不和―⑬―
「それで……二人が会いたいことについてわかったけど……?」
ロック達と堀川達の対話に割って入ったブルースに、
「“ブリジット”から伝言だ。『“バタリオン・ピース”が、“政市会”と“政声隊”……並びに、その背後にいる“ホステル”と三条に対する戦いに加わる』、とな」
洞窟に響き渡るような声で、バイスが続いた。
「……“七聖人”の“ブリジット”が……?」
「……“ソカル”……“B.L.A.D.E.地区”が助力……」
ロックとブルースが突然出た一言に、眉を顰める。
「……ロック、ありがたいことじゃないのか?」
一平がロックに問う。
ロック達七人に対して、二つの組織だ。
多数に無勢は明白。
そして、一平の言うように渡りに船だ。
「ただ、何故今頃だ? 俺と一平が“船の墓場”で戦っていた時に、それを持ち掛けても良かったろ?」
ロックの指摘したのは、一平との“命導巧”を使った喧嘩の後に襲来した“スコット決死隊”に、目の前の“ソカル”からの使者が乱入した件である。
「……それに、僕達の守ろうとしたハチスカが殺されたのも西区で、伊那口地区……つまり、“B.L.A.D.E.地区”の目と鼻の先だったしね……いくら何でも遅すぎない?」
ロックの弟のサミュエルの指摘も厳しい。
“望楼”としての彼の後悔と怒りが、“アルティザン”の温度を上げる。
「まあ、俺たちは“センセー”から言われているだけだから、受けるかどうかは自由だけどね……」
「アタシとしては、店に害がなければ問題はないからね……?」
凛華が、ロック達の間で両腕を上げながら両手をひらひらさせて言う。
しかし、楽天的に振舞う反面、彼女が純粋な剣気を思わせる視線をロック達はおろか、ライトとバイスにも叩きつけた。
「“望楼”とまで、事を構えたくねぇよ……」
ライトが肩をすくめて言うと、
「俺たちとしては、“電脳右翼”と“電脳左翼“があちこちで、好き勝手しているのを放置は出来ない……」
その言葉に納得したのは、
「……それで、“バタリオン・ピース”が参戦か?」
龍之助だった。
「そういえば、“電脳右翼”と“電脳左翼”問わずに恨み抱いていたもんな……」
一平の言葉に、ロックも“ソカル”について思い出したことがあった。
“ソカル”の目的は不明だが、“リア・ファイル”に関連する能力者の保護を謳っている。
「そういえば、“命導巧”を介さない、“エクスキューズ”、“擬獣”……能力者の密集する“B.L.A.D.E.地区”を中心に“ソカル”は動いていた」
ロックは、“ソカル”が世界中で活動していることは聞いていた。
しかし、近年は極東を中心にしていることを聞いたが、その目的については知られていない。
「確か“バタリオン・ピース”って、左右問わず活動家を攻撃しているんだっけ?」
「それどころか、活動家に限らず、新聞やテレビ、週刊誌や動画配信者すらも敵視していましたね……」
キョウコとアカリが口々に話す。
「というよりは、“バタリオン・ピース”に限らず“B.L.A.D.E.地区”の住民は“白光事件”により、伊那口地区に追われた……あるいは、伊那口地区から出られない住民で構成されているとは聞いている」
ロックはそう言って、“ソカル”のライトとバイスを睨みつける。
“B.L.A.D.E.地区”の当事者の中で、左右問わず活動家団体やメディアの報道による角度の付け方により、生活を追われた者たちが集まる集団で“B”を担う団体。
それが“バタリオン・ピース”ということを、ロックは思い出した。
「……なら、その堀川と秋津は、そこに入ったってことを言いに来たのか?」
ロックは堀川と秋津に目を配ると、
「いや……守ってほしい」
バイスの言葉に、ロックは妙な声を上げてしまう。
言ったことというよりは、意図を汲むことが困難なあまり、と言うのが正しい。
「“バタリオン・ピース”について、わかっているなら……そう簡単な話じゃないのは、分かってんだろ?」
ライトが肩をすくめる。
どこか、ロックは下に見られたように感じた。
それに対して、サキ、キョウコとアカリが、納得したように声を上げる。
「……つまり、敵の敵は味方とは行かない……」
「最悪、こいつらが“政市会”と“政声隊”の幹部だった時の恨みを晴らす奴もチームから出てくる……」
龍之助と一平の、堀川と秋津へ厳しい視線を向ける。
「“ソカル”としては……“電脳右翼”と“電脳左翼”についての対処は……もしかしたら、“バタリオン・ピース”しか派遣できないってことじゃない?」
「他の四地区、L、A、D、Eについては出られないか、出たくないか……もしかしたら、“ソカル”が信用を取れたのが“B”だけだったとか……?」
サミュエルとシャロンの視線は、疑惑に満ちていた。
「辛辣だねー!!」
ライトが笑い出すが、
「別に俺たちはここに、堀川と秋津は気にしないとして……“センセー”達を馬鹿にするのは勘弁してほしいけどね?」
彼の口に狼を思わせる犬歯、否――牙が突き立つ。
だが、威圧を行うライトを制するように前に出るバイス。
彼の長身が、一瞬、膨れ上がったように見えた。
「……わかった、護衛を引き受けよう! 良いな……ロック?」
ブルースが慌てて、二人の依頼を受諾した。
「……少なくとも、ここで疑っても答えは出ない。だったら……受けて、出方を見るしかない」
「こういうことばかりなのは、今に始まったことじゃないけど……護衛って、具体的にどうすれば良い?」
ロックは肩をすくめると、
「……今頃、二人との連絡が取れない……つまり、“政市会”と“政声隊”は二人を探している最中だ」
ロックはライトに異議を唱えようとしたが、止めた。
正確には、口から出ようとした言葉を両手に帯びた静電気が阻む。
「みんな、伏せろ!!」
ブルースが叫んだと同時に、駅前通りに面した“アルティザン”の窓硝子が爆散。
ネオンに照らされた硝子が、敵意を含んだ星屑となりロック達に降り注いだ。
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