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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第四章 Cog by cog

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歯車は噛み合う―⑥―

「“スコット決死隊”……ダグラス=スコット=クレイ……」


 ロックはうんざりして、目の前の男――ダグラス――に吐き捨てる。


 しかし、ロックの嫌悪感を無視しているのか、あるいは()()()()()()()()()()()()()()のか、燃える廃車を背にダグラスは胸を張っていた。


 胸元を開けたシャツを囲むように、胸元を開けた茶色の毛皮の長外套(ロングコート)を纏うダグラス。


 彼の右手には獅子の頭を模した手甲。


 そして、左手には、針の突き出た手甲が装着されていた。


 胸を張り、見下しながら、ダグラスは笑いを噛み締めている。


「ちょっと……少しはゆっくり歩きなさいよ!!」


 炎に見向きもしない、腿の丈までの白い外套(コート)の女が乱入する。


 女の両脚は、白いコートを反射する銀色に染まり、炎色にも染まっていた。


 二人の男も彼女に続き、羊の頭蓋の銃型“命導巧(ウェイル・ベオ)”スウィート・サクリファイス“を装着している。


「……エヴァンスもかよ」


 ロックは天を仰いだ。


 ロックにとって、恐らく()()()()()()()()()世界で最も会いたくない者たちだ。


「こいつらの武器……そういうのを扱う槍使いや二刀流の奴らがいた気が……」


 隣の一平が呟く。


 ロックは、一平の一言で()()()()()を感じ取った。


「君か……ディンズデールとシリックを倒してくれた、ガキは!?」


「……いや、コイツらの仲間を叩きのめしたの、お前だったのかよ!?」


 ダグラスとロックは、ほぼ同時にツッコミを入れた。


 “スコット決死隊”の六人のうち二人が、上万作(あまんさく)学園でサキに紹介した時点で、“ワールド・シェパード社”の日本支社に()()捕まったことは知っていた。


 まさか、この喧嘩魔(一平)が絡んでいるとは、思ってもみなかった。


「変な奴らだったよな……『”スパイニー”がどうのこうの』で戦ったけど、弱かったな……」


 一平が、ロックはおろか、ダグラスも関せずに、その時の様子を思い浮かべていた。


 一平は、パーカーのポケットに手を入れながら、「今日の天気」が気になる感覚で言葉を繰り出す。


 そんな彼の一言一言に、ダグラスとエヴァンスは押し黙っていた。


 ()()()()()()()()


「……一平、そこまでわかるならコイツらの紹介はいらないな……()()()()()()()で良い」


 ロックは肩をすくめていうと、


「ちょっと……“スパイニー”、あんた……もう少し、説明したら?」


「じゃあ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 エヴァンスの抗議に、ロックは“翼剣型命導巧(ウェイル・ベオ)”:“ブラック・クイーン”を構えると、


「じゃあ、早速()()()()()()()()、スパイニー!?」


 ダグラスが左の針の付いた手甲を突き出した。


「前の二人組と、こいつら……さっきから、スパイニーって言っているけど……ロックのこと?」


 一平が今気づいたように言うと、


「あのやり取りで、今()()()()()()()()()()()()()、俺が『()()()!!』って始めからツッコんでるわ、バカ!!」


 ロックは叫ぶようにして言うと、右手の“ブラック・クイーン”からナノチタニウム製の刃を展開。


 それを合図に、ダグラスが突っ込み、エヴァンスが飛翔した。


 エヴァンスは一平を標的にする。


ダグラスの獅子型手甲の拳撃が、ロックの左頬を捉えた。


 ロックは右逆手に持ち替え、籠状護拳(バスケットヒルト)による拳で応戦。

 

ロックとダグラスの右拳が、“命導巧(ウェイル・ベオ)”越しにぶつかり合う。


 衝撃が拮抗し切り、ロックは跳躍。


 斬り上げながら、水の鋸を発生させる穢れなき藍眼(スール・ヒンプリィ)で、渦を巻いた右回し蹴りでダグラスの左頬を抉った。


 蹴りの衝撃で大きく後ずさる、180cmのダグラス。


 そして、二人の“政市会”会員が、宙にいるロックへ“スウィート・サクリファイス”を構える。


 ロックは“ブラック・クイーン”から“イニュエンド”を取り出す。


 ダグラスと二人の“政市会”会員に向け、それぞれ銃を撃った。


 二発の銃弾が、目の前で炸裂。


 水蒸気の煙幕をまき散らした。


 定めに濡らす泪フアスグラ・ウイルイエアダサン


 水の沸点は100℃で状態変化を起こす。


しかし、それは()()()()()()()()()の話だ。


 水を常温から一気に加熱した場合、“ライデンフロスト現象”が発生する。


 熱したフライパンに水滴を垂らしたら、水球を作り、横滑りするのが身近な例だろう。


 水が熱せられ、接触する部分から膜を作り、水蒸気が水滴の下から対流して推力を得ることが理由だ。


 同時に、水はこの時、超高熱を含み膨張する。


ロックは、それによる煙幕を張ったのだ。


ダグラスと二人の“政市会”会員が、視界を奪われ、狼狽える。


「なにコレ!? 何が起きたの!?」


 上空で、銀色に輝く両脚を曝しながら、エヴァンスは超高熱を含んだ水が弾けた爆風に飛ぶ。


 エヴァンスの攻撃に備えていた一平も虚を突かれ、


「一平、逃げるぞ!!」


 ロックに言われて、一平が後ろから続いた。


「ロック、どういうことだよ!?」


「よく周りを見てみろ!! 4人の相手と戦える環境か!?」


 ロックに促されて、一平は周囲を見渡す。


 一平もようやく、気づいたようだ。


 ロック達は四方に囲まれた廃車で、先ほど戦っていた。


 しかも、ガレージ自体が入り組んで迷路となっていて、順路も三人が通れるかくらいの狭さである。


 一対一(タイマン)ならどうにかなるだろうが、“命熱波(アナーシュト・ベハ)”と“命導巧(ウェイル・ベオ)”を持ったのが二人もいたら、機動力を失われることこの上ない。


「それと、ダグラスと言う“()()()()()()()()()()”……攻撃だが、()()()()()()()()


 ロックが一平に話していると、“政市会”会員がガレージに駆けこんできた。


 両腕の“スウィート・サクリファイス”がロックと一平に向けられる。


 そして、熱風がロックの背中を舐めまわした。


「一平、左だ、避けろ!!」


 ロックは叫び、一平の上から覆いかぶさった。


 一平の戸惑いの声と共に、熱波と轟音が響く。


ロックが振り返ると、()()()()()()


塊は、ロックか一平を覆うほどの大きさ。


()()()()()()()()()()()()を思わせるが、それが口を大きく開けた。


その姿を見て叫ぶ、政市会会員たち。


「お前ら、逃げろ!!」


 ロックが叫ぶ。


しかし、彼らの内の一人が耳を傾けた時には、既に炎の(あぎと)の一飲みに終わっていた。


 政市会会員が、火達磨となり、走り回る。


 しかし、何人かは叫びながら荼毘に付された。


「……なんだよ、これ……」


 一平の顔から血の気が引いていく。


「“驢馬の一嚙み(スグロク・ナセイル)”……ダグラスの“疑似物理現象”だ」


 ロックと一平は、大きなしゃれこうべの炎の軌跡の大本に目を向けた。


 火の海に包まれたガレージを背景に、咆哮を上げるダグラス=スコット=クレイ。


 それは、ロックへの恨みと共に、拘束を解かれた歓喜を思わせた。

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© 2025 アイセル

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