歯車は噛み合う―②―
午後1時32分 船の墓場 上万作市と伊那口の境界
「よう、ロック……悪いな、来てくれて」
ロックの目の前に立つ男――斎藤 一平。
炎色の前髪を立て、それに合わせたパーカーを纏っている。
「……言葉の割には、楽しそうに聞こえるけどな?」
「まあ……これを全力で使える相手がいるからな!」
一平が両腕をロックに向けて突き出す。
少し前の大乱闘で見せた命導巧“ライオンハート”。
手甲型の命導巧で、拳に装着された銃口から炎が発射される。
「ついでに言うと、ロック……お前も、今日は持ってきてるな!!」
一平の目に映るロック。
深紅の外套を纏い、拳から肘ほどまでの籠状護拳を右手に持つ。
“ブラック・クイーン”。
その名前を知っていて、当初は驚いた。
しかし、彼とのやり取りで、その入れ知恵をした者に心当たりはあった。
「テメェが持って来いって言ったんだろ? まあ……良いが、一番気になるのはな……」
ロックが溜息をつきながら、
「どうして、お前がアイツの名を知っているのかってことなんだが?」
朝方、ロックは一平から“リーネア”を受け取った。
ロックのよく知る名前と共に、決闘の時刻と場所を一平が指名してきた。
場所は、“船の墓場”内のガレージ跡地。
ロックはそこまでの場所を、一平から教えてもらい、たどり着いた。
ガレージ内の一平のいう“訓練場”。
潰れた車が重なり、四方を囲っている。
その中で、二人の視線が絡み合っていた。
一平の眼は、炎の揺らぎ。
彼の眼が映す、ロックのそれは剣の鋭さだった。
「“ベネディクトゥス”……知る人ぞ知る奴だ……」
「……知り合いというか、なんというか……そうなの?」
「というか、もう、お前の命導巧が答えになってる気もするがな?」
“ブライトン・ロック社”が厳重に管理している命導巧を持ち出せる人物。
しかも、それが一平に渡っているということは、
「少なくとも“ライオンハート”が本来、イギリスにあるべき物をお前が持っている時点で、渡した奴は“ベネディクトゥス”か……それをブルースが黙認しているかしか考えられんしな」
ロックの中で、詰問相手にブルースも加わった。
「でもな、一平……“ベネディクトゥス”……その名は、俺にとって軽くない」
「やる気があって十分じゃねぇか!!」
一平が左手と左足を前に出す、拳闘の構えをして言う。
「すぐに終わらせてやる……サキとの約束があるからな」
ロックは構えるが、
「待て待て……お前、今なんつった?」
一平は、ロックの言葉に前のめりになりかける。
「……『すぐに終わらせてやる』?」
「違う、その後!!」
一平のツッコミに、ロックはややあって、
「……アイツとの勉強会の約束があった。お前のリーネアの前にな」
「……ダブルブッキングしちゃったの?」
一平の声が裏返る。
実は、昨日の業務用スーパーでサキと別れた後に、彼女からロックへ“リーネア”が来た。
停学で学校に行く暇がないなら、尚、勉強する意欲が出ない。
しかし、学生であるのにそれはよろしくないということで、サキから提案があったのだ。
ロックも勉強が実質、“ブライトン・ロック社”への報告書代わりなので、それに乗った。
「……日を改めようか?」
「一応、午後3時からだ。バスも把握しているから、大丈夫だ……お前の案内のおかげだ」
ロックの放った思わぬ賛辞に、一平は色々な爆弾発言に頭を掻きむしりながら、
「確かにそんなに掛からないからな……でも、心配するところはそっちか?」
ロックは訝し気にする。
一平の眼に映ったロックはそれから、獰猛な笑みを浮かべ、
「大丈夫だ……俺が時間までに叩きのめす!!」
「それ、俺の台詞かもということだけど、ね!!」
ロックは両腕で顔面を覆う。
右に持った“ブラック・クイーン”を前にして、突進。
一平もロックに合わせて、フットワークを前に繰り出す。
左半身を前にし、牽制の左の拳がロックの顔面に放たれた。
ロックはこれを予測して、右肘と“ブラック・クイーン”を振り下ろす。
一平の左肘関節への打撃で、左牽制を潰した。
ロックは、右肘と“ブラック・クイーン”の一撃を一平のガラ空きとなった顎に放つ。
しかし、それを読んでいたのか、一平の眼に炎を思わせる煌きが宿った。
ロックの左頬に、“ライオンハート”越しの右拳が食らいつく。
しかし、一平の眼が強張った。
ロックは一平の反転攻撃を予測して、左膝の一撃を一平の左膝に向ける。
一平は右拳の一撃を断念。
ロックから距離を離した。
「テメェ……膝を潰そうとしやがったな!?」
呼吸を乱しながら、一平が抗議する。
ロックは呆れながら、
「もしかして、ストリートでボディへの膝蹴りを期待していたのか?」
一平の反応からして、喧嘩は喧嘩でも、リング上の戦略が有効と思っていたのだろうか。
しかしながら、ロックは、その様な礼儀を持ち合わせていない。
ストリートにしろ、任務にしろ、相手との対峙は主導権の奪い合いを意味する。
つまり、手段を問わず、相手に対して有利に立てばいい。
そのために、間合いに入り次第、相手の足を奪う。
それが最優先事項だ。
「そういうことかよ……それはそれで、燃えるぜ!!」
一平は左半身を前に出し、“ライオンハート”を構える。
ロックの姿が、一平の両眼から消える。
“疑似物理現象”駆け抜ける疾風による神経強化で、ロックは全身の移動速度を高めた。
“リア・ファイル”による“ナノチタニウム”製の刃を籠状護拳と鍔だけの“ブラック・クイーン”から展開する。
逆手から持ち替え、ロックは一平の頭上に一太刀を浴びせた。
一平の眼が、ロックの一閃を捉える。
爆音が炸裂し、ロックは一平ではなく。空を切った。
しかし、刃を振りかぶったロックに一平の右の正拳突きが襲い掛かる。
ロックは“ブラック・クイーン”を逆手に持ち替え、防御に移った。
しかし、刃を叩く拳の音ではなく、何かが炸裂した音と衝撃が、ロックを揺らす。
ロックは衝撃を防ぎきるが、思わず胴を晒した。
それから、左の牽制打がロックの右頬を抉る。
ロックは後ろに避けた。
しかし、その軌跡から放たれる衝撃に意識を削がれかける。
意識を取り戻すが、ロックの眼前に一平の腹への痛打が肉迫。
ロックは“ブラック・クイーン”の横殴りの斬撃で、応戦。
斬撃と拳撃がぶつかる寸前、空気が爆発。
ロックと一平は、衝撃で一歩、後退った。
――こいつ、デタラメだ!!
一平の使った“疑似物理現象”は、“爆衝烈拳”だ。
拳銃の弾丸が発射されるのは、銃用雷管という薬莢の底部を撃針で衝撃を加えて発火するからだ。
一平が使ったのは、その際の“衝撃破”である。
爆風消火で炎を吹き飛ばす様に、爆轟現象で出る衝撃波を使って、拳を強化。
攻撃はもちろん、防御にも使える。
――“ベネディクトゥス”が目を掛けるだけはあるな……。
一平の強さが、その場の応用力だとしたら、速攻性のロックは早くケリを付ける必要があった。
――サキとの勉強……厄介な約束をしちまった。
ロックは右半身を下げ、一平と対峙して思った。
面白ければ、評価、ブックマークをお願いいたします。
© 2025 アイセル




