側の席。


 “アルティザン”の窓際から見える、向かいの雑居ビルの屋上に立つ男――“スコット決死隊”のオーツ――を一平と龍之助の眼が捉える。


 彼の操る、人の頭蓋骨ほどの大きさの分銅型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“アンダー・プレッシャー”による攻撃が、彼の眼下の一平と龍之助を狙っていた。


 “アルティザン”内を蹂躙するオーツの二つの分銅を、一平と龍之助がそれぞれ迎撃に回っている。


 理由は、彼らの背後にいる四人の非戦闘員――つまり、キョウコ、アカリに、元“政市会”の堀川と元“政声隊”の秋津を守るため。


 そんな彼らを見渡せる“位置的優位ヴァンテージ・ポイント”に立つオーツにとって、“アルティザン”は絶好の狩場だった。


 頭部ほどの大きさをした一対の分銅が、不規則で噛み合わない軌道を描く。


 その一つが、キョウコとアカリに向いた。


 一平が炎を纏った右拳で、突っ込んできた分銅を吹っ飛ばす。


 しかし、彼の爆炎の拳を逃れた、()()()()()()が一平の右側を過った。


 小柄なアカリが前に出て、長身で日焼けのキョウコを覆う。


 二人の少女の強張る表情が、分銅の牙に蹂躙されることはなかった。


 蒼い斬光を纏った龍之助の“セオリー・オブ・ア・デッドマン”の矛槍の一振りが、オーツの害意の分銅を吹き飛ばす。


 だが、龍之助の顔を炎が覆った。


 解き放たれた炎は、眼鏡の奥の背後にある蒼い右眼の青年の右頬に触れない。


 ()()()()()()()()()()()()()()()を焼いた。


 龍之助の眼に映る一平の右手の“命導巧(ウェイル・ベオ)”に、炎が燻っている。


 龍之助が、一平に不器用な笑顔を向けた。


 一平も龍之助に応える。


 そして、彼らを惑わすオーツの分銅型“命導巧(ウェイル・ベオ)”を見据える。


 オーツの悪意に呼応するように、一対の分銅が、獲物を眼にした蛇のごとく、もたげる鎌首。


 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 黄金色の旋毛風が、オーツが捉えているであろう“アルティザン”の窓際を覆う。


 黄金色の砂ばかりでなく、オーツのぶちまけた“アルティザン”の窓枠や硝子の歯片が旋毛風に運ばれた。


 黄金色の旋毛風の担い手――サミュエル=ハイロウズ――が、窓際だった大穴に前進。


 散弾銃型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“パラダイス”の銃口を、サミュエルがオーツに向けた。


 彼の移動に伴い、黄金色の旋毛風も鳴動。


 同じ色の閃光が、サミュエルの“命導巧(ウェイル・ベオ)”の銃口に灯る。


 そして、黄金色の旋毛風がサミュエルの前で大きな槍を作る。


 苔色と桃色、二迅の風と共に、“アルティザン”の窓際跡から飛翔した。


 “アルティザン”店内に轟く爆音を背後に、ロックも右腕からの衝撃を感じる。


 彼はカンタを掴みながら、“アルティザン”の入り口を破壊しながら、階段の踊り場に出る。


 しかし、()()()()()()()


 ロック達は雑居ビルの階段の踊り場を飛び越え、その上の窓もぶち抜いた。


 夜の帳が空の大半を覆い始めた空が広がる。


 やがて、地球の重力に従いながら、ロックはカンタの後頭部を土瀝青(アスファルト)に向けた。


 舗装された道路が爆散。


 土瀝青(アスファルト)の破片をぶちまける。


 人々のどよめきが、ロック達を覆い始めた。


「……バ……ケ……」


「……()()()か……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 店をぶち壊した勢いで舗装された道路に叩きつけられても、言葉を吐き出すカンタ。


「でも……考えてみろよ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」


 土瀝青(アスファルト)のすり鉢に後頭部が収まるカンタ。


 彼の眼に、自分の首を絞め付けるロックが映る。


 ロックの眼に映る、カンタから微かに紫電が疾走(はし)った。


 血に染まった顔面、歯の掛けた口腔内を紫電が明滅。


 それらが()()()()()()()()()()()


「俺の眼に映る……()()()()()()()……え、()()()()よぉ?」


 ロックは、カンタが自分自身の姿を直視してしまった事実に、思わず笑ってしまった。


「……お前、『お前がLGBTだから嫌われたり、差別されている』と思っているようだが、良いことを教えてやるよ……?」


 紫電になり逃れようと、もがくカンタをロックは更に右手に力を込め、


「『()()()()()()()L()G()B()T()()()()()()()()()()』から嫌われてるんだよ!! 事実の捉え方が歪んでんだよ、このクソカスが!!」


 声にならない叫びを放つカンタ。


 息が掠れ、涙、唾と鼻水を出す。


 そんなカンタの声を聴きたいという気まぐれが出て、ロックは右手の力を緩めると、


「殺してやる、殺してやる!!」


「……やってみろよ?」


 ロックは再び、右手に力を込め、


「取り敢えず……()()()()()()()()()()()()


 ロックは言うが、


「違うな……()()()()()()()()()から、テメェは殺さない……その代わり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ロックの笑顔に、カンタの顔から血の気が引く。


「“政声隊”も無論、潰す。お前の職場もぶっ壊す。そして、ついでに言うと……“()()()()()()を生み、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()()


 ロックは軽い口調だ。


 しかし、カンタの頭の中では、ロックによる地獄絵図が()()()()()で描かれているようである。


 懇願の声を出して止めようとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、言葉が満足に出なかった。


「無論、テメェを庇い立てする()()L()G()B()T()()()()()()()()()()もぶちのめす……何かにつけて、テメェが『()()()L()G()B()T()()!!』って言うたびに、そいつらに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のどっちかを選ばしてやる……どっちも拒否なら、腰を完膚なきまでに砕いて()()()()()だがな」


 どれも実現可能には程遠い。


 だが、()()()()()()()()()()()ロックから先ほど行われた事実を拒否するため、カンタは両腕で耳を塞ごうとする。


 しかし、ロックの右脚の鉄板入り革靴が、カンタの左膝を踏みつけた。


 膝の皿が割れ、骨の砕ける軽快な音が黄昏時の駅前商店街を奏でる。


 カンタの絶叫が、それらに合わせるように響いた。


 それらの音に、カンタが両腕を力なく揺らす。


「……おいおい、()()()()()()()……()()()。今言った奴らを、()()()()()()()、教えてやろうか?」


 ロックは声を枯らすほどの大声で泣き疲れたカンタを、首を右手で持ち上げる。


 そして、走りながら、向かいの店舗のシャッターに、巨漢を叩きつけた。


「……それはな、()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を嘆き、()()()()()()()()()()()()()()()、最後に『()()()()()()!!』と言うのを聞くためにな!!」


 ロックのカンタに下した判決。


 被告である彼の眼元の涙は愚か、口腔内の唾や息すらも枯れ果てていた。


「ついでに言うと、テメェ等のように……過ぎた力で正義を振りかざすのは……“電脳右翼(デンウヨ)”だろうが、“電脳左翼(デンサヨ)”だろうが、多数派(マジョリティ)だろうが少数派(マイノリティ)だろうが、()()()()()()()()()()()()”を()()()()()()も“()()()”で後悔させてやる!!」


 ロックは、カンタの首を左手で持ち替えて、右手で殴ろうとする。


 だが、それを止め、ロックはカンタを背後へ放り投げた。


 カンタの目に映る背後。


 一対の羊の頭蓋を思わせる武器――“スウィート・サクリファイス”――を身に着けた“政市会”の男達が、ロックに照準を合わせていたために。

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© 2025 アイセル

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