不和―⑫―
ロックは小綺麗な学生の男子――堀川と、二房に髪を結んだ秋津を見て、背後の二人の男にも目を向けた。
耳を覆うほどの長さの茶髪とライダースーツの二人を見ていると、ロックは違和感を覚える。
――こいつら……どこかで?
二人とは初めて会うはずだが、ロックの本能が既に知っていることを告げる。
「ロック……そいつら、“ソカル”の……エミュ……レーター……だっけ?」
背後の一平が声を上げる。
ロックは眼の前の二人と、彼の言葉の一致を検証している間に、
「……よくわかったな」
耳の隠れる位置に茶髪を切った大男が、一言。
驚いていると受け取れる一言だが、声に抑揚がないので感情が見えない。
「俺たち……分かりやすい格好していなかったはずだけどな?」
ライダースーツの男が戸惑って言うと、
「いや……佇まいというか、癖があるから分かった」
ロックは驚きのあまり、一平に振り返った。
眼が見開いて、口が唖然としているのも映る。
「一平は、相手の癖を見つけるのが上手いんだよ」
サキが一言加えると、キョウコとアカリも頷く。
「それこそ……格闘技でもボクシングのパンツを直したり、総合格闘技での技を掛ける前のモーションとか見破ったりすることができたな……喧嘩でも」
龍之助の放った爆弾は、ロックばかりでなく、サミュエル、シャロンとブルースも驚かせた。
――そりゃ……強いわけだ……。
ロックは少し前に一平と戦った時の疲れを覚え、眩暈に襲われる。
情報量と情報密度の濃さで意識が蒙昧としている中で、ライダースーツの男が自らをライトで、大男をバイスと紹介しているのをロックは辛うじて聞き取れた。
「……凜華、“ソカル”ともコンタクト取っていたのか?」
「色々、伊那口地区の情報も得とこうと思ってね……」
凛華がブルースへ簡潔に応え、
「……それで、“ソカル”が、その子たちを連れてきた目的は? “パトリキウス”は何を考えているの?」
凛華が鋭くも何処か底を探る視線を、“ソカル”の二人に向ける。
「“センセー”からは、『この二人をロック=ハイロウズとサキ=カワカミに会わせろ』って言われてね」
ライダースーツを着たライトが軽薄な声で応え、二人に促す。
彼に差し出される形で出てきた、堀川と秋津。
訝し気なロック、指名された理由を考えかねているサキの二人の眼に映る彼らは怯えていた。
ロック自体、その原因を作った者としての自覚もあり、二人への言葉が見つからない。
その中で沈黙を破ったのは、堀川だった。
「俺……“政市会”を抜けようと思うんだ……」
驚きと戸惑いの声を上げたのは、一平と龍之助だった。
特に一平の声の大きさが秋津を震え上がらせるが、
「私も……“政声隊”を止めます!!」
秋津の声は、堀川よりも若干大きく凛としていた。
「……どういうことだ?」
ロックは、二人から向けられる視線から、並々ならない決断をしたことは理解した。
しかし、それに至った理由が分かりかねる。
加えて、どうすればいいかわからないのも悩みの種だ。
サキも同じだったようで、戸惑いのあまり、次の言葉が出かねている。
サミュエルとシャロンに至っては、“政市会”と“政声隊”、それぞれの関係者が踏み入れた時に向けた敵意の矛の着地場所を見つけられない。
一平と龍之助、アカリとキョウコは、それぞれが戸惑った視線を交差させる。
「待って……二人は、どうやって……そして、どうして会ったの?」
戸惑いつつサキが、二人に理由を聞くと、
「……実は、昨夜……政……声、隊……」
秋津の声に嗚咽が混じる。
それから、自らの重みに耐えられないかのように、膝を崩した。
サキが駆け寄ろうとすると、堀川が間に入る。
彼が、むせび泣く秋津の肩を抱えて、
「実は、秋津の方に“ソカル”の方から“リーネア”が入ったんです。それから、俺の方にも“ソカル”の方から連絡があって、秋津のいる駅前の店に案内されました。それで、少し前まで、二人と……駅前で話していたんです」
堀川が秋津の言葉を継ぐと、肩を囁く。
「大丈夫だから」
その言葉を聞きながら、秋津の顔を見た。
秋津の顔はよく見ると、目を腫らしている。
涙の跡に覆われた彼女の眼は、悲しみに苦しんだのが、一度ではないことを告げていた。
「……それで、俺と秋津は話し合って」
秋津が堀川を制した。
彼女が大丈夫であることを伝え、
「互いに、抜けることにしたんです……」
秋津が涙を拭きながら、声を絞り出す。
ロックは二人の声に圧されて、言葉を失った。
秋津の崩れる前に出かけた一言は、“政声隊”内部の実態だろう。
それを思い出せというのも、酷な話だった。
「それで……堀川、お前も“政市会”で?」
一平が問うと、
「うん……“スコット決死隊”も味方に酷いことをしていたし……」
ロックは、ダグラス=スコット=クレイとエヴァンスと対峙した時のことを思い出す。
上万作市役所の戦いでも、“スコット決死隊”のオーツも味方を顧みない行動を堀川に指摘されていた。
「……俺、左翼が嫌いだった……あいつら、平和記念公園の式典で、被爆者のじいちゃん……俺のじいちゃんが出ていたのに、黙禱の時間でも、祈らずに、ただ政治への不満を垂れ流すだけだった……」
堀川が秋津を抱え、悲しみに堪えながら、
「でも、気づいたんだ……俺も同じだった。俺も誰かを攻撃していた、一番じいちゃんを使って……」
堀川がこらえ切れずに、口から嗚咽が漏れだす。
秋津がそんな堀川の右手を両手で握り、
「……みんな聞こえのいい言葉……“平和”や“平等”を使う……そうすれば、認めてもらえると思っていた……けど、こんなの違う……“政声隊”も“平和”を使って、意見の異なる人を排除している!! 彼らの言う“平和”の中に、あなたたちの場所がない……そんなの絶対おかしい!!」
秋津が堀川の両手を握り、叫んだ。
それから、堪えていた秋津の眼から涙が再び流れ出す。
堀川が、秋津を安心させるように抱き寄せ、胸を貸した。
「……ロック、ちゃんと……自分の考えと世界を持っている人……いるでしょ?」
サキに言われて、ロックはバツが悪そうに頭をかいた。
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