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第九話 愛の力ですべて決着です

 ブレイン大佐の合図で、私とザカライア様の闘いがはじまった。


 私はまず、木の陰から大きく空のほうへ矢を放つ。魔術で軌道を調整しているからこんなことができるのだ。


「ふんっ!」


 ザカライア様は、私の放った矢を座ったままの状態でふり払う。私はすぐに場所を変えて、別の位置から再び矢を放つ。


「ふんっ、ふんっ!」


 連続で矢を放っても、ぴくりとも動かないし、目も開けない。

 ザカライア様はおそらく私の魔力を感じとっているのだ。だから、魔術で軌道を変えた矢は、たぶん彼には当たらない。


「それなら!」


 まず、おとりでさっきと同じように空に向けて矢を放ち、その間に木の陰から出て、直接ねらう。それしかない。

 どうやらザカライア様は魔術で遠距離攻撃をするつもりがないようだし、それならば彼の間合いに入らなければ負けはしない。

 私は木の陰から、全部で五本の矢を空へ放つ。


 急いで木の陰から飛び出して、ザカライア様の姿を直接確認できる位置で弓をかまえる。


「ふんっ!」


 私が弓を放つ前に、かっと目を見開いたザカライア様は後方に飛びすさり、上空から狙っている矢を避けながら、私に向かって木の棒を投げた。


 飛んでくる。それはわかったけど、あまりの速さで避けられない。



 たった一撃だった。



 ザカライア様はやっぱり強い。魔術も使わず、私に勝ってしまった。



 完敗だった。



 たしか、ザカライア様が勝ったら、私とデートをしてくださるのだった。――――だけど、私はその約束を果たせそうにない。



 普通に、普通に……肩の骨が砕けた気がするので。砕けた経験がないからよくわからないけれど、たぶん砕けたと思う。



「ぬぅおおおおおっ? リア! リア!? 気をたしかに!!」


 うずくまる私にザカライア様が駆け寄って来る。


「だから、私は最初からそういうのやめろって言ったんですよ! なにが『私の強さを見せつけて、リアをとりこにするのダ!』だ。このアホ将軍!!」


「なにをぬかすかっ! おぬしも『リアは強い男が好きだ』などと言って賛成しとったではないか!」



 ザカライア様とブレイン大佐がなにか言い争いをしているが、強烈な痛みでどうでもいいからお医者様のところに連れていってほしい、としか思えなかった。お願いだから、早くなんとかしてほしい。



***



 すぐにカーライル邸に運ばれた私の怪我は、魔術で治療されてすっかり元どおりになった。

 癒しの魔術は使える人が少ないので、超高額な医療行為ということになっている。それに、使いすぎると自己治癒力がおとろえるので、いざというときしか使えないらしい。


 今回、私は訓練という名の私闘で、肩の骨を再起不能なくらいボキボキに砕かれてしまった。私にとっても、ザカライア様にとっても、ばれたら懲戒処分になりかねないまずい事態だったので、もう証拠隠滅をするしかなかった。


「すまぬっ! 私としたことが、加減をまちがえた」


 私はカーライル邸の客間で、ベッドの中に押し込まれていた。


「あの、治療もしていただきましたし、訓練中の怪我は仕方のないことだと思います。だからそろそろ起き上がって……」


「ならん! 明日まではそのまま安静にしていたほうがいい。のどはかわかぬか? 甘いものは?」


 ザカライア様に側にいられると、休みたくても休めない。


「あの……、それより、先日の……」


「その話はいいのだ! いや、よくはないが、いいのだ! うむぅ!」


 ザカライア様は少し言いづらそうにしている。


「私は、あれから私なりにいろいろと考えたのだが……聞いてくれるか?」


「はい」


「私はお前を好いておる」


「はい」


 それは、知っている。嫌われているなんて思ったことは一度もない。


「妹や娘や部下という意味ではないぞ! 特別な意味で好いておる」


「……そうなのですか?」


 どくん、と私の心臓が音をたてる。


「そうだ。……すまん、養子という話は卑怯ひきょうであった。リアが誰とも結婚する気がないというから、一生私のところにいてくれればと思ったのだ!」


「ザカライア様」


「だが、もう一度だけ。……時間はいくらでもある。だから考えてくれんか?」


 ザカライア様は大きな手でぎゅっと私の手を握った。その手はとてもあたたかい。


「今は軍人としての尊敬だけでもなんでもいい。……いくらでも待つし、その、あ、あ、あいしてもらえるように、努力もしよう」


「あの、……私」


 ザカライア様の言葉を聞いて、私の目から涙がぽろぽろとこぼれる。さっき、骨を砕かれたときでさえ我慢できていたのに。


「どうしたのだ!?」


 ザカライア様は大きくて優しそうな目を、さらに丸くして心配そうに私の顔をのぞきこむ。


 私は、一方的に想っていることがゆるされる関係を望んでいた。それはたぶん、怖かったからだと思う。「親愛」なら何人に向けても許される。だからその関係を壊すのが怖かった。対等でいたくなかった。


「違うんです。私、きっと、変わってしまうのが怖かった。ザカライア様をお慕いする気持ちは、尊敬だと思い込むようにしていて……でも」


 思いっきりザカライア様に抱きつく。


「ぬぉっ!!」


 ザカライア様は今日もポケットにお菓子をしのばせているのかもしれない。蜂蜜か砂糖か、よくわからないけれど、ふんわりと甘い香りがする。


「私も、ザカライア様が大好きです」


「な、なんとっ!」


 ザカライア様も私も、お互いを選んではいけない相手だと思い込んでいた。そうじゃないのだと知っても、今の関係を壊すのが怖くて嘘をついてしまった。

 でも、ザカライア様はそこから一歩踏み出してくれた。選ぶことを、私はもう怖がってはいけない。


「リア、リア? 本当か?」


「はい……」


 ザカライア様は顔を桃色に染めて、瞳からは豪快に涙を流している。ザカライア様に強く抱きしめられてしまい、少し息苦しさを感じながらも、私は笑顔をつくってみる。


「では、ではっ! さっそく婚姻届を持って参る! それに引っ越しも必要だ! 婚礼衣装も!!」


 ザカライア様はベッドの横に置いてあった椅子から立ち上がり、急いで部屋を出ようとする。今言ったことを全て今日、するつもりなのだろうか。


「あの、待ってください」


 いくらなんでも気が早すぎる。たぶん、いろいろ無理があるし、ブレイン大佐に止められるはずだ。私はまず、ブレイン大佐の養子になるはずだし。


 どうやったら、ザカライア様の暴走をお止めできるだろう。いろいろ考えた私は、二十四歳ご令嬢見習いとしては失格だけど、彼の身長に合わせるためにベッドの上に立ちあがる。

 きょとんとしているザカライア様に抱きつくようにして、頬に軽くキスをした。



 ザカライア様はなんの反応もしない。想い合っている仲だし、二人とも結婚適齢期を過ぎたいい大人なのだから、これくらいいいと思ったのだけれど、イヤだったのだろうか。


「あの、いけませんでしたか?」


 ザカライア様は完全に無反応。こんなことは六年の付き合いで一度もなかった。

 ザカライア様のくりくりとかわいらしい瞳からは光が消え失せて、どこかぼんやりと遠くを見つめているようだ。


「ザカライア様?」


「ぐかぁぁぁぁっ!!!!」


 白目になってしまった。そう思った次の瞬間、私の視界が真っ赤に染まる。




 ――――鼻血である。




 ザカライア様は不動の大木のように固まったまま、私の顔や服、真っ白なシーツや大理石の床をその血で真っ赤に染め上げていく。


「だれかっ、だれかぁ! 来てくださーい!!」


 鼻血というのは、こんなにたくさん出るものなのだろうか、人間は身体のなかにある血液を何割失ったら死んでしまうのだろうか。……そして、そもそもこの方は本当に人間なんだろうか。

 私はそんなことを思いながら、使用人さんが駆けつけてくるまで、呆然と血しぶきを浴び続けていた。





 こうして私はザカライア様の妻となり、二つの名を手に入れた。

 一つは「カーライル少将夫人」という名。そしてもう一つは「クマ殺しの流血淑女」という異名だ。


 ……二つ目は、正直あまり嬉しくないけど、私はとても幸せだ。





 (終)




(将軍閣下のつぶやき2)


 私はハーティア王国軍少将ザカライア・カーライルである!

 本編はこれにて終了だ! だが「おまけ」でまたしてもあの出しゃばり男が再登場するらしい! 物語の最終話をなぜリアでも私でもなく、あの男が締めくくるのか納得がいかぬな。

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