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第六話 他に適任がいないので仕方なく(ブレイン大佐)


 ここで大切なお知らせ。通常、ヒロイン視点で書ききれない部分は、ヒーロー視点で書くものだと思いますが、将軍閣下の一人称は読者様に過度な疲労とストレスを与えてしまう恐れがあり、作者が断念いたしました。

 代わりまして、ヒロインの後見人であるブレイン大佐がお届けします!



 私の名前はギディオン・ブレイン。いちおう王国軍では大佐という地位にある。


 リアに逃げられた私は、なぜかクマのような将軍閣下の襲撃にあい、泣く泣く自分の屋敷に戻った。

 なぜ戻ったのかといえば、リアはひとまずカーライル家で手当をするから、彼女の着替えをもってこいという命令があったからだ。

 どうやらリアの怪我はザカライア様の暴走の結果のようで、彼は彼なりに責任を感じているらしい。


「ザカライア様、今日の約束をお忘れで? 手当は私の屋敷で致しますのでご一緒に……」


「な・ら・ん! リアはおぬしの屋敷がイヤで逃げ出したのだぞ!? 信用できると思ったから託したのに、リアは私が預かる!」


 もしリアにきちんと事情を説明できたのなら、よかれと思って見合いの席を用意しようとしていただけの私より、彼女に怪我を負わせたとんでもない怪物を選ぶとは思えない。だが彼女は絶賛失神中で、私は上官には逆らえない。


 こうして私の養子(予定)はクマのような恐ろしい男に連れ去られてしまった。


 私はいったん家に帰り、とりあえず使用人に着替えを準備させたあと、急ぎカーライル邸に向かった。


 なんだかんだいって、ザカライア様は彼女に甘い。リアが見合いを嫌がっているこの状況では、カーライル邸に留め置かれるだろう。

 それに、このあと彼がなにを言い出すのかなんとなく予想がついていた。


「とんでもなくこじれる前に、手を打たねば」


 急いで屋敷を出た私は、ザカライア様ではなくカーライル家の現当主、つまりはあの方の父君に面会を求めた。


「こじれたではないかっ!」


 開口一番、カーライル家当主、ジェイク様の怒号が飛ぶ。ジェイク様はザカライア様ほどではないが、やっぱり立派な眉毛をお持ちの初老の男性である。


「まったく、これだから男という生き物は……。だから秘密裏になんて余計なことだと言ったのです! だいたい三十路男の婚姻を周囲がお膳立てするなんて、よってたかって恥ずかしい」


 そう言ったのはジェイク様の奥方マージョリー様だ。たしか四捨五入すると六十になるはずだが、そうは思えないほど、みごとな逆三角形の硬そうな身体の持ち主だ。あと、目力めぢからがすさまじい。

 初めて会った日には、必ずその者の夢の中に彼女が現れる、という噂のある強烈な印象の筋肉淑女きんにくしゅくじょである。

 ザカライア様はお父上、お母上のそれぞれ濃い部分を継いでおられるのだ。


「お言葉ですが、話してしまえば互いに『恐れ多い』だの『彼女の気持ちがぁ』などと言いわけして、うまくいくわけありません」


「話さなくても、うまくいかなかったではないですか!」


 そう、リアの見合い相手というのはほかでもない、ザカライア様だ。ザカライア様はその恐ろしい形相もさることながら、すぐに殺気をまき散らすその体質から、絶望的にご令嬢から嫌われている。

 殺気というのは、魔力がにじみ出たものなのかもしれない。人体にたいした影響もないはずだが、とくに好きでもない男の殺気に馴れようだなんて考える変な女性はいないわけで。とにかく絶望的にモテないのだ。


 その点、リアはかつてザカライア様に命を救われてから、あのクマを神のように崇めている。魔力もある。投げ飛ばされたり粗雑に扱われても全然気にしない。賢い娘だが、少々思い込みがはげしいのだ。……彼女にたりないものは身分だけだった。


 その身分の問題も彼女自身の努力により、解決したも同然だ。

 リアは軍内部でそれなりに実力が認められている。いちおう形だけ、私の養子ということにしておけば、誰もザカライア様との結婚を反対しないだろう。

 万が一、反対されたとしても「じゃあ、あなたの娘があのクマと結婚すればいい」と言えば万事解決だ。


 すべてうまくいくはずだった。それがなぜこうなったのか……。


「ブレイン殿、リアにはわたくしが話をします。あなた方はあのバカ息子に男を見せろ、と説得なさいな。まどっろこしいことを考えるからややこしくなるのです」


 さすが、ハーティア王国一の豪傑淑女ごうけつしゅくじょはいさぎよい。


 あの二人は出会った六年前からお互いを意識しているはずだが、お互いに恋人になろうだなどと、考えたこともないのだろう。

 リアがザカライア様を慕うのは当然だが、あの方だって、唯一自分に笑顔を向けてくれる変わった娘を好いていて当然だ。

 あの方が、もはや二人の間にはなんの障害もないのだときちんと理解し、直球勝負で求婚すべきなのだ。


 そのとき、密談の場に慌てた様子でカーライル家の家令が入ってきた。

「旦那様、奥様。一大事でごさいます! 若様が、リア様を自らの養子にするとっ!」


「なんだとっ!? あのバカ息子! すぐに呼んでまいれ」


 さすがザカライア様は私の期待を裏切らない。どう屈折したらそういう結論になったのか謎である。年齢差を考えたら、いくらなんでも娘は無理だ。


 私は大きなため息をついた。



***


 呼ぶまでもなく、ザカライア様はこちらにやって来た。そこで男三人の話し合いの場がもうけられたのだ。


「ごほんっ。リア殿を養子にしたいそうだが、それは不可だ」


「なにゆえっ!? リアは一生独身でいたいのだと申しております。カーライル家の養女となれば、婚姻などしなくても彼女を守れるでしょう!!」


 さっそく、ザカライア様が生あたたかい鼻息を、二メートルくらい離れた私のところまで噴射してくる。汚いので、ほんとうにやめてほしい。


「彼女はまだ若い。……少なくともお前よりは若い。今はそう思っても、いずれ誰か愛する人をみつけるはずだ。そのときに独身のお前が後見や養父を務めていたなどというのは、彼女にとって好ましくない。醜聞しゅうぶんにしかならんだろう」


「むむっ」


 ジェイク様の言っていることは至極しごくまっとうだ。これならばザカライア様も引き下がるしかない。


「では、ブレインよ。彼女に見合いの強要などしないと約束してくれぬか!?」


 ザカライア様の言葉……というより顔は、はっきり言って「お願い」ではなく「強要・脅迫」だ。まさに鬼気迫る形相で私にでかい顔を近づけてくる。何年も副官として彼の側に仕えた私ですら、油断するとときどき鳥肌が立つ。


「そもそも私は彼女の意にそぐわぬ見合いなど、すすめるつもりではありませんでした」


「なんだとっ!」


「あれはちょっとした誤解なのです。私は……彼女が密かに慕っている人物と添いとげさせてやりたいと考えておりました」


 子供じゃあるまいし、親のような存在である私から「うちの娘、じつは閣下のことを慕っているんですよー」などと言えるわけがない。もし、そんなことをしたら、おそらく私はリアに軽蔑され、場合によってはボコボコにされるだろう。


「……ひそかに、したって、い……る?」


 まずい。ザカライア様の魂が抜けてしまった。それくらいのことでショックを受けるくらいなら、さっさと想いを告げればいいのに。なんとも情けない三十路クマである。


「そ、そのお方は、庶民の彼女が結婚を考えることすらゆるされぬ相手ゆえ、リア本人に自覚があるのかも定かではありませんが」


 そんな人、一人しかいない。いい加減わかってほしいのだが、当然脳内まで砂糖でできているという噂のザカライア様に伝わるはずもない。


「なんと……リアには好いた男が……?」


「いえ、おそらく本人に自覚はないかと……」


「よい、わかった……。できることがあるのなら、私も……協力、しよう」


 マージョリーに様そっくりの目を血走らせながら、ザカライア様が苦しそうに声をしぼり出す。本人は泣くのを耐えているのかもしれないが、怖いだけだからこっちを見ないでほしい。


 それに、まったく協力したそうには見えない。


「この腑抜けが! それでも武の誉れ、カーライル家の嫡男かっ!!」


「父上」


「奪ってしまえ! 奪ってしまえばいいのだ!! リア殿に想う男がいるのなら、そいつを倒しおのれの強さを証明し、心ごと奪うのだ!! 想いも告げずにあきらめるなど、腑抜け以外の何者でも無いわっ!!」


 言っていることはわかるが、そもそも奪う相手もいないのに、なにを言っているのだろうこの人は。


 ザカライア様は大きく頷いて、何かを決意したような表情で部屋を出て行った。


 大丈夫だろうか。いや、たぶんダメだろう。私は急いでそのあとを追うことにした。


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