歯車は噛み合う―③―
ロックは右手と共に“ブラック・クイーン”の籠状護拳を突き出した。
一平はロックの大振りの一撃を躱す。
一平は、左の軽拳撃でロックに応戦。
ロックは後方に下がり、間合いの確保を試みた。
ロックは右の半身を下げ、左の直蹴りで一平の胴を狙う。
しかし、ロックは攻撃を止める。
一平の右腕の“ライオンハート”が火を噴いたからだ。
ナノマシン;リア・ファイルによる銃撃が、ロックの足元を抉る。
一平の右腕からの射撃を、ロックは跳躍。
空中で、ロックは逆手に構えた“ブラック・クイーン”の籠状護拳越しの鉤拳撃を放った。
鉤拳撃の軌道に沿って、“ブラック・クイーン”の“ナノチタニウム”製の斬撃を一平は紙一重で躱す。
しかし、切っ先と一平のパーカーの間に水蒸気が発生。
冷気を含み、刃の周りを水が覆う。
呆気に取られる一平に、ロックは右鉤拳撃の勢いを殺さずに、一回転。
左の後ろ回し蹴りで、ロックは一平の顎を狙う。
ロックの左踵を、一平は両腕の“ライオンハート”を突き上げた“ピーカーブーブロック”で防いだ。
しかし、防御を解いた一平の前にロックはいない。
日光と共に降り注いだ斬閃。
それが、一平の眼を奪うとロックは現れた。
ロックは空中から、“ブラック・クイーン”を両手に持ち替える。
振り下ろした刀身を水が覆い、電動鋸を思わせる刃を作った。
穢れなき藍眼。
水蒸気を融点に持ち込むことで、水の刃を纏う“疑似物理現象”である。
ロックは一平への初撃で、水蒸気を冷やした水で強化した蹴りと切り下しによる連携技を放ったのだ。
一平は、ロックの三撃目の刃に右手の“ライオンハート”を突き出す。
拳は橙色に輝くと、爆音が轟いた。
爆轟咆破。
物の燃焼を構成する、可燃物、助燃材、点火源を一つにした弾丸を放つ“疑似物理現象”である。
それにより、ロックの水の刃の熱力量を相殺。
熱気と冷気の衝突による爆轟と熱波で、一平はロックの強襲を吹き飛ばした。
地に降り立ったロックは、駆け抜ける疾風による、身体と神経の強化による超加速で水蒸気の中の一平に肉迫。
ロックは右腕を翼剣と共に突き上げようとするが、一平の姿は無い。
しかし、右半身を曝してしまったロックの腹に、一平の右中段回し蹴りが牙をむいた。
左腕でロックは、一平の右足を受け止める。
蹴られた衝撃に歯を食いしばりながら、ロックは一平の左脚を左わきに抱えた。
右に構えた籠状護拳で一平を殴りつける。
しかし、右から吹く風がロックを留まらせる。
左脇に抱えた一平の右脚はない。
同時に彼の体重が一瞬消える。
ロックは右腕を上げながら、下がった。
宙を舞う一平。
彼の左脚がロックの顎のあった位置を、襲った。
ロックが息を整えていると、一平は左回し蹴りの勢いのまま、全身を時計回り。
両足を大地に付けて、
「すげえ、身のこなしだな!!」
一平が大地に足を踏みしめて、喜ぶ。
――サルか何かか、こいつ!?
彼の顔に宿った喜びの色が、闘争心に染まる。
ロックは闘争心に染まる一平の眼の中で、肩で息をしていた。
ロックは、一平から先日戦った原田 龍之助と同種の匂いを感じ取る。
龍之助は、武術に長けていた。
しかも、彼の技のキレは戦うごとに増していく。
一平の場合、それが喧嘩だ。
相手と全力を出し合うことで、己を高める。
“格闘家”や“達人”と言える類だった。
――こいつは、苦手なタイプだ。
ロックの攻撃は、頭、肘に膝。
そして“命導巧”が主だ。
特に接近戦は、身体の中で硬い部分を徹底的に使う。
それにより、短時間で相手の制圧を完了。
だからこそ、複数との戦闘に慣れていた。
一人に時間を掛けないがゆえに。
加えて、ロックの必殺とも言える攻撃には致命的な弱点があった。
ロックは“ブラック・クイーン”の刃を消す。
籠状護拳と柄だけの“命導巧”を外套の革帯束に預ける。
ロックは前傾姿勢で、一平に駆ける。
一平もロックに応える様に、突き進んだ。
ロックに向けて、左半身を出す一平。
彼は、右拳の一撃を放つために、腰に力を溜める。
そして、ロックに向けて、弓から放たれた矢の様な一平の右拳撃。
ロックは左腕を上に、頭を下げてやり過ごす。
一平から放たれた左からの二撃目。
ロックは右腕を上に、左に半身を傾けて流す。
一平の三撃目は右鉤拳撃だが、ロックの左脚が阻んだ。
右腕が後ろ、左脚を前にして胴が空ける一平。
間髪を置かずにロックは、彼に連撃を仕掛ける。
ロックは左に身体を傾けながらの右直拳撃で、一平の喉を捉えた。
腰を入れた螺旋を描きながらの右直拳撃は、一平が左脚を後方に下げて不発。
すれ違いざまの一平の反撃の右直拳撃には、ロックは右腕で頭部を防ぎつつ、左直拳撃で鳩尾に放ちつつ直進。
ロックは、左直拳撃を引いてからの右直拳撃で突き進んだ。
一平の顔面へ勢いよく、ロックから放たれる右の一撃。
しかし、一平の眼が爛々としていた。
待っていた、と言わんばかりに。
ロックの視界から、突如として一平が消える。
そして、右殴りの暴風。
ロックは右頬に風を受けながら、“ブラック・クイーン”に手を掛けた。
ロックの“ブラック・クイーン”で防いだ右手から伝わる“衝撃”。
一平は、二時の方角からの攻撃――右回転から腕を伸ばした“裏拳”による一撃――を放ったのだ。
しかも、爆衝烈拳による衝撃破により威力が強化されている。
右手からの衝撃は、ロックの脳を軽く揺らした。
ロックの攻撃の弱点。
それは必殺故に、読みやすい点にある。
終着点が相手をねじ伏せるのであるなら、致命打まで待てば良い。
一平はそれが読めた。
別の言い方をすれば、時間を掛けないということは、それ以上となれば焦りが出る。
一平はその読みが、上手かった。
しかし、
――読めるのなら!!
“ブラック・クイーン”の籠状護拳の下の鍔が割れる。
鍔から出たのは、半自動装填式の拳銃。
ロックの出した隠し武器に、一平の眼が僅かに揺れる。
“イニュエンド”。
ロックのもう一つの半自動装填式拳銃型の“命導巧”だ。
見た攻撃で読むなら、見たことないもので攻撃するしかない。
ロックは、一平の顔に狙いを定める。
「――何!?」
ロックは思わず、吐き出した。
銃を突きつけた一平の反応。
爛々とした目を輝かせながら、銃身を頬張っていた。
一平の獰猛な眼に、ロックは思わず、右足を放った。
一平は、銃口から口を離し、一歩下がってロックの右足の一撃を逃れる。
「……ロック、お前は焦ると銃に頼る……大体、突き出されたら思考停止するからな」
一平は銃の味が合わないと言わんばかりに、吐き捨て、
「……英語で言うんじゃないのか……”Bite the bullet”(あえて困難な道を選ぶという意味の慣用句)……いや、この場合弾丸じゃなくて、銃身か?」
一平の闘気と歓喜に燃え上がる眼は、苦虫を嚙み潰したようなロックの顔を映していた。
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