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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第四章 Cog by cog

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歯車は噛み合う―⑨―

 一平は、足元への一発目の射撃を、後退して避ける。


 二撃目は、彼の頭を狙うが屈んで、彼らからひたすら間合いを離した。


 ロックはこの光景を見て、腹の底から怒りの炎で熱せられた溶鉱炉が爆発寸前となる。


「『()()()()()()』だったか、“スパイニー”?」


 ダグラスの拳から伸びた白銀の刃が、ロックの懐を捉える。


 ロックは籠状護拳(バスケットヒルト)で受け、ダグラスから離れる。


 そして、一平と背中合わせになり、


「エヴァンス……テメェ、“()()()()()”で、“()()()()()()()を操っているな!?」


 ロックの一言に驚いたのか、背中合わせの一平は言葉でなく、息を漏らした。


「ご明察……“スパイニー”、“雷命の蔦フィオナイン・ジャラナイク”……()()()()()()()()、こんな使い方が出来るのよ」


 エヴァンスの嗜虐めいた笑みに呼応するように、静電気の勢いが増した。


 二人の“政市会”会員の男が、杭を背に刺されたかのように起立。


 電気が走り、身体を弛緩させた。


「……こんなの、聞い……て……ないよぉぉぉ」


「……痛……い、よ……」


 男たちから痛みによる涙が、二対の眼から溢れ出る。


「こいつら、傑作よね……“政声隊”を多人数で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」


 エヴァンスは二人の苦痛を、最高の娯楽見つけたかのように、弾けて笑う。


「僕は常々思うんだけど、“()()()”にも()()()()()()()()、『自分が世界を背負っている』と思い込んで、やることは()()()()()()()()()()()()だよね……“政声隊”を相手にしても、“政市会”を味方していても、()()()()()()()()()()()()()()()だよねーー」


 ダグラスが、笑いをこらえながら、ロックと一平を見下している。


 しかし、二人の男性が()()()()()()()ところで、ダグラスは失笑。


エヴァンスは嫌悪感を隠そうとせず、


「うわ、汚い」


 両脚の電撃を放った。


 二人は一際大きく弛緩させる。


全身の血が沸騰した様に、赤紫色となり絶命した。


「……こいつら!!」


「一平……()()()()?」


 一平は、ロックの一言に振り返る。


 一平の目に映る、ロックの眼。


 炎を受けて、煌いていた。


「ダグラス、エヴァンス……()()()()()()()”と“()()()”、()()()()()()()()?」


 毛皮の長外套(ロングコート)の男と白いハーフコートの女は、鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔になると、


「……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


 二人の刺客の顔に嚇怒が宿る。


 そして、一平の“ライオンハート”から、()()()()()()()()爆轟咆破ルガ・アン・スプレガイ”の二つの炎が、彼らに迫った。


 ダグラスは勝ち誇った笑みで、”銀の血蜜トーヴ・アルギッド・スアス”の銀色の刃を振る。


 斬閃は炎となり、一平の攻撃と衝突する刹那。


 ロックは、“ブラック・クイーン”の柄から半自動装填(セミオートマチック)式の拳銃型命導巧(ウェイル・ベオ)、“イニュエンド”を取り出す。


 銃口が火を噴くと、二つの炎を()()()()()()()爆炎が発生した。


 ダグラスとエヴァンスは、驚きのあまり口を開ける。


 しかし、声は出ない。


 その代わり、()()()()()()()


 炎はダグラスの身体を覆い、エヴァンスはその残り香を口に含んでしまう。


 やがて、炎がダグラスは外から内。


 エヴァンスは、内から外への炎に喘いだ。


「……何が起きた、ロック?」


 一平が戸惑うと、二人の炎が結びつき、爆轟を放った。


 空気を揺らすと、


「……“リア・ファイル”で作った、サーモバリック爆弾だ」


 ロックは答える。


 サーモバリック爆弾。


 燃料帰化爆薬の発展形でもある、気体爆薬である。


 サーモバリック爆弾は、三段階の爆発現象からなる。


 まず、固体から気体への爆発的な相変化。


 次に、分子間の歪みによる自己分解による爆発。


 最後に、()()()()()()()()()()()()()()()


 ダグラスの“ザ・ネーム・オブ・ザ・ゲーム”による”銀の血蜜トーヴ・アルギッド・スアス”は、スーパーテルミットを使う。


 しかし、物質の燃焼は――過程はどうであれ――()()()()()()()()()()


 ロックは、彼の攻撃の()()()()()()()()()()爆弾を“リア・ファイル”の疑似物理現象“供物を味わう舌(チェンガ・ラサール)”で生成したのだ。


 一平の爆轟咆破ルガ・アン・スプレガイも必要だったのは、エヴァンスも倒すためだ。


 ロックがダグラスを倒せても、ナノリボンで誰かを操れるエヴァンスは厄介だ。


 一平の炎を媒介に、エヴァンスも巻き添えで火達磨にしたのだ。


「一平、逃げるぞ!?」


 ロックが“ブラック・クイーン”に“イニュエンド”を収め、走り出す。


一平が思い出したように続いた。


 ダグラスとエヴァンスは、現時点で()()()()()()()


 それどころか、死ぬ寸前で“リア・ファイル”による再生で、()()()()()()()始末だ。


 しかし、二人の間に大きな炎の塊が、降り立つ。


「……こいつら……」


 ロックの前にいる炎の塊。


 人型となっていくが、それは一糸まとわぬダグラス。


 喉がランプか何かを思わせる、銀と橙に点滅している。


 ロックが後ろを振り向くと、一平の先にいた炎の塊が女の形――エヴァンスを作り出した。


「……“スパイニー”!!」


「熱い……熱いわ、お前ら!!」


 ダグラス、エヴァンスの口々の怨嗟が、ロックと一平を捕らえる。


 ロックは、息を漏らす。


 ダグラスに恐れをなしたわけではない。


 彼よりも、()()()()()を見たからだ。


 二メートルほどだろうか、それは手の甲を振ってダグラスを吹き飛ばした。


「ロック、なんだありゃ!?」


 背後の一平に、再び目を向けると、()()()()()()()()()エヴァンスを切り裂いた。


「こいつら……擬獣(エミュレータ)か!?」


 ロックの目の前の風は、人の形をしていたが、犬耳が生えていた。


手足の爪も人よりも大きく、鋭い。


ロックの目の前の、大男は牛の角が生え、牛の毛並みに覆われていた。


「……何それ?」


「……端的に言うと、獣人だ……“リア・ファイル”由来の」


 リア・ファイルを使う方法としては、主に命熱波(アナーシュト・ベハ)と“命導巧(ウェイル・ベオ)”を用いるものがある。


 しかし、“リア・ファイル”を()()()()()()()使える者が稀にいる。


 例えば、発火能力者や念動力を扱う、“エクスキューズ”がそれである。


 しかし、人体を強化する上で、“リア・ファイル”を介して動物の形態を模倣する者は、擬獣(エミュレータ)と呼ばれている。


「恐らく、“ソカル”だ。こいつらともことを構えているなら、話は早い。一平、逃げるぞ!!」


 ロックが一平に呼びかけると、


「“スパイニー”!!」


 ダグラスの叫び声が後ろから響いた。


 しかし、牛男と狼男が、半“ウィッカー・マン”二人に攻撃を仕掛けてから、声が遠のいていく。


 炎で焼かれるガレージを、ロックと一平は抜けていった。

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© 2025 アイセル

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