歯車は噛み合う―⑦―
「炎を使うのか……」
「……ただの炎じゃない」
冷や汗を拭いながら言う一平に、ロックは否定する。
「粉末アルミニウムと酸化鉄のテルミット反応だが……」
「花火の弾ける音で有名な、あれかよ?」
ロックは一平の疑問に首を横に振り、
「それは、あくまで一般的な粉末だがナノ粒子になると、話が変わってくる」
ロックと一平の視線に、炎の海を作り出したダグラスが気付いた。
彼は両手を開き、炎の熱を愉しんでいる様を二人に見せつけている。
「ナノ粒子化されていると、表面積対体積比が大きいから、燃焼速度が速い。掠っただけでも燃焼するから、下手な火器よりも殺傷力が高い」
ロックは“命導巧”:“ブラック・クイーン”を右手に持つ。
一平が、ロックに合わせて、“命導巧”:“ライオンハート”を構えた。
「アタシを忘れていないー!?」
上空からの上機嫌ともいえる上擦った声に、一平が“ライオンハート”で対空射撃を行った。
爆轟咆破による、火球は声の主のエヴァンスを捉える。
エヴァンスの靴から生えた刃が、火球を食らう。
「弾いた!?」
隣の一平が愕然とする。
エヴァンスの靴だけではない。
両足を中心に、雷鳴が蔦の様に這い、彼女の肢体を包み込む。
「エヴァンスの“命導巧”:“ダンシング・クイーン”……元々は、脳波によって可変する靴の刃が武器だったが……」
ロックの言葉が詰まり、
「“スパイニー”、素直に言っちゃいなよ……アタシの両脚をぶった斬ったってね!!」
降り立ったエヴァンスの言葉に、一平が戸惑い、
「でも、あいつ、両脚が!?」
「……普通の脚じゃない、“リア・ファイル”が勝手に作り上げた“ナノマテリアル”の塊だ!!」
エヴァンスの脚を構成するナノマテリアルとしては、強度が2cm以上あり、かつ軽量の防弾ベストだろう。
そんな素材として候補に挙がるのが、エポキシ母材にケイ素と酸化チタンのナノ粒子、二酸化ケイ素のナノ粒子を混入したポリマー、プラスチックよりも軽量かつ100倍もの強靭さを持つカーボンナノチューブだろうか。
「ロック……お前の言っていることは、『あいつの脚は現段階で技術的に再現できないもので出来てる』って、聞こえるんだけど!?」
「一平、その通りだ。オマケを付けるなら、ナノリボンという重量と熱に強い、炭素一個分の厚みを持つグラフェンを細長くして、銅の約100倍の電気負荷に耐えられるモノも両脚に組み込まれている!」
ロックの右隣りの一平から言葉が消える。
「そうよ、“スパイニー”!! でも、あと一つ加えることがあるなら、私たち“スコット決死隊”……その“リア・ファイル”のナノリボンによって、生かされているってことだけど」
「こいつら、それじゃ……」
エヴァンスの言葉に戸惑う一平に答えるのは、ロックではなかった。
「そうさ、まともな“死に方”が出来ないんだよ、僕たちは……死にそうになるたびに死を上回る激痛の伴う再生によって蘇生させられるんだよね!!」
ロックの隣の一平は、顔を蒼白にしている。
一平の世界における“UNTOLD”は、せいぜい喧嘩沙汰しかないのだろう。
同時に言えば、ロックの一平の勝ち方。
その恐ろしさの片鱗を垣間見たに違いない。
「だから……一平……」
「逃げねぇよ」
ロックの言葉に、一平がぴしゃりと言う。
「周りを見て思うんだけど、放っておいたら?」
「焼き尽くせる限り、焼き尽くす。切り刻める限り、切り刻むだろうな」
一平の言葉に、ロックは近未来を予測して言った。
「実質、“スコット決死隊”は人の形をした“半ウィッカー・マン”だ」
「なら、俺たちの“命導巧”でどうにかしないといけねぇな」
ロックの断定口調に、一平は“ライオンハート”を構えた。
――……“ベネディクトゥス”、人を見る目だけは確かだ。
よく考えれば、喧嘩魔止まりなら一平は、“スコット決死隊”と同類でしかない。
ロックは肩をすくめて、“ブラック・クイーン”を逆手に構える。
どんなに呆れた顔をしているかと考えたが、ダグラスの青白い眼の中のロックは不敵な笑みを浮かべていた。
「……“スパイニー”、あんたの眼付……すごいムカつくわね」
「エヴァンス、腹が立ちはしないが少し……物足りないな」
猫科を思わせる目付きのエヴァンスに、ダグラスは考え込む。
「そうだ……獰猛さが足りないな、エヴァンス!!」
「じゃあ……彼に殺し甲斐を与えるために……」
二人の目付きが、彼らに付いてきた二人の“政市会”会員に向いた。
「殺すとかウダウダ言いながら、他所見してんじゃねぇよ……毛玉野郎?」
ロックは予備動作なしで、ダグラスの顔面に籠状護拳越しの右拳打を放った。
ロックの声に、張った顎で歪んだ笑みを浮かべたダグラス。
ダグラスは、反撃で左腕の針の刺突を繰り出す。
ダグラスの180㎝の身長でガタイのある肉体から放たれた拳に、170㎝のロックは中肉中背で受け止めた。
衝撃に競り負けたロックは、ダグラスの間合いから吹っ飛ぶ。
茶色の長外套の右袖から放たれた銀色の雫が、ロックの“ブラック・クイーン”に粘度のある液体となってこびりつく。
ロックとダグラスの眼が合う。
ダグラスの眼には、ロックの他に一平が映っていた。
「一平、ダグラスから距離を離せ!!」
ロックの警告に、一平はフットワークを利かせて後ろへ下がる。
ロックの“命導巧”に付いた銀色の雫。
ダグラスの右腕から同じものが放たれ、大地を銀色に染める。
そして、ロックと一平との間に境界も作る。
「他所見してんじゃないよ!?」
一平の上空から襲い掛かる、エヴァンス。
彼女の“命導巧”:“ダンシング・クイーン”の蠢く刃が、一平の頭上で踊る。
一平は駆けて、エヴァンスの凶刃を躱した。
エヴァンスの“ダンシング・クイーン”が、一平のいた場所を切り裂く。
一平は、“命導巧”:“ライオンハート”の爆衝烈拳の衝撃破の鎧で、地を貪るエヴァンスに迫った。
しかし、一平とエヴァンスとの間にも撒かれていた“銀色の雫”。
ロック、一平とエヴァンスの間に炎の壁が立ち上った。
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