対峙―⑩―
ロックはブルースの言葉を反芻し、その意味に気づいた。
「ロック、どういうこと?」
サキが聞き返すと、
「サキ、考えろ……三条の言うような平和のための万能兵器となるなら、今、この場で使われている……それこそ、前に県境で戦った“ウィッカー・マン”を都市部に嗾けりゃいいんだからな」
隣にいるサキは、ロックとブルースの言ったことに合点がいったようだ。
「出来ないのは簡単だ……すぐに使えないからだ。“天之御中主神”、“へルター・スケルター”、“平和の神”と、どれだけありがたい呼び名を得ようが、な?」
ロックの舌鋒は、研ぎ澄まされていく。
「なぜ使われないか、答えは簡単だ……“へルター・スケルター”の力は“龍之助の右眼”を通してしか使えない……じゃねぇのか、三条?」
ロックの突きつけた内容に、三条は眼を微かに動かした。
「つまり、レンという“白い少女”とアイと言う“赤い少女”が、龍之助を通じて干渉しているなら、具現化されているこいつらを倒せばいい」
アイが、”命導巧”:“ブラック・クイーン”を逆手で構えるロックを睨みつける。
レンの周りに青白い光が集い始める。
それは、“政市会”会員ばかりでなく、“政声隊”――“力人衆”、S.P.E.A.R.も含めて――からも吸い取られていた。
吸い取られた者は、力が抜けていったのか、その場で崩れていく。
しかし、S.P.E.A.R.の秋津だけが立っていた。
彼女は青白い光に覆われていない。
よく見ると、彼女はトルクをしていなかった。
三条が溜息を吐いて、
「……それがどういうことか、わかっていますか? 龍之助という少年を殺すことになることを?」
一平が息をのむ。
具現化をさせているのが、龍之助の眼に移植された“命導巧”:“愛されし者の右眼”が大元である。
それは、龍之助と一体化している“命導巧”を、破壊することだ。
同時に言えば、龍之助も無傷では済まない。
そして、彼が龍之助と目線を交錯させた。
龍之助の蒼く染まる右の顔と、爬虫類を思わせる鱗の様な右手の輝きは、命の炎を思わせる。
「テメェ……馬鹿か?」
一平が、三条の攻撃に使った炎の残り火を眼に浮かべながら、
「龍之助は……強い、それこそ俺を頼るほどでもない!!」
両腕の“ライオンハート”を構え、龍之助にその銃口を向ける。
「一平、大丈夫……それ、私がなんとか出来るかもしれない」
サキが凛とした笑顔で応える。
“命導巧”:“フェイス”の片刃が、蒼白く煌いた。
「ロック、サキ!! 一平を龍之助まで、連れていけ!! 残りは――」
ブルースが一対の半月に反った刀――ショーテル――の形をした“命導巧”:“ヘヴンズ・ドライヴ”を三条に向けて言うが、その言葉は雷鳴に遮られる。
三条を覆う大きな両腕から放たれた雷が、ロック、サキに一平に狙いを付けた。
しかし、ロックの眼の前を砂塵が雷霆と激突。
「ブルース、ぼーっとしない!!」
サミュエルが“命導巧”:“パラダイス”の鎌から作った砂嵐で、ロック達を守る。
砂嵐が雷鳴を包み込むと、サミュエルはそれを三条の正面に解き放った。
雷鳴と砂嵐による蹂躙を背後に、ロックは正面の“白い少女”――レン――に右の逆手で“ブラック・クイーン”を斬り上げる。
紅黒の翼が、レンの前で爆炎となり炸裂。
しかし、レンの前で白い服を照らすだけに留める。
青白い“命熱波”が“磁向防”となり、ロックの紅黒の斬撃を防いだ。
ロックの眼前で、レンが白い腕を上空に上げる。
青白い光が波飛沫を作り、ロックの前で爆ぜた。
ロックは衝撃で一歩、後退させられる。
しかし、熱波がロックの眼前を舐めた。
ロックは翼剣“ブラック・クイーン”を突き出し、“磁向防”を展開。
眼前に迫る炎をかき消した。
炎の出所は、アイと言う龍之助の側にいる少女。
「傷つけさせない……レンは、絶対に!!」
アイが叫ぶと、炎の弾が彼女の周りを囲む。
炎弾が三つ、放たれた。
だが、それらが消える。
蒼白い弾丸が、ロックの横を飛び、炎をかき消した。
「ロック、大丈夫!?」
サキが言うと、“フェイス”の銃口から蒼白い光弾を放つ。
レンとアイの二人に向かった弾丸。
それが眼前で炸裂し、蒼白い光が二人を包む。
『……これは!?』
赤い少女――アイ――が、戸惑って声を上げた。
ロックは、“ブラック・クイーン”の柄から半自動装填式拳銃――“イニュエンド”――を取り出し、レンとアイを撃つ。
雷鳴の角笛がそれぞれに命中し、電影を歪ませた。
「私だけ、あの時動けたから、もしかして……と思って!!」
サキがロックの隣で、得意げに言った。
サキと再会した時の夜、ロックは龍之助の展開した“愛されし者の右眼”により、“命導巧”が全て使えなかった。
しかし、サキは何故か知らないが使えた。
あの夜、ロックはそれから三条に“命熱波”による攻撃を行えたのを思い出す。
しかし、氷柱がロックとサキの間を貫いた。
振り返ると、三条の召喚した両手からと分かる。
彼女の顔が炎の印影で、微かに彫を刻んでいた。
それが、更に二撃、三撃とロックとサキに襲い掛かるが、
「余所見厳禁!!」
桃色の風――“滑輪板”に乗ったシャロン――が氷柱の噴進爆弾の前に躍り出る。
それから、細長いものが現れ、一本ずつ叩き落していった。
細い長い何かは、銀鏡色の鰻となる。
それが槍となって、三条に向かった。
大きな両手から、炎に染まる方陣が彼女の前に現れる。
しかし、彼女はそれを出さず、後退。
シャロンからの銀鏡色の槍が、三条のいた足元を抉った。
やり過ごした三条は右掌を突き出す。
“磁向防”が、展開され、三条の前に波紋が揺れた。
「ロック、サキ!! お前らは、一平の援護だ!! 三条は俺たちが食い止める!!」
ブルースが叫びながら、ショーテル型“命導巧”:“ヘヴンズ・ドライヴ”を交差させる。
三条の華奢な両肩に刻まれる袈裟切り。
しかし、苔緑の斬閃の奔流が、三条の眼の前で止まった。
「……しばらく会わない間に、太刀筋が鈍りましたね……ブルース……!?」
三条の顔が微かに強張る。
金色の鎌の斬閃が、三条の頭上に振り下ろされた。
鎌の担い手、サミュエルが上空から強襲。
“磁向防”で、サミュエルとブルースの攻撃を防ぐ三条。
斥力で、二人から離れて、三条は距離を稼ぐ。
しかし、シャロンの”滑輪板”による体当たりが、三条を休ませない。
ロックは三人の戦いに目を向けていたが、炎の熱気と氷の冷気を感じ取る。
“命熱波”として現界した“アイ”と“レン”が、攻撃の矛先をロックに向けていた。
「ロック……私の能力……彼女たちには通じないかも?」
サキに言われ、ロックは声出さずに頷き、
「カバーする……一平に水を差さないようにしないとな!!」
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