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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第四章 Cog by cog

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歯車は嚙み合う―⑩―

 ダグラスの心身の熱さは冷めなかった。


 むしろ、()()()()()()()()()()()()


 “()()()()()”に()()()()()()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()


 かといって、炎に囲まれたガレージの熱を帯びているからでもない。


 ただ、中途半端な政声隊(チンピラ)との戦いに見舞われた日々。


 退屈していたこと。


 ロック=“スパイニー・ノーマン”=ハイロウズに、()()()()()()()()()()()()()()()


 それが、ダグラス=スコット=クレイが()()()()()()()()だ。


――()()()()()()()()()()()()!!


 退屈に殺されそうだったダグラスを満たしてくれる()()が。


 しかし、“()()()()()”という()()との楽しみを()()()()()()に奪われた。


 その怒りはある。


 しかし、(スパイニー)と味わうはずだった()()()()()()()


 それと同じ質をもたらしてくれるなら、()()()()()()()()()()()構わなかった。


「おいおい、前菜(オードブル)を逃して、肌晒す粗相をしてんじゃねぇよ?」


 ダグラスの渇望が、不思議とその声によって徐々に静まっていく。


 目の前の“牛男”の擬獣(エミュレータ)も、視線を声の主に目を向けた。


 声の主は、ポンチョを纏った細い男。


 ぞんざいな口調の割に、仮面舞踏会を思わせる笑顔をしていた。


 その男の名を、ダグラスは口に出した。


「……“コロンバ”」


 その名前は、牛男の目に映る“別の戦い”――エヴァンスと狼男――をも中断させた。


「お前の言う『血が(たぎ)るような戦いが欲しい』というのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 今度は低い声が、エヴァンスと“狼男”の間を割る。


 一糸まとわぬエヴァンスと狼男の間に立つのは、禿頭の男。


 彼の顔は“コロンバ”と違い、罪人を震え上がらせる、地獄の入り口にそびえたつ怒り顔の石像を思わせる。


「テメェ、“ケンティガン”!! ()()()()()()()()()()()()!!」


 エヴァンスと向かい合っていた人狼が、怒りを彫り込んだ禿頭の男に反応した。


 今にも爪と牙を剥いて、飛び掛かろうとするが、


「ライト、バイス、下がれ」


 声と共に、狼男と牛男の二人が声の主に反応。


 声の主の両側に、並ぶ。


 狼男と牛男の間に立つのは、深秋を彩る広葉樹の様な赤毛の男。


「“パトリキウス”……ペットの(しつけ)の良さには、恐れ入るぜ……その秘訣を教えてもらいたいものだ」


 “コロンバ”がポンチョを揺らしながら笑う。


 しかし、()()()()()()刀剣を思わせる眼が、赤毛の男――“パトリキウス”――からダグラスに向かった。


 口で語るまでもなく、ダグラスはコロンバの横に素早く並ぶ。


 それから、“コロンバ”からタオルを渡された。


 バスタオルは胴を覆うには十分な大きさで、


()()()()()()()()()にも、な」


 コロンバに促されたダグラスは、肌を晒したエヴァンスにバスタオルを放り投げる。


 エヴァンスは羞恥を覚えながら、バスタオルを受け取った。


 彼女はタオルで胴を覆うと、“ケンティガン”の後ろに隠れる。


「……さて、どうするべきかな?」


 貼り付けたような笑顔で“コロンバ”が言うが、


「去れ」


 “パトリキウス”は二の句を継がずに言う。


 その口調と視線に、会話を楽しもうとする意志はない。


「お前ら“ホステル”が、ここが()()()()()()()分かっていて聞くなら――」


「わかってますよ、わかってますよ……上万作(あまんさく)と伊那口の境界なんでしょ……“B.L.A.D.E.(ブレイド)”地区で」


 ダグラスの前の“コロンバ”はおどけながら、(そら)んじる。


「同時に言うと、“パトリキウス”君の率いる“ソカル”の()()()で」


 “パトリキウス”の隣の人狼――ライト――がコロンバに爪を向けるが、彼に制される。


 “ソカル”。


 スコットランド・ゲール語で、“(なぎ)”を意味する言葉だ。


 同時に、“パトリキウス”を代表とする組織の名前である。


 そんな、“赤毛の男”は“コロンバ”に鋭い視線を送った。


 言葉次第では、()()()()()()()()()()()()の。


「そういえば、“ブリジット”は元気? 最近見てないから――」


「ほざけ、その理由は()()()()()()()()()()()()ことだろう?」


 “パトリキウス”は、“コロンバ”の一言を切り捨てる。


「そうだよね……そっちでも、()()()()()()()いるから大変だもんね」


 “コロンバ”が言うと、“パトリキウス”は逃がさない。


「話を逸らすな。お前たち……何を起こそうとしている?」


 “パトリキウス”の一言で、“コロンバ”と“ケンティガン”との間の()()()()()()()()()


 “ケンティガン”の背後にいる、エヴァンスもそれを感じ、震え上がっていた。


「昏睡者が目覚め始めている……()()()()()()()()()()。それで、お前ら“ホステル”による()()()()()()()()()()だ。何を狙っている?」


「……そりゃ、()()()()()()……」


「認めるか。それなら“()()()”は愚か“()()()”も一掃すれば良いじゃないか……回りくどいのは、()()()()()()()


 “パトリキウス”がコロンバを畳みかける。


そして、呼吸を入れ、


()()()()()()()()()()()、その()()()()()()()()()()()()掃除してるはずだ」


 “パトリキウス”の視線が、ダグラスに向けられる。


 ダグラスは、()()()()()()()を、身を以て体感した。


 隣のエヴァンスにいたっては、寒気と吐き気を覚えたのか蒼白になっている。


「まあ……あれだ、(はさみ)と同じように、()()()()は使いようがあるんだよ?」


 “コロンバ”の人好きのする笑みで、“パトリキウス”は要領を得たのか、


「……ああ、“七聖人”への()()()。あの遊びを未だに興じているか」


 ダグラスは心の内を晒されたように、身体から熱気の放出を覚えた。


「……“ホステル”の中で、お前や“サロメ”は興味がないから……大方、応じたのは“ケンティガン”で、挑んだのは、そこの“()()()()()“といったところか?」


 “パトリキウス”の冷笑が、素肌に突き刺さる。


「断る理由がない」


()()()()()もないだろう……こいつらが、ご執心する“()()()()()()()()”の“首”辺りで引き受けたんだろう?」


 “ケンティガン”は、鼻を鳴らし沈黙を守る。


 “パトリキウス”は、禿頭の男の沈黙にため息を吐いて、


「どんな児戯を興じても良いが、ここで大騒ぎするのは止めてもらいたいものだ……()()()()()()()()()()、な」


「分かってるよ……こっちも、()()()()()()()()()を得ている身だからね……()()()()()()()()()()()


 “パトリキウス”は踵を返し、炎の壁に向けて歩く。


 彼に従う、人狼のライト、人牛のバイスは彼に続いた。


 ライトは、“ケンティガン”に()()()()()()()()()()()()()()()()、彼への怨嗟を送って主の後を歩く。


「……おい、ぼさっと突っ立ってんじゃねぇよ?」


 コロンバに言われて我に返る、ダグラス。


 “ケンティガン”の後ろのエヴァンスも、コロンバに向く。


「こっちも()()()()()だ……()()()()()()()()とな」


 炎に包まれたガレージで輝く、コロンバの笑顔。


 ダグラスは、彼の仮面舞踏会の笑顔から、()()()()()()()()を連想した。

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© 2025 アイセル

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