歯車は噛み合う―④―
午後1時47分 上万作市内 海浜公園 展望台
「なんか、アイツらおっ始めやがったよ……」
「これ、俺らチャンスじゃね?」
ダグラス=スコット=クレイの横で話すのは、二人の男性――”政市会“会員である。
両腕は羊の頭蓋を模した、遠距離用の“命導巧”、“スウィート・サクリファイス”を装備していた。
「いや、まだだな……」
二対の目が、ファー付きの茶色の長外套を纏ったダグラスに注がれる。
「というか、それって……あなた達、今戦っている奴らと少し前に戦って、どういう結果だったか、わかって言っている?」
ダグラスの隣にいる腿までの丈の白い外套を着た女――エヴァンスが睨め付けながら言った。
彼女の言葉に、二人の男は押し黙り、沈黙が訪れる。
二人の男は、海浜公園の展望台から携帯通信端末で撮影して、ダグラスはスマホの先を見据えた。
瀬戸内海と、日本三景として有名な“安芸の宮島”を見渡せる公園として有名だ。
ただし、“白光事件”以前の話である。
加えて、伊那口との境界に近いので、誰も来ることは無い。
しかし、それでも“スコット決死隊”のダグラスとエヴァンスが、公園に足を踏み入れた理由は、そこから見える二人の男の戦い。
“政市会”会員の二人が、この公園でバイトの間の休憩をしていた時に二人の決闘に出くわした。
“政市会”本部に連絡が行き、その結果、ダグラスとエヴァンスの二名が来た。
四人の注視する戦いを彩る、二人の男たち。
一人は、上万作学園で“命導巧”を使い、政市会と政声隊を相手に大立ち回りを繰り広げた、斎藤 一平。
もう一人は、”スコット決死隊”の悲願とも言える標的だ。
――“スパイニー・ノーマン”!!
ハリネズミという敬称は、ダグラスと、この場にいない弟のディンズデールがロック=ハイロウズに与えたものだ。
「スパイニー…スパイニー…!!」
深紅の外套を見る度に、心が震える。
あの時に対峙した、ロック=ハイロウズから溢れ出る紅黒の闘気。
思い出すたびに、喉元の痛みをダグラスは覚えた。
「ダグラスさん、大丈夫ですか!?」
そういうのは、“政市会”の二人の男たち。
彼らの顔が蒼白になっていると、
「悪いな……驚かせて。しかし、アイツを見ると、どうしてもノドが疼いて、焼き切れそうなんだ……」
ダグラスの回答に、二人の男が戸惑っていると、
「その人……喉を切られたのよ。あの、紅いコートのガキに……」
エヴァンスの言葉に、二人の男は納得するどころか、大きく目を見開いた。
「……それって!?」
「……死んでないっすか!?」
口々に言うが、
「残った血管の種類によっては、生き延びるらしいんだ……僕の場合、“リア・ファイル”が損傷した血管を全部修復してね!!」
二人の男の一対の眼が、ダグラスに突き刺さる。
それは、赤色から銀色に明滅を繰り返す喉元。
ダグラスの興奮に呼応して、喉は鳴動をしていた。
彼の歓喜とも憤怒とも取れる感情に戸惑う二人の男が視線で、エヴァンスに助けを求めた。
しかし、彼女も、
「そうなのよね……私も、二つ一度に失えば、普通死ぬはずなのよね……両脚!!」
白と銀、彼女の両脚も明滅を繰り返していた。
「君たち……僕たち“スコット決死隊”は、“リア・ファイル”に生かされているんだよ!! 死ねないんだよ……ロック=“スパイニー・ノーマン”=ハイロウズによってね!!」
「そうよ……死にかけて、生き返ったけど……それを上回る“再生の痛み”と“死にかけた悪夢”の交互に私たちは悩まされているのよ!」
二人の男が引きつった。
二対の眼は、一人の人間ではなく、感情のまま動く人型の何かと判別の出来ない像を浮かべた。
「……君たち、それに比べて……手足が折れただの、歯が折れただの……」
「……頬骨が砕けた? 肋骨が粉砕骨折!? “リア・ファイル”が治してくれるじゃないのさ!! 治してくれても、跡が残らないじゃないのさ!?」
ダグラスとエヴァンスの慟哭が、白昼の公園を揺らす。
上万作学園の大乱闘で負傷した“政市会”会員たちを目にした。
死んだ者が誰一人いない。
ケガが原因で死の淵をさ迷ったものもいなかった。
「君たち……まだ、生きている!! 死んだこともない!!」
「その上、五体満足じゃないの!? 跡も残らないじゃない!! それなのに、抜けたい、止めたいって!?」
ダグラスとエヴァンスを始めとした“スコット決死隊”は、負傷した“政市会”会員たちに憤慨した。
あの“スパイニー・ノーマン”に遭遇しても、生き残っていたことに。
「実に遺憾だ、誠に遺憾だ!! あの時も、戦いがあったのに、僕たちは参加できなかった!!」
ダグラスが悔しがるのは、昨日の国道沿いの戦いだった。
何でも、“望楼”と“政声隊”が中心だったらしい。
「そうよ……ディンズデールを倒した、槍使いが出てたらしいじゃない……しかも、車の事故で行けなかったのよ!!」
エヴァンスも感情の炎を更に燃え上がらせた。
「だから、今回は見逃せないんだよ!! 僕たちがスパイニー・ノーマンから解放される為に!!」
ダグラスは両拳に力を籠める。
両拳には手甲が覆われていた。
右手には、獅子の咢。
左手の甲からは、30㎝ほどの太い針が突き出ていた。
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