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第七話 どうしても受け入れられないことがあります


 ザカライア様はお父上、つまりカーライル家当主ジェイク様のところに行ってしまったようだ。本来ならお止めするべきだろうけど、そんな暇はなかった。

 しばらく、どうしようかと迷っていると扉が開かれた。


「ごきげんよう」


 ザカライア様に代わって、いらっしゃったのはマージョリー様だ。

 マージョリー様は私の師ともいうべきハーティア王国きっての女軍人だ。くりくりとした印象的な瞳がザカライア様とそっくりで、とても魅力的な女性。大変失礼な話だけれど、五十代とは思えないほど引き締まった完璧な比率の身体に、ぴったりとしたドレスをまとったハーティア女性のあこがれだ。


 私はあわてて立ち上がり、頭を下げる。


「マージョリー様、お邪魔いたしております。このような時間の訪問、お許しください」


「いいのよ。どうせザカライアが無理やり連れてきたのだから。……それよりあなたに大切なお話があるの」


 マージョリー様は、もう一度ソファに座るようにうながしてから、ご自身も私の向かいに座られた。


「単刀直入に言うと、ブレイン殿がすすめていた縁談の話ね」


「…………」


「実はね、あなたの縁談相手はザカライアよ」


「えっ!?」


 さる名家の跡取り。さる名家の跡取り。さる名家……確かに、ザカライア様はハーティアでも一二を争う名家の跡取りで独身、ご本人からの情報によれば、だれも嫁に来てくれないとのことだ。


「おどろいたかしら?」


「はい……。ですが、私のような身寄りのない者など……」


「考えたこともないと?」


 一度もなかった。そんな恐れ多いこと。私はバカなほうではないと思っていたけれど、頭の中を整理することができずに返事すらままならない。


「では、少し時間をあげるから、考えてちょうだい」


「ですが……」


 ザカライア様にふさわしい女性なら、山ほどいるはずだ。背の高い軍人というだけで、少し誤解を与えてしまうかもしれないが、お優しい方なのだから。

 ご本人はもうあきらめた、とおっしゃっていたけれど、たまたま運がなかっただけだと思う。


「身分がどうの、というのはやめなさい。別にザカライアに合わせるためにあなたをブレイン殿の養子にするわけではないのだから」


 マージョリー様のお話を聞いて、私の頭に浮かんだのはついさっき、ザカライア様からお聞きした話だ。




『……魔力がそこそこあって、できれば頑丈で、私を怖がらない女性なら、もう誰でもかまわないのだがな……』


『家のことがなければ、私とて結婚したいなどとは思わぬ』




 やはり、ザカライア様との結婚など、考えてはいけないことだ。


「その、申し訳ありませんが……。それでも私はふさわしくないと思います」


「なぜかしら?」


「あの、たとえ今の私の身分がなんであっても、私には家のためや政治的な思惑で婚姻を結ぶ、という感覚が理解できません。家族を持ったことのない私は、誰かと家族になる未来を想像したことすらないので。その感覚を今さら変えろというのは、どうしてもできないんです」


 だから、私が士官にふさわしくないというのなら、いっそそれでもいいのかもしれない。


「ザカライア様は、ザカライア様は……誰でも(・・・)かまわない(・・・・・)とおっしゃっていました」


「はぁ!?」


「それと、家のことがなければ結婚などしたくない、と……」


「そ、それは……」


「大変申し訳ありませんが、やはりザカライア様との結婚など、私には考えられません」


 これは私にとってもザカライア様にとっても最悪な選択だ。

 あの方は結婚なんてしたくないと、はっきりおっしゃっていた。名家の跡取りとしての義務で結婚するのなら、相手は「誰でもいい」とおっしゃっていた。それならきっと相手に愛情など求めないのだろう。

 だったら、最初からカーライル家を守るという目的を共有できる女性がふさわしい。愛があるかどうかが問題なんじゃない。覚悟があるかどうか、それが重要なのだと思う。


 私には無理だ。世界が違いすぎると思う。ただ尊敬する方として一方的にお慕いしていることがゆるされる、今のままがいい。


 もし対等な関係になってしまったら。相手にも自分と同等の気持ちを求めることがゆるされる関係になってしまったら……私はきっと、ザカライア様にもそれを求めて、そしていつか失望してしまう。


 そんなふうにはなりたくない。


「結婚なんてしたくありません。……でも、本当にどうしても結婚しなければならないのなら、お互いに割り切って、純粋な政略だけでしたいです。……ザカライア様だけは、申し訳ありませんが、絶対にイヤです!」


 私はマージョリー様にとんでもなく失礼なことを言っている。でも、とがめられても、今後の出世に響いても、まったくかまわないと思った。

 自分でも、自分の言っていることがよくわからない。単なる打算でよく知りもしない男と結婚するよりも、よっぽどいいはずなのに。胸の中がもやもやとして泣きたくなった。


「……わかりました」


「申し訳ありません」


「いいえ。あなたは気にしなくていいのよ。今回の件、もともとあなたの意志を無視して、すすめるつもりなどないの――――同じように『結婚なんてしたくない』と口にしても、あなたとザカライアでは立場が違ったのだから、急には無理ね……」


 マージョリー様は瞳をぎらぎらとさせて指をポキポキと鳴らしながらそう言った。やはり怒っているのだろう。

 私はもう一度謝罪をしてから、おいとまする許可を得て、扉のほうへ向かう。


 そのまま帰るつもりだった。


 でも、開いた扉の先には、ザカライア様が立っていた。


「リア」


 ザカライア様の声は少し震えている。


「あの……」


「心配するな。私はお前に何かを強要なんてせぬ。……むしろ、これからも力にっ、くっ! すまぬぅ!」


 ザカライア様はどこから聞いていたんだろう。後ろにいるブレイン大佐の顔色が真っ青になっていることから推測すると、あきらかに私がお断りしたところは聞いていたのだろう。

 ザカライア様の大きな瞳は真っ赤になって、うるんでいた。


「ち、ちが……」


 うまく言葉にできない。私がザカライア様との縁談を断ったのは事実だし、本人を前にしたからといって、その気持ちが変わるわけじゃない。なのに、違う。


「よいのだ! ……そういったことには慣れておる……!」


 私は違う。私はその人たちとは違う。そう思うのに、なんて言えばいいのかわからない。

 断られるのは慣れていると口にしても、六つも年下の庶民に言われたらどんな気持ちだろう。たぶん、ザカライア様のプライドはめちゃめちゃに傷ついたのだと思う。


 なにかを言わなきゃ。それなのに、私に背を向けて歩き出したザカライア様に、かける言葉がみつからなかった。


 私はザカライア様を本当にお慕いしている。できることなら、ずっとそのままでいたかった。でも、もうそれは許されないのだということだけはしっかり理解していた。


 一方的にお慕いすることが許される関係。私がそれを望んでしまったから、壊れてしまった。


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