第2話 ここがあなたの望んだ世界ですよ
翌日、充は約束通りオフィスにやって来た。
「失礼します」
受付の奥からニコニコ顔でグイーダがやってくる。
「あ、充さんこんにちは。それじゃあまずは今持ってる所持金をチップとしていただきますね。」
充は昨日受け取った35000円を1000円だけ使い、34000をチップとしてグイーダに差し出した。
「はい、確かに受けとりました。では次に昨日言ってたキャラネームについて教えてください」
「わかりました。僕が考えたキャラネームはビクトリアです。」
グイーダはフムフムといった顔で次の質問をする。
「ちなみに何でこの名前に?」
「勝利です。次の世界で勝者になりたいからこの名前にしました」
「なるほど。ではそのようにしておきますね」
そういうとグイーダは昨日の用紙にその名前を書いた。
「では早速転生しますか。準備はよろしいですか?」
「もちろんです!お願いします」
充はもう心残りなどないと言わんばかりの声でそう言った。
「ではこちらへ」
「は、はい」
充は黙ってグイーダの後に続く。
案内された部屋は薄暗く、部屋の大きさもよくわからない。そして、薄気味悪く部屋の中央に魔方陣が張られている。
「魔方陣の中へ」
「は、はい」
充はそろりそろりと魔方陣の中へ入った。するとグイーダが、何か棒のようなもで魔方陣の中心をつついた。
「はいどぅもー」
何も起こらない。
「………………」
無言のまま約30秒がたつ。
「あの……グイーダさん?」
グイーダは振り向いて満面の笑みで
「ん?どうしたのかなぁ?」
「どうしたも何もはいどぅもーって言って何が起きたんすか?」
「……何もないですが?」
「え……」
「もちろんこれはフリってやつですよ」
「もしかしてグイーダさん天然でいらっしゃいまして?」
「さて、なんのことかしら?」
「まあいいや早く転生をさせてくださいよー」
「わかりました。では改めて」
グイーダはもう一度棒のようなものを魔方陣の中心でつついた。
「汝、我は転生を行うものなり。この世界の掟より戒められし転生術を今ここに使わん。望みしは新たなる世界。望みしはゲームズオブサバイバルなり‼」
そこまで言ったところで魔方陣がとてつもないほどの光を放ち、グイーダと充を包む。
「いざ行かん、新世界へ!」
彼女はそう言うといっそう光が強くなり視界が完全にぼやけた。
「充さん、もう大丈夫ですよ。目を開けてください。あ、充さんではなかったですね。ビクトリアさん目を開けてください」
グイーダはビクトリアと名のついた少年ミツルに声をかけた。
ミツルはゆっくりと目を開け、驚きの表情を見せた。
そこに広がっているのは広大な平原や風車、城と言ったいかにもVRMMOにありそうな世界があった。
ミツルは右上に注目するとそこには1本のゲージがあった。字は何て書いてあるか読めないが、感覚で ビクトリアと読めた気がした。
「ここは?」
「ここがあなたの望んだ世界ですよ」
彼女はそう言った。ミツルは未だに実感が湧いていない。
「え、本当にVRMMOの世界に行けたんですか?」
「右上のゲージがその証拠です」
ミツルはもう一度右上のゲージを凝視する。
「……てことは本当に」
「はい、本当ですよ」
その瞬間巻き上がる感情を抑えられなかった。
「や、や、やったあぁぁ!遂に、遂に僕は望んでいた世界に行けたんだぁ!」
喜んでるのもつかの間、目の前にモンスターが現れる。
「こちらがこの世界であなたたちハンターの駆逐対象です」
黒く小さな犬がこちらを見ている。
「クウゥゥン」
その犬がモンスター?ミツルはそう思うしかできなかった。
「こんなのがモンスター?可愛いじゃん」
ミツルはそう言うと犬に近づく。
するとその黒い犬は今までの可愛さとは一変して、
「ガルルルル」
と唸り始めた。
そして、ミツル目掛けて一直線。
「な、な、何で僕なのぉー‼」
グイーダはミツルの発言にやれやれと両手の平を上にして腕を上げた。
「そりゃそうですよお。一番最初に近づいた、攻撃した人がタゲとられるのは当たり前です」
「とととにかくたた助けてぇ」
「はいはいわかりましたちょっと下がっててください」
ミツルは急ぎ足でグイーダの後ろへ回り込む。
グイーダは右手をあげ、ロッドを前に出す。
「ポンっ」
と言う音と共に火の玉ひとつが発射された。
その火の玉はゆっくりとモンスター目掛けて進んでいった。そして、モンスターの前でそれは弾け、それと同時に犬が焼けていく。
「グルゥン」
そう鳴き、モンスターは息絶えた。
「ありがとうございます。でも、僕も頑張らないと、7日後には僕一人の力でやっていかないといけないのに……僕ったら情けないなぁ」
グイーダはフフフと笑うと、
「まあ最初はそうですよ。チュートリアルすらやってないんですから当然です。これから頑張っていけば大丈夫ですよ」
そう言うとまたグイーダはニッコリとした。
(あぁ、女神だぁ。ずっといてほしいなぁ)
ミツルは少なからずそう思った。
「それではまだチュートリアルは終わっていませんし続けましょう」




