魔王ランキング
薄暗い洞窟を抜けた先にあった扉を開くと、余り広くない部屋にたどり着いた。そこでは、自分よりも若干背の高い男が、本棚を向いて立っていた。こちらに気づいていないのか、私のほうを向く気が感じられない。そこで私は、自分から名乗ることにした。
「私は勇者アンリ。この辺りの平和を取り戻すため魔王を倒しに来た。おまえは誰だ」
すると男は、こちらを向き品定めをするかのように、目線を上下に動かした。それが終わると私に向かって、声をかけてきた。
「お前が捜しているのは俺のことだろう。いかにも私が魔王だ」
その言葉を聞き、私は腰にさしていた剣を抜き、いつでも戦闘に移ることができるように構えた。しかし魔王は、こちらに少しずつ近づきながら、語りかけてきた。
「今お前が俺を倒しても、何もいいことはないぞ。俺は魔王ランキング2037位だからな」
「魔王ランキングって何だ? 助かりたいためにうそを言うな!」
「嘘ではない。お前はこの世界にはたくさんの魔王がいることを知らないのか。魔王ランキングが高ければ高いほど、統治している広さが広くなることも知らないのか」
「そんなランキングがあったとして、お前を倒せば、この辺りは平和になるのだろう。ランキングなんかどうでもいい、今すぐ死んでもらう。」
「お前は根本的なことがわかってないな。ちょっと待て、説明してやる」
そう言った魔王は、近くにあった紙に何かを書き始めた。素早く書いてこちらに紙を見せながら話し始めた。
「お前は、どこかの村の宿屋から、まっすぐここに来たんだろ」
「そうだが、なぜわかる」
「ここに来るまでに時間を使っていないせいか、疲れの気配がない。そんなことはどうでもいい。今は日が真上に来ているから、大体の時間がわかる。その場合、お前の出てきた村の片側ぐらいまでしか、俺の統治してる場所がないのだ」
「それの何が問題だ」
「いいか、お前が俺を倒したとして、そのあと村に報告するだろ。だけど、片側しか平和が来ていないから、もう片方にはモンスターが出てくる。そうなった時、お前はこの村に平和をもたらしていないから、うそつき呼ばわりされるんだぞ」
その言葉を聞いた私は、少したじろぎ剣を下ろした。その光景を見た魔王は私に対して、言った。
「取引をしないか。俺の魔王ランキングを上げてくれないか。一定のランキングまで上げて、俺を倒せばお前には大きな名声が得られるだろ」
「お前に何の得がある」
「魔王ランキングは、別に魔王の強さだけで成り立っているだけではない。統治地域の状況なども加味されているのだ。最近は戦闘能力の向上を重視して、統治をないがしろにしている魔王ばっかりだ。俺はそれが許せないのだ」
「分かった。私は、何をすればいい」
「とりあえず、村の反対側の魔王を倒してこい。話はそれからだ。」
「こちら側はお前が、何とかできるならしてやる」
「よし、取引成立だ」
私は頭の中で今の話を整理しつつ、聞いてないことを聞いてみた。
「最後に聞く。お前の名前はなんだ」
「俺の名前か? キョウだ」
魔王の名前を聞いた私は、ぶつぶつとつぶやきながら、部屋を後にした。私がいなくなるのを見届け、部屋の扉を閉めたキョウは、気持ちを高ぶらせながら、しゃべり始める。
「あんな簡単に騙せるなんて、あいつ相当な馬鹿だな。速くランキングの上の魔王に連絡すれば、褒美ももらえるし、ランキングも上がるだろう。いやー今日はいい事が起きたな」
「キョウは、私より馬鹿なようだな」
私は、キョウの首元に剣を当てた。
「出って行ったはずじゃ」
「魔法を使って幻影を呼び出して、そういったように見せただけで、私はずっとこの部屋にいたよ」
「何が目的だ」
「お前には、私の勇者ランキングを上げる手伝いをしてもらおう。私が魔王ランキングを知らないように、お前は勇者ランキングを知らないだろう」
「どうすればいい」
「魔王ランキングと違って、勇者ランキングは功績をあげれば上がっていく。お前には私の従者になって、
付き従ってもらう。魔王の事情が分かっているものがいれば、ランキングを上げやすいだろうからな」
キョウは振り返って跪き、
「従います。勇者アンリ」
「勇者ランキングを上げるには、キョウには魔王ランキングをあがってもらう必要があるから、がんばれ」
「俺は準備をしますので、先に出てください。必ず行きますので」
「わかった。待っているよ」
私は剣を腰にさし、部屋を後にした。