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【第二部完結】クリムゾン・コート・クルセイド―紅黒の翼―  作者: アイセル
第三章 Obstacles

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敵対―⑦―

 サミュエルは、踏みつけていた顎髭男の背を蹴る。


 カエルを踏み潰した様な声を出した男を下に、サミュエルは跳躍。


 持っていた“パラダイス”を振りかざした。


 折りたたまれた鎌が起立し、銃口を覆う。


 穂先が間崎の額に狙いを定めた。


 しかし、サミュエルの()()()()()()()()()


 彼の前に突き出された間崎の両腕を氷が覆っていた。


 サミュエルの振りかぶった大鎌が、遮られる。


「それ、チンパンジーが()()()()()()()()()()()()()という一芸?」


()()()()()()()()()()()()考えただけだ!!」


 間崎の言葉と共に、背後から現れる白い人型。


 サミュエルは、その伸ばした右手から冷気を感じ取る。


 “パラダイス”の鎌を折りたたみ、銃口を白い人型に向けた。


 サミュエルは引き金を引くと、銃声と共に金色の砂塵が人型を覆う。


 衝撃で、人型の作り出した氷柱(つらら)が吹き飛んだ。


 サミュエルも銃による斥力(せきりょく)で、間崎から距離を取る。


 金剛風波(スプレア・ガイエッフ)


 “リア・ファイル”によって作られた砂塵を、砂塵風射(サンドブラスト)の研磨剤に見立てて放った“疑似物理現象”だ。


 砂塵が衝撃と共に放たれることで、接近戦と煙幕にも使える。


 だが、地に足を付けた瞬間、サミュエルの眼前に間崎が肉迫。


 猛禽を思わせる眼の間崎に、サミュエルは咄嗟(とっさ)に“パラダイス”を横一文字に据える。


 硬質な意思を思わせる衝撃が、サミュエルの両腕の骨と肋骨を震わせた。


 拳の衝撃と炸裂した冷気が、サミュエルの頬を舐める。


 サミュエルが下がると、間崎の右腕のフックが空を切った。


 サミュエルは、“パラダイス”の鎌を起立させる。


 間崎の右肩を裂かんと、左から右斜め下へ振り下した。


 金の軌跡が、間崎の氷の籠手(ガントレット)――左腕の肘から下を削る。


 サミュエルの振り下ろした鎌の穂先が、土瀝青(アスファルト)を貫いた。


 しかし、土瀝青(アスファルト)が微かに氷に覆われている。


 サミュエルは、一歩下がった間崎の革靴も氷となっているのを見た。


()()()()()()()考えたからな?」


 間崎はサミュエルに、シニカルな笑みを浮かべる。

 

 氷の“コーリング・フロム・ヘヴン”の人型で、靴と土瀝青(アスファルト)を凍結。


 サミュエルの攻撃を、滑走して(かわ)したのだ。


()()()のマウントを楽しんでいる様で何よりだね!」


 サミュエルが吐き捨てると、腹への衝撃を覚える。


 寸前で“磁向防スキーアフ・ヴェイクター”を展開したサミュエルの目の前に、肉迫してきた間崎。


 彼の氷に包まれた右拳によるボディブローが、氷の土瀝青(アスファルト)による滑走でサミュエルに放たれた。


「随分、()()使()()()()()()()?」


 損傷を防げたとは言え、サミュエルは痛覚を紛らわせるように呼吸を整える。


「これの方が性に合っているようでね……適性があったんだ」


 間崎は左右にステップを取りながら、


「炎は焼き尽くすし、雷は一瞬だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 口の端を吊り上げた、間崎の嗜虐の笑み。


 彼の眼が、呼吸を苦しそうに整えるサミュエルを映す。


 間崎の背後の“力人衆”も、彼に同調するように苦しむサミュエルの姿を見て、悦に浸っていた。


――()()()()()()()()()()!!


 サミュエルに()()()()()()が、“力人衆”によって励起する。


 その中の()()()()が彼の五感を支配し始めた。


 眩暈を覚えて下を見ると、()()()()()()()()()()()()()()()()


 勝利を確信した間崎の獰猛な笑みが、サミュエルとの間合いを詰める。


「じゃあ、()()()()()()()()()()()()!?」


 間崎の勝利を疑わない瞳。


 サミュエルの繊細ながらも鋭利な笑みを映した。


 戸惑う間崎の足元に突き立てられた、“パラダイス”の鎌の穂先。


真名(ジェナム・エ):“ゲイ・ボルグ”!!」


 サミュエルの“パラダイス”が輝き、金色の旋毛風(つむじかぜ)が覆う。


 旋毛風は、紫電を放ち始めた。


 砂塵を一瞬にして一列に並べると、それは雷霆となる。


 雷霆が間崎の作った氷を伝い、稲光が間崎から発光。


 一瞬にして氷から走った電流が、間崎を感電させたのだ。


 液体の水に食塩を入れることで、電気が流れる。


 それぞれナトリウムイオンと塩化物イオンが、プラスとマイナスのイオンに分解され動くからだ。


 しかし、水の個体である氷はどうか。


 氷には、金属を流れる自由電子と言うものはなく、電気を帯びたイオンがあっても固体のなかで動くことはない。


 だが、()()()()()()、純粋な氷でもわずかに電気が流れることがある。


 純粋な氷には水を構成するH₂O分子が水素結合によって、互いに三次元的につながっている。


 しかし、氷の中の全ての分子がH₂Oの形を保持しているわけではない。


 水分子にプラスの電気を持つ陽子――プロトン――が余剰に結合したH₃O⁺イオンが隣接するH₂Oに余剰プロトンを渡すことが出来る。


 その受け渡しの繰り返しで、氷の中で電流が流れる。


 氷の場合はプラスの電気が流れるが、金属の場合は、マイナスの電気を帯びた電子が流れる点が異なる。


 これを”グロットゥスメカニズム”と呼ぶ。


 だが、H₃O⁺は氷中に大量に存在しない。


 加えて、流れる電流は半導体ほどの小さいものだ。


 プロトン移動の連鎖には受け側のH₂O分子が氷中で、わずかに向きを変える必要がある。


 別の言い方をすると、プロトン移動には()()()熱力(エネルギー)()()()()()


 その上、約-80℃以下では起きない。


 サミュエル側の電気エネルギーは、“命熱波(アナーシュト・ベハ)”を発生させる命導巧(ウェイル・ベオ)“パラダイス”の真名解放で得られた。


 本来、“ゲイ・ボルグ”は放電衝撃波を利用する。


 周囲を電気で爆発させ、その際に発生した砂塵を一列に放つ。


 その電気エネルギーを流して、人造“命熱波(アナーシュト・ベハ)”の“コーリング・フロム・ヘヴン”の発した“疑似物理現象”による氷の中の“リア・ファイル”に、サミュエルは働きかけた。


 そうして、プラスの電気の牙に間崎は囚われたのだ。


「じゃあ次の一芸、仕込まれてみる? ……少し古いけど、()()()()()()かオーソドックスに()()()……どちらか選ばせてあげるよ、バカなボス猿さん?」


 サミュエルの啖呵(たんか)に間崎は膝を折り、応えない。


 氷の籠手(ガントレット)もない。


 だが、彼の細い眉の下の切れ長の眼は上目遣い。


 手に得物があれば、すぐさまサミュエルに突き立てかねない、怒りに満ちていた。


 ふと間崎の目の中のサミュエルが、赤く染まるのを見る。


 サミュエルが後ろへ後退すると、間崎との間に火球が落ちた。


 出所を見ると、“力人衆”の男が炎の“コーリング・フロム・ヘヴン”を出している。


 観衆として見ていたが、間崎の危機に反応したようだ。


 サミュエルを脅威として認識した“力人衆”。


 三色それぞれのトルクが、首元で警戒心の色となっていた。

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© 2025 アイセル

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