対峙―⑪―
一平の左拳にはめた“命導巧”:“ライオンハート”の軽拳撃が、原田 龍之助の持つ矛槍型“命導巧”:“セオリー・オブ・ア・デッドマン”矛先を包む水の刃を弾き飛ばす。
拳の勢いに押された龍之助が大きく仰け反った。
一平は右足を大きく踏み込み、右直拳撃を龍之助に放つ。
蒼く輝く右眼を中心に、顔と右手が同色に染まっていた。
しかし、一平の目の前で、陽炎となる。
一平は右腕を上げた。
龍之助の右脚の踵の槌が、一平の右腕に食い込む。
右腕の骨を揺らすほどの一撃に、腕越しの衝撃に一平の脳が揺れた。
足が崩れそうになるが、一平は右踵を地面に踏みつける。
歯を食いしばった一平の表情が、龍之助の右眼に宿った。
蒼く輝く龍之助の顔の右半分に、一平の全身が映る。
「龍之助……お前が、アイってやつのために戦っているのは分かる。そして、俺やサキ達も巻き込みたくないがためなのも分かってる。あんな、良い奴らを演じたい暇人に付き合うのは、お前のカラーじゃない」
一平が“ライオンハート”を前に構えながら、龍之助に歩み寄る。
「一平……分かっているなら、頼む。引いてくれ!! これは、俺の問題だ。お前たちを巻き込みたくない!!」
一平はその言葉を聞いたとき、身体中の発条が収縮したように覚えた。
身体中に熱力が蓄えられる。
一平はその放出を感じた時には、既に龍之助の懐に入り込んだ。
龍之助が吹っ飛んだのを見届けると、一平はそれが自分の右直拳撃によるものだと気付く。
「そう言われて下がってんなら、友達なんて初めからしていねぇよ!!」
一平は、市役所の壁で蹲る龍之助の首元を右手で掴もうとする。
しかし、龍之助の持つ矛槍“セオリー・オブ・ア・デッドマン”の蒼い穂先が、一平を拒んだ。
扇形の軌跡を刻む穂先を避けると、龍之助が跳ね起きる。
矛槍型“命導巧”の刺突を、一平に繰り出した。
一平は、刺突を一つずつ見極め、回避。
その際に間合いを離してしまい、龍之助が更に離れる。
龍之助の“セオリー・オブ・ア・デッドマン”の穂先が、蒼く輝いた。
一平が冷気を感じ取ると、“セオリー・オブ・ア・デッドマン”の穂先から蒼い弾丸が放たれる。
その数は、三発。
一平はその一つずつを、“爆轟咆破”の炎弾で迎撃する。
“疑似物理現象”から生まれた炎と水と言う、熱力の塊が二人の間で爆ぜた。
一平の眼前を、熱気と水蒸気の幕が覆う。
それを蒼い槍が切り裂き、穂先が一平に迫った。
一平は気合を入れながら、“磁向防”を発動。
水に包まれた龍之助の槍の一撃が、一平の鼻先で止まる。
龍之助が戸惑うと、一平は左腕で槍の一撃をいなした。
懐が空いた龍之助に、不可視の衝撃と爆轟が襲う。
“爆衝烈拳”による、爆轟による衝撃に包まれた拳打を一平は龍之助に叩き込んだ。
「テメェの眼――“命導巧”――が原因で……俺たちに、危険が降りかかるかもしれないと考えた。だから、離れたんだろ?」
一平が距離を詰め、龍之助の襟首を右手で掴む。
「それなのに……お前が“眼”について、相談しなかった他所他所しさに、友達じゃないと言ってしまった!!」
一平の右手を振り払った龍之助は、彼の腕の間合いから更に離れようとする。
「悔しかったんだよ……俺、“白光事件”で俺たちを都合よく利用しようとする奴らや本当のことを言うと、掌返して拒絶するような奴らと一緒にされたみたいで!!」
しかし、一平は龍之助との距離を縮める。
「テメェの問題……それはテメェの都合だ。だがな……テメェの都合で、ダチを失うなら、そんなの認められない!! どんな眼をしていようが、何をしようが、龍之助……お前はお前だ。お前を認める……だから、放っておけると、思うなよ!?」
一平の左腕による裏拳が、龍之助の槍型命導巧セオリー・オブ・デッドマンを吹き飛ばす。
徒手空拳となった龍之助。
ただ、呆然とした龍之助の蒼い右眼の中に、口の端を緩めた一平の顔が映った。
しかし、龍之助の眼が強張る。
「一平、離れろ!!」
龍之助の叫びと共に、アイと言う“赤い少女”も苦しみ始めた。
「どうした、龍之助!!」
「一平、そいつの右手に触れちゃダメ!!」
シャロンと言う少女の一言で、一平は即座に下がった。
“セオリー・オブ・ア・デッドマン”を手放した龍之助の腕が、白いシャツの右袖を引きちぎって肥大。
青白い光を帯びて、蒼い右半身の中で脈動していた。
龍之助の右半身に映る、薄桃色のスーツに包まれた三条の顔。
彼女の顔が、口の両端まで吊り上がっていた。
「その腕……“へルター・スケルター”に支配されつつあるのか!?」
ロックが“白い少女”のレンの右腕から放たれた、青白い波動による攻撃を翼剣で防ぐ。
「『“へルター・スケルター”の力は、龍之助を通してでしか使えない……』でしたか?」
悠然としたたたずまいで、三条は言う。
「……では、誰がその力を出し入れしているのでしょう? “ウィッカー・マン”の大群で圧倒しなくても、原田 龍之助は私の手中であることは変わらない……こんな風に!!」
三条の歓喜の声と共に、龍之助の右腕が上がる。
右半身と右の顔が蒼く染まり、
「なんだ……これ?」
一平は、青白い光が自分から出ているのに気付いた。
「一平、離れろ!! お前の“命熱波”が吸い取られているんだ!!」
ブルースが一平に叫ぶと、更に舌打ち。
一平だけではない。
ブルース、サミュエル、ロックにサキからも青白い光の糸が、龍之助に収束されていった。
「“アイレーネー”の力……“命導巧”:“愛されし者の右眼”は“命熱波”を干渉し具現化ささえられる。なら、それを使ってアイレーネーを具現化させて、龍之助から食い破らせることも出来る、と考えられませんか?」
恍惚に染まる三条の眼が、龍之助の悶え苦しむ姿を捉える。
「これぞ、命の鼓動!! “アイレーネー”、あなたの渇きや欲望が手に取るようにわかるわ!!」
三条の声はさらに甲高さを増す。
その喜びは至上のものなのか、両腕で彼女自身を抱き、身もだえていた。
しかし、三条の愉悦を冷静に見つめる眼が一対。
「一平、諦めないで!!」
三条を見つめるサキの眼が一平を映す。
彼は、顔を真っ青にしていたが、サキの一言で血色が戻る。
サキは左手に片刃と軽機関銃を合わせた“命導巧”:“フェイス”を持ち替えた。
彼女は右手をアイとレンに向けて、突き出す。
それから、アイとレンから蒼白い陽炎が出た。
『……あれ、なにこれ、力が入らない!!』
アイが戸惑い始めると、龍之助の身体に変化が生じる。
「――!? これは……?」
驚いたのは三条の方だった。
三条が掌握していたと思いこんでいた、龍之助。
彼が立ち上がりはじめる。
「そんな……二つの“命熱波”……それに耐えられる筈は!!」
大きな熱力の流出入を三条に委ねられていた。
それは、彼女の鶴の一声で、自滅をさせることも可能。
一平はそう理解していて、皆もそうだと確信していた。
しかし、サキだけは違う。
サキの覆った蒼白い光が、レンという“白い少女”にも変化を与え始めた。
こちらは、不快感を表し、サキに飛び掛かる。
サキに、レンの青白い右の手刀が迫った。
しかし、ロックの順手から翼剣を振り下ろす。
レンの右肩から左腰まで、紅黒い軌跡が大きく一筋入った。
龍之助の蒼い眼が捉える。
そして、戸惑う龍之助を他所に、彼の蒼い右腕が、サキに狙いを定めた。
しかし、龍之助はサキに届かない。
「一平、龍之助に取り憑いた“へルター・スケルター”を追い出して!!」
「サキ、任されたぜ!!」
サキと龍之助の間に入った一平。
彼は呼吸を整え、左腰を精一杯引く。
押し出された右直拳打が、龍之助の前で止まる。
不可視の壁に遮られたかと思ったら、不可視の衝撃に龍之助の身体が大きく揺れた。
青白い奔流が龍之助の背後からあふれ出る。
奔流はやがて、青白い人型を作り出した。
顔の一対のくぼみは眼だろうか。
大きな青白い人型の何かは、ロックとサキを見ながら消えていった。
そして、一平の前で龍之助の膝が崩れる。
右眼は蒼いが、右手と半身を染めた蒼色の部分はすっかり消えていた。
ぼろぼろとなったシャツは、わずらわしさを覚えたのか、龍之助は脱ぎ捨てる。
「一平……」
龍之助が半裸でため息を吐きながら、一平を見上げ
「認めると言って、俺の行動を認めたと思ったら“止める”だと……全く、無茶苦茶な“友達”だよ」
その顔に強張った者はなく、鋭さを残しつつ柔らかい眼に映る一平は、
「サキ、アカリにキョウコも心配してんだよ。もう失いたくないからな。無茶苦茶にもなるさ」
一平と龍之助が、笑い合う。
しかし、二人の笑顔は長く続かなかった。
唐突に表れた土煙。
そして、耳をつんざく騒音と衝撃が、一平と龍之助を覆った。
ロック達の姿が土煙で見えない。
しかし、衝撃の爆心地》に立つ影を、一平は見る。
それは、5mの高さの騎士甲冑だった。
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