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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第六章 St. Anger

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脱出―⑦―

 三条を追う巨大な“青銅色の嬰児”に向かって、ロックは跳躍した。


「あらあら、こんなとこまで来るとは……」


「テメェが住宅地に向かうからだよ!!」


 純金頭の巨人に抱えられた三条を斬りたい衝動を抑えつつ、ロックは“青銅色の嬰児”の正面に躍り出る。


 翼剣型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“ブラック・クイーン”を振りかぶり、青銅色に叩きつけた。


 “頂砕く一振りクルーン・セーイディフ”による分子配列で、地球上のどんな物質よりも高い硬度と強度を得た刃が、青銅色の額を叩き割る。


 ロックの腕から叩きつけた分の反作用による、斥力が発生。


 その分生じた応力により巨大な“青銅色の嬰児”が微かに、後退した。


 後退る“青銅色の嬰児”の鏡面に、ロックとその背後の風景が映る。


 市役所の入り口に面するように立つ、古き良き商店街の街並み。


 そして、“政市会”と“政声隊”の争いに関心を持ってしまった市民たちだった。


「お前等、ここから逃げろ!!」


 ロックの振り向きざまの怒声と共に、彼の横を青白い光が横切る。


 それは、“青銅色の嬰児”に向かっていった。


「邪魔をするなー!!」


 雑賀 多恵という女性の声が耳に入った瞬間、浮遊感がロックを襲う。


 そして、ロックに青白い突風が吹いた。


 ロックの身体は弧を描いて、住民の列を超える。


 ロックの目の前で、“青銅色の嬰児”の右顎に爆発が起きた。


 それを皮切りに、水流の槍と火炎の榴弾が、巨大な嬰児の右側から浴びせられていく。


 しかし、勢いでロックの身体は一回転した。


彼の眼の前に飛び込む“わさの”という看板。

 

背中の衝撃と共に商店街の店舗に突っ込んだ。


 店舗内には、ラーメンや餃子の臭いが漂う。


 そこで食事をしていた市民たちがロックと言う闖入者に驚き、扇形に散らばった。


突然の騒々しさに、厨房から太った主人と思しき者が怒鳴りながら、出て来る。


脳がその内容を言語化する前に、ロックは“半自動装填(セミオートマチック)式拳銃型命導巧(ウェイル・ベオ)”:“イニュエンド”を取り出した。


そして、扇形に散らばる客の手前と、厨房から出て来た小太りの男の右側の壁を撃ち、


「ここから逃げろ、死にたくなければな?」


 この場にいる住民たちの眼に、金髪で深紅の外套を着たロックの姿を認識し、騒めきが収まった。


 しかし、この期に及んでも自嘲せず、口答えをする店主の左側の壁にもう一発放ち、


「裏口から避難させろ!!」


 ロックの銃撃と言葉で、横柄な小太りの男から二の句を完全に奪う。


 そして、小太りの男は客を厨房へ通した。


 裏口の扉の音が開く音を確認して、ロックが作った店の大穴を見る。


 住民たちが野次馬根性でのぞき込むところに、黒い犬耳兜と白い装甲を付けた人と制服警官が遠ざけていた。


――“ワールド・シェパード社”と警察が来たのか?


 ロックが入口の横に出来た穴から出ると、


「ロックさん、大丈夫ですか?」


 突如として、女性の声が右から聞こえた。


 声の主が、薄紫色のバラクラバと同色のシャツの女――確か、サミュエルの言っていた“薄紫色の牙ヴァイオレット・ファング”――と確認すると、彼女から左へ移動するように促された。


 警官と“ワールド・シェパード社”の隊員たちが、ロックと“薄紫色の牙ヴァイオレット・ファング”を見て、道ができる。


「巨大な赤ちゃんが市街地に入ってしまいましたが、どうにか広い通りに追い込みました」


 “薄紫色の牙ヴァイオレット・ファング”は簡潔に言いながら、右肩に掛けた携帯型騎兵銃(アサルトカービン)に付けられた榴弾発射器(グレネードランチャー)に榴弾を入れる。


 薄紫色の牙ヴァイオレット・ファングに連れられたロックの眼の前に、片側一車線の道路が広がる。


 しかし、そこを占拠していたのは、“青銅色の嬰児”と、


「クソ、止まらねぇ!!」


「しかし、攻撃して足を止めるしかない!!」


 “手甲型命導巧(ウェイル・ベオ)”:“ライオンハート”に付けられた銃口から火炎の榴弾を放つ一平と、“矛槍型”命導巧(ウェイル・ベオ)“:”セオリー・オブ・ア・デッドマン“の水流の一擲で応戦する龍之助が、”青銅色の嬰児“の正面で応戦している。


 炎と水の攻撃が、巨大な嬰児の顔に炸裂し前進を妨げていた。


 背後からは、サミュエルの大鎌型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“パラダイス”で作られた金色の竜巻を駆り、“青銅色の嬰児”の背を抉る。


 上空からはシャロンの滑輪板(スケートボード)の下から現れた“鰻”の群れが、雷を帯電しながら、槍となり青銅色の嬰児の全身を貫いた。


 地面に縫い付けられた、“青銅色の嬰児”に電撃を含めた爆発が襲う。


 商店街の店舗の屋根に立つブルースからの、二振りのショーテル型“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“ヘヴンズ・ドライヴ”に付いた機銃の銃撃で、“青銅色の嬰児”は身を縮こませた。


「ヴァージニア!!」


 サキの一声により、鶏冠(ガレア)の女性の守護者が出て、右手を弓にする。


 結晶の矢を装填し、青銅色の嬰児に向けて放った。


「ライラ!!」


 結晶の矢が青銅色の嬰児の眼のまで炸裂。


サキの声に呼応するように、短髪の女性の守護者が現れた。


『赤ちゃんはネンネの時間だよ!!』


 右手の剣の斬閃が炸裂した結晶により乱反射を行う。


乱反射した光が、一斉に青銅色の嬰児を貫いた。


そして、サキの“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“フェイス”の引き金を引き、蒼白い色の残光が放たれる。


ヴァージニアの結晶の塵を同色に染めながら、青銅色の嬰児の皮膚を抉った。


しかし、ロックの眼前で光の串刺しを浴びながらも立ち上がる、青銅色の嬰児。


「一平くん、龍之助くん、下がって!!」


 ロックの隣で“薄紫色の牙ヴァイオレット・ファング”が叫ぶ。


 一平と龍之助が()()()()()()()()()()()()、後退。


 しかし、二人の疑問の余地を挟む暇も与えない榴弾が“青銅色の嬰児”の顎を打ち抜いた。


「ロック、決めろ!!」


 ブルースに言われるまでもなく、ロックも準備に入っていた。


 順手に構えた“ブラック・クイーン”を構え、駆け出した。


 微細機械(ナノマシン)“リア・ファイル”。


 その熱力(エネルギー)は、この現実世界に隠れているという“余剰次元”から来る。


 “リア・ファイル”がそこに干渉して発生した、熱熱力(エネルギー)と光熱力(エネルギー)を使い、“疑似物理現象”が発現する。


 しかし、ロックは、その二つの熱力(エネルギー)を“命導巧(ウェイル・ベオ)”:“ブラック・クイーン”に()()注ぎ込む。


 ロックは“ブラック・クイーン”に力を込めて、二つの熱力(エネルギー)のプラズマ化を行った。


 ロックの身体を光が覆い、周囲の時間が一瞬、()()()()


 目の前の“青銅色の嬰児”の左肩を、力いっぱい叩き斬った。


 時間が戻ると共に、ロックの最大の加速度と最強の斬撃に、巨大な“青銅色の嬰児”が吹っ飛ぶ。


 ロックも斬撃に晒された“青銅色の嬰児”が、瀝青(アスファルト)の路地を大きく抉った。


 “戦士の月ギアラック・ヤ・アイスギック”。


 力そのものを励起させ、純粋な破壊力をもたらす“疑似物理現象”による斬撃だ。


 吹き飛んだ“青銅色の嬰児”は、仰向けに月を仰ぐ。


 ロックは身動きしなくなった“青銅色の嬰児”を確認した。


「ロックー」


 サキの声にロックは振り向く。


 そして、ブルース達が口々に彼の名を聞くと、大きく膝をついた。


 安堵で身体が休まったのだろうか。


 それから、警察や“ワールド・シェパード社”の装甲を纏った兵士たちも集い始める。


 ロックは疲れのあまり、サキ達の言葉が聞こえなかった。


 だが、サキの眼に映った()()()()()で、ロックの意識を失うような疲れが吹っ飛ぶ。


 一つは、ロックを空中から見下ろす白い少女――レン。


 もう一つは、少し離れた所から見つめる銀鏡色の花鎧――“花葬”。


 そして、最後の一つ。


「凄い力じゃないか、“()()()()()―――”!!」


 首を覆う毛皮のコートの男――ダグラス=スコット=クレイ――のものだった。

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© 2025 アイセル

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