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第9話 やるしかないですね

「はぁ……キス……ですか」


「そうです……キスです」


マリンはそう言った。しかし、その言葉に力はない。それもそうだ。マリンは魔力がもう少ない状態にあるのだ。


「わ、わかりました。それでまだ続けられるのなら……やるしかないですね……」


グイーダはそう言い、マリンの方にゆっくりと近づく。


「ほんとにすみません……私のせいでファーストを無くしてしまって……」


(そ、そこの心配ですか……)


マリンらしいといえばマリンらしいので今回はそれよりも魔力の回復のほうが先だ。


「じ、じゃあやりますよ。目だけ瞑ってて下さい」


「それくらいはいいですよ」


マリンはそう言うと目を瞑り唇をキスの形にした。グイーダはマリンの唇に自分の唇を接した。


その瞬間、グイーダは少しの脱力感を感じた。その後、だんだんと疲れが溜まってきたようにも感じた。


(なんか眠くなってきた……ような……)


「もういいですよ。ありがとうございました、グイーダさん」


そのマリンの表情を見ることすら辛くなってきて、グイーダの視界はぼやけている。しかし、その視界にもマリンの頬が真っ赤に染まっているのは薄っすらと見えてきた。


「あ……あとは……頼みました……よ」


そういうとグイーダはバタリと倒れ、深い眠りについた。


「ありがとうございます。この恩は忘れません」


その様子を見ていた少女ニアは何を思いついたのかこの拷問をしているレストランの個室を飛び出した。


その後何があったのかグイーダの記憶にはなかった。グイーダが目覚めると、そこには反省しているように見えるヌーツの姿があった。とうとうヌーツが自白をし、その全てを今話そうとしているところだった。


「あ、目覚めたッすか。これ、飲んでおくっす」


そうニアは言い、紫色の液体が入った瓶を取り出した。


「これはなんですか?」


「魔力回復薬っす」


グイーダはそういえばと思った。この世界はミツルが願ったVRMMOの世界。それなら、回復薬は必ずあると言って良いだろう。


「ありがとうございます」


その回復薬を飲みながらグイーダは思った。


(これで回復できたじゃないですか!)


「その通りっす」


「な、ならなんで早くそれを持ってきてくれないんですか?)


「それには答えられないっす」


「そ、そんな……」


グイーダは落胆した。ファーストキスをあんな未来がありすぎる少女に奪われ、しまいにはそれはやらなくてもよかったことを聞かされたのだ。落胆しないはずがない。


「ま、マリンさん」


その問いかけに気が付いたマリンがグイーダのほうに振り返る。


「お呼びですか?」


「ええ、ちょっと表に出てもらえませんかねぇ」


グイーダは鬼の形相でマリンを見て言った。


「ちょっ、グイーダさん、なんか怖いですよ」


マリンは泣きそうな目でそういった。


「いいからちょっと来てください」


グイーダはそういうとマリンの手を引っ張り外に出ようとした。


「ちょっと、グイーダさん。痛いですよ。引っ張らなくても歩けますから」


マリンはそういうが、グイーダはそのことに目もくれず、ただ外に向かって歩いた。外に出るとグイーダはマリンにビンタを一発かました。グイーダの顔は真っ赤に燃え上がっている。


「い、痛いじゃないですか。なんでこんなことするんですか!」


マリンは泣きながらそう言った。その問いかけにグイーダはさらに顔を真っ赤にして言った。


「私を騙しましたね?魔力回復には回復薬が使えるじゃないっですか!なんでキスで回復したんですか!思い出すだけで……もう……恥ずかしいじゃないですか!しかもこれは、は、初めての……キスだったんですよ!」


グイーダは心の内に秘めていた怒りを爆発させ、そう言った。キスのことを思い出す度に恥ずかしさが込み上げ、言葉が何度も止まりそうになったがそれに耐えて全ての怒りや不満を解放した。


「し、仕方ないじゃないですか!私だって初めてだったんですよ!本当は回復薬で回復したかったんですよ!ですが……」


「なんですか!」


「回復薬が売ってるところはここから近くても半日はかかるんです!その道中によくわからない透明な壁があるせいで。その壁がなかったら10分もかからないです」


(透明な……壁?この世界にそんなものが……そういえばこの世界は、自分のレベルや能力、クエストの進行に応じて解放されるRPGの世界。そしてそれはこの世界のプレイヤーの進捗によって全てが決まる。この世界のプレイヤーは……ミツル、そしてグイーダのただ二人だけだ。


「そして半日も待ってたら魔力欠乏で三日は眠ることになっちゃうんです」


「そ、そうだったんですね……」


「だから仕方がなかったんです」


「で、でも私以外でもできたんですよね?」


「はい。ビクトリアさんでも、ニアさんでもできました」


「じ、じゃあビクトリアさんに頼めばよかったんじゃないですか?」


「そそそそれはむむむむりですよ。だだだだって性別がちちち違うじゃないですか」


マリンは何かに動揺しながら答えた。


「ほう、なるほどです」


「な、なるほどってどどどっどうゆうことですか?」


「内緒です」


「グイーダさぁん」


マリンは上目遣いでグイーダを見る。


(か、可愛すぎます。こ、これは反則です)


「も、戻りますよ」


「はぁい」


マリンは何か物足りなさそうな顔をしつつ戻った。


部屋に戻るとミツルが何か言った。


「女って怖いなぁ」


その言葉にグイーダは反応し、ミツルを睨みつけた。


「うわぁ……」


グイーダはミツルのその声にあきれ、睨みつけることはしなかった。

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