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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第七章 Apple of Discord

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不和―⑦―

 ロックは翼剣型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“ブラック・クイーン”を取り出す。


 パセリ、セージにローズマリーとタイムという四つの香菜(ハーブ)の香りがロックの鼻孔を刺激した。


「ロック、待て!!」


 ブルースの突き出した右腕に制される。


 彼のエメラルド色の瞳が、赤い少女――アイを睥睨した。


命熱波(アナーシュト・ベハ)への干渉は出ていない……剣を見てみろ」


 ロックは右手の剣に目を向ける。


 “微細機械(ナノマシン)”、“リア・ファイル”製による紅黒の“ナノチタニウム”の刃が突き出ていた。


「ええと……それが、特殊な微細機械(ナノマシン)ってやつ?」


 キョウコがロックの右手の得物をまじまじとした眼で見つめる。


「同時に、“命熱波(アナーシュト・ベハ)”という力によるものですね……」


 アカリも目を釘付けにして言った。


 “アルティザン”に来る前にブルースやサミュエルが、一般人とも言えるキョウコとアカリに前以て説明していたようだ。


 ロックは周知されていること、そして、“ブラック・クイーン”が出ていることに安堵して、剣を消す。


『リュウちゃん……これは?』


 赤い少女が戸惑いながら口を開く。


「アイ、大丈夫だ」


 龍之助が座しながら、アイを宥める。


「つまり……()()()が原因?」


 シャロンの口調は、繋がりが見えないのか、どう反応して良いか分からないようだ。


「一平と決別してから、どうしようもなく歩いていたら……」


「アイってのと出会ったということか……」


 ブルースが肩をすくめて言うと、


「龍之助さん……()()()()()()って?」


 鈴の様で、何処か冷たい硬質な声が響く。


 一声は、アカリと言う黒髪の少女から放たれた。


 しかし、ロックが初めて見た時、黒髪の人形を思わせる第一印象だったが、今の彼女は()()()()()()()()()()()()


 あるいは――端的に言うと――東洋の伝承で言う“()()”の儚さ、静謐さと無慈悲さがアカリの中に内包されていた。


 彼女の凍てつく視線が、龍之助に突き刺さっている。


 アカリの視線はロックの中で雪女に限らず、メデューサや黄泉醜女(ヨモツシコメ)の邪視と重ねた。


 シャロンとサミュエルは、そんなアカリの変貌に戸惑う。


「……おい、アカリさーん……そういうのは、あとにしよう!! ね!?」


 キョウコが真っ青になりながら、抑える。


 呆れた一平の眼がロックの中で戸惑う顔を浮かべていたので、


「……龍之助とアカリ……同居してんだよ……」


 思わぬ言葉にロックは声を上げる。


 ただ、想定しない事態なので、言語化が出来なかったが。


「……一応、龍之助が子どもの頃、お父さんとお母さんを亡くしていて、アカリのお祖父さんが引き取って二人で生活しているんだけど……」


 サキが歯切れの悪い説明で、ロックはややあって頷いた。


「頼むから……()()()()()、他所でやってくれ」


 ロックは頭を抱えると、


「アカリ……アイは、子どもの頃に遊んだことのある友達だ……」


 龍之助が言葉に気を付けながら説明すると、


「ナオト……これは」


『やはり、か』


 ブルースとナオトが少女アイを見ながら、ロック達の知らないところで納得していた。


 話としては、龍之助の話が気になるので、ロックは続けるように促す。


「ただ、子どもの頃に会った時と変わらないし、浮遊していたのに気を取られて」


「その右眼――“愛されし者の右眼ザ・アイ・オブ・ジ・ビラブド”が、“命熱波(アナーシュト・ベハ)”として認識したアイを吸収した」


 シャロンが龍之助の言葉を引き継いだ。


 龍之助が首肯して、


「三条にその場を見られ、俺の右目をアイごと操った」


 龍之助の言葉に、ロックは絶句した。


 龍之助の友人たちも息を呑む。


「身体の自由は働かない……何より、力を暴走させたら、お前たちを傷つけてしまう……三条は俺の力の主導権を盾に、“政声隊”側の“命熱波(アナーシュト・ベハ)”使いとして活動させられていた」


 龍之助が、“アルティザン”の室内で揺蕩(たゆた)うアイを見上げる。


 彼女は硝子(ガラス)張りの水族館で泳ぐ魚を思わせた。


「……それから、“ウィッカー・マン”の起動とかを手伝わされた」


 サミュエルが、龍之助の蒼く輝く眼を見据えて言う。


「三条の言う“遺跡”という場所で、()()()を使うことを強いられていた……」


 龍之助が一息をつくと、凛華が飲み物を置いた盆を持って中心に入る。


「それに……三条は俺を操るのと同時に、アイも苦しめていた……俺の力は出せないし、

なによりアイの身にも危険が及ぶかもしれない……」


 龍之助が重荷を下ろしたように、息を吐きだす。


 一呼吸が終わるとともに、凛華はテーブルの上に人数分の飲み物を置いた。


「それが、4月10日の夜、広島と島根の県境での戦いと言う訳か……」


 ロックは、マグカップに注がれた珈琲を傾けた。


「でもさ……アイって女の子が、龍之助の知り合いとして……何で、三条が()()()()()()()を通して操れるわけ?」


 キョウコが当然の疑問を上げる。


 そのことについては、ロックも疑問に思っていた。


 サキ達も、同じことを考えていた。


 ()()()()()()()()()()()()


「三条が()()()()()()、“へルター・スケルター”を繋げ、それがアイを通して行われたようだ。ただ、どうしてそれが可能かというのも……そうとしか言えない、悪いな」


 ブルースがキョウコに謝罪を短く言うと、ノートパソコン内のナオトが思案に入る。


「龍之助……アイって女の子と、初めて出会った場所は?」


 ブルースに問いかけられて、


「是音台高等科学研究所だ……親の仕事で一緒に行っていて……」


 龍之助の言葉に、ブルースとパソコンの内蔵カメラを通したナオトが眼を合わせる。


「待て、ブルース……何を知っている?」


 ロックの呼びかけに振り向いた、ブルースの瞳。


 彼の眼に映るロックは、眉をひそめていた。


「もしかして、それ7年前……?」


 サミュエルが呟くと、龍之助が驚いた。


「その通りだ!!」


 龍之助の言葉に、サキ、一平にキョウコとアカリも騒ぎ始める。


 彼らの中の頭にあるパズルのピースが繋がり始めた。


「7年前……4()()1()8()()……」


 サキの呟きで、ロックの中のパズルの符号も一致した。


「まさか……“()()()()”……()()()()()()()()か!?」


 ロックは頭に浮かんだ事実に身構えた。


 ブルースと、パソコンの画面に映るナオトの顔に影が生じる。


「ふーん……“()()()()()()()()()()”と“()()()()()()()()()()()”……その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()があるということか……」


 サミュエルがブルースとナオトの二人へ、鋭利な視線を投げかける。


 その相棒であるシャロンは、猫と言うよりは猫科動物の獰猛さを思わせる眼付で牽制。


 ロックを始めとした一同の目線を一身に浴びたブルースは、画面の中のナオトと視線を交わした。


「実は、是音台高等科学研究所……そこでは、ある実験――いや、()()()()()()()()()


 ブルースが重苦しい口調で語り始めた。


 ロック達の息を呑む声が、“アルティザン”に響いた。


 サキがその先を促す。


「ブルース……()()って?」


「……“命熱波(アナーシュト・ベハ)”……“()()()()()()()()()()()()()……」

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© 2025 アイセル

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