脱出―②―
4月11日 午後6時24分
「下がれ!!」
矛槍を構えた龍之助、鎌を得物としたサミュエルが、ロックの声に反応して、巨大甲冑から離れた。
ロックは、翼剣型”命導巧”から、半自動装填式の拳銃型”命導巧”:”イニュエンド”を突き出す。
銃声が轟き、甲冑の巨人が炎に包まれた。
穴という穴に炎が入り込む。
暫くして甲冑の中を回りきったのか、穴から火柱が突き出た。
”供物を味わう舌”のサーモバリック爆弾が、甲冑の巨人を巨大な火達磨に変えた。
――マジかよ!?
“酸素喰い”と言われるサーモバリック爆弾による炎の蹂躙をしても、動じない5mの巨大甲冑にロックは内心舌打ちした。
火達磨から黄昏の空を爛々と照らした炎が立ち消える。
傷一つ負っていない巨大甲冑が、壊れた庁舎と夕焼けを背負い、ロック達を見下ろした。
甲冑の頭部に咲く、三輪の炎の華。
一平の”命導巧”:”ライオンハート”から放たれた、”疑似物理現象”、爆轟咆破”による、可燃物、炎と助燃剤をまとめた攻撃が、崩れた庁舎の陰影に染まる、銀色の騎士甲冑を照らす。
「つうか、”ウィッカー・マン”って弱点とかないのかよ!?」
一平が叫びながら、”ライオンハート”の両拳に付けられた空の”弾倉を外して、新しいものに充填。
「だそうだけど、ロック、サキ……見えるか!?」
ブルースからいきなり話題を振られ、ロックは舌打ちをしながら、
「それを攻撃するために、”供物を味わう舌”。を放ったんだよ!!」
ロックの眼には、騎士型甲冑の胸部に大きな”熱の塊”が見えた。
“ウィッカー・マン”は機械生命体である。
そして、機械である以上、動力源が無ければ動けない。
他の“命熱波”と違い、ロックとサキは、その動力源が見える。
二人はその経緯を探るが、それぞれ所属する“ブライトン・ロック”社と“ワールド・シェパード”社の両社とも、その解明には至っていない。
「見えるけど装甲が硬いから、貫きようがないのよ!」
サキが”命導巧”:”フェイス”を、騎士甲冑の胴に向けて撃つ。
鶏冠の守護者――“ヴァージニア”が、サキの隣に現れ、手に光を宿した
“フェイス”の片刃の切っ先から蒼い光が、ヴァージニアの光を受け結晶化。
蒼い鏃が飛び、甲冑の胸部で爆散する。
蒼白い光の雨が、甲冑巨人の全身を覆った。
『砕けろ!!』
蒼く広がる光の前に、出現する短髪の少女――サキのもう一人の守護者――“ライラ”が吠えた。
細身の剣と化した彼女の右手を、光の中で振るう。
斬閃が巨大甲冑を覆う蒼い光の霧を震わせた。
振動で生まれた指向性熱力の槍が、一斉に5mの巨大甲冑を貫く。
光の振動で伝わった熱力が、甲冑の内から爆ぜた。
「だから、内から装甲を剥がした!!」
「いや、さっきの会話から、これから攻略の流れになると思ったら、すっ飛ばして終わりかよ!?」
ロックはサキの仕事の早さに舌を巻きながら、内部からの爆発で立ち尽くす巨大甲冑に迫る。
駆け抜ける疾風により、体中の神経を強化し、神速による移動。
右逆手に構える“ブラック・クイーン”の籠状護拳による拳打を放った。
巨大甲冑の頭部から、質量と力の乗法から来る反作用の力が、ロックの右腕に伝わる。
反作用に応え、生じた作用の力により、巨大甲冑は吹っ飛んだ。
ロックは順手に切り替え、巨大甲冑を追う。
彼の背後を火球が過った。
一平の“爆轟咆破”による火炎榴弾が、ロックの攻撃を援護。
巨大甲冑が、立ち上がろうとしたところに、その頭部と肩に炎の華が開花し、散華する。
黄昏時の空を焼き尽くさん、炎の花々の下に沈もうとしていた。
「サミュエル、龍之助、決めるぞ!!」
「ブルース……今までの出来事から、命令できるほど偉いと自覚できる?」
「応!!」
サミュエルの抗議と龍之助の同意を背に、ブルースは二振りのショーテル型“命導巧”を腰に付けて、飛ぶ。
音の力による揚力で、甲冑巨人の頭上を飛翔。
甲冑巨人が、右手の鶏の嘴を突き出す。
嘴から出た、光弾がブルースの背後を捉えた。
二発がブルースを過り、三発目は、彼が腰に構えたショーテル型“命導巧”:“ヘヴンズ・ドライヴ”の交差斬りで防ぐ。
ブルースが歯を食いしばりながら、その衝撃で“磁向防”を発動させた。
青白い光弾が破裂し、周囲を焼くほどの閃光が辺りに降り注ぐ。
甲冑巨人がその衝撃を防ぐために左手も上げたため、胴を晒した。
サミュエルの“命導巧”:“パラダイス”の鎌を畳んで出した散弾銃の銃口が、金色の一擲を放つ。
龍之助は、サミュエルの斜向かいに立つ形で、“命導巧”:“セオリー・オブ・ア・デッドマン”の蒼い矛槍からの“蒼海の翼”による”加圧水流”が、サミュエルの金色の礫の命中に続いた。
二人の集中攻撃が、甲冑巨人の胸部装甲を抉る。
引き剥がされた胸部装甲の内にあるのは、青銅色の球体だった。
青銅色の球体が輝くと、
「まさか……この熱源は!? みんな逃げて!! これは、弱点じゃない!!」
シャロンが叫び、滑輪板で後退した。
地上に降り立ったブルースが、腰に一対のショーテル型“命導巧”を収める。
ロックも彼の隣に並び、
「サキ、一平、龍之助、後ろに来い!!」
言われた三人は甲冑巨人から離れ、ロックとブルースの背後に回る。
ロックは、ブルースと共に右手を突き出した。
青銅色の球体から放たれた閃光が、ロックの眼前に広がる。
右腕に衝撃が走り、全身を揺るがした。
「堪えろ、ロック!!」
「分かってる、ブルース!!」
ロックの出した“磁向防”を、隣のブルースも展開。
二重の結界が、破壊の光を受け止める。
遅れて、爆発音と破砕音の二重奏がロック達を襲った。
衝撃波によって後退り、光が消えていく。
「これは……一体……!?」
龍之助が息を呑む。
「ロックとサキの見た光は弱点じゃない……熱源は、むしろ障壁にして、蓄積した損傷を熱力にしたもの。そして、それが放出されたのが……」
シャロンの視線が、球体と同じ形に抉れた庁舎、駐車場に置いてあった車に舗装された路地に向けられる。
その爆心地に立つ、甲冑巨人。
剥がれた胸部装甲の内に秘められた、青銅色の球体が割れる。
そこから出てきたのは、生まれたままの服を着た人間。
肩と鎖骨を外に晒した人間は女性だが、茶色に染まった頭髪をうなじが隠れる長さまで切り揃えていた。
ロックの隣にいたサキと一平が、その女性を見て、眼を見開いた。
龍之助も戸惑いながら、その女性の名を絞り出す。
「地自労の、雑賀……多恵だと!?」
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