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第五話 将軍閣下の発想力はすごいです

 途中で私の言葉づかいが悪くなった件はうまくぼかして、ザカライア様に私が逃走するまでの出来事を話す。


「ブレイン大佐は、大佐なりに私の幸せを考えてくれているのだと思います」


 べつに彼が私欲のために私をどこかに嫁に出そうとしているわけじゃないのは、知っている。私の予想では、養子という書類上のつながりだけでは、後ろだてとして弱いのだ。

 だから、それなりの身分の男性と結婚して、子供をつくる。そうすれば私は家族を守るために必死になるだろう。家族がいるというだけで、軍や国を裏切る可能性がなくなる。

 既婚者の社会的信用度が高いのは、説明されなくてもわかる。大佐は私にそうしろと言っているのだ。


「でも、私はできれば結婚なんてしたくないんです。いまさら高貴な方と同じような感覚をもてと言われても、できません。それに、そこまでして出世する気もなくて……」


 王国軍にいれば、下士官でもそれなりの給金がもらえる。年金だってある。ただし、怪我をする可能性があるし退役年齢も階級によって決まっている。上に行けば行くほど、危険な任務につくリスクも少なくなることを考えれば、出世にまったく興味がないというのは嘘だ。

 でも、私の場合、自分の望み以上にすでに出世しているし、王宮に上がって高貴な方の護衛の任に就きたいという強い意志もそれほどない。


「わかった。ふむ……」


 ザカライア様は太い眉と眉の間にしわを刻み、目をつむって真剣に今後のことを考えてくださっている。

 結果的に私的なことで彼をわずらわせてしまった私は、もうしわけない気持ちでいっぱいだ。


「うむ。よいことを思いついた!」


 ザカライア様が大きな手をぽんっと打って目を見開く。なんだかとても嬉しそうにしている。


「あの……?」


「大佐ではなく、私がリアを養子に迎えよう。私なら、結婚を強要しないし、これでもやつより権力を持っているからな! それなりにおまえの力になれるはずだ」


 その瞬間、部屋にいた家令の方がもっていた書類をざーっと落とした。普段はあまりミスなどしない優秀な方だと思ったのだけれど。たぶん、ザカライア様の突然の提案に驚いたのだろう。私だってそうだ。


 カーライル家といえば代々、軍をたばねる立場にあるハーティア王国で一二を争う名門中の名門なのだ。

 そんな家に庶民の私が入るというのは問題があるはず。


「あの、私とザカライア様は六つしか離れていませんし、身寄りのない私がカーライル家に……というのは、その……」


「文句は言わせん。そもそも誰かがお前の後見人にという話があったときに、私も名乗りをあげたのだ! なのに、あのブレインめが自分のほうが適任だから、などと言い出すし、周りの連中もっ! だと言うのに奴は……!」


「ですが、こんなに大きな娘がいては将来ザカライア様がご結婚されたときに、お相手の方が困ってしまうと思います」


 ザカライア様は武官の名門、カーライル家の跡取りなのだ。なぜか今のところ未婚だけれど、きっと軍務がお忙しいのだろう。

 だけど、いつまでもそういうわけにはいかないはず。

 将来彼の奥方になる女性にとって、未婚の年の近い養子など迷惑以外のなにものでもないだろう。私が逆の立場だったらすごくイヤだ。


「それならば、問題ない。先日も見合い相手に失神されてしまい、破談になったばかりだ。そんなに高い条件を出しているわけでもないのに、なぜか嫁がこないのだ。もうあきらめておるし、分家に優秀な者がたくさんおるから、まったく問題ない」


 ザカライア様の立派な眉毛がしょんぼりと下がる。


「それはなにか誤解でもあるのでは? ザカライア様は軍内部でも、皆から尊敬されているはずですもの」


 下っ端の負傷兵まで気づかってくださるザカライア様は、私含め部下から尊敬されている。


「……魔力がそこそこあって、できれば頑丈がんじょうで、私を怖がらない女性なら、もう誰でもかまわないのだがな……」


「部下の方の、娘さんか妹さんなら?」


 たしかにザカライア様の外見は少し威厳いげんがあるので、か弱いご令嬢が誤解をしてしまうこともある。でも、本当は部下想いの優しい方だと知れば、恐れる必要なんてない。

 むしろ彼の一定範囲内にいれば、どんな敵が襲ってこようが絶対に守ってもらえるくらいの圧倒的な強さがにじみ出ているので、慣れれば安心するはずだ。

 ご令嬢本人はともかく、彼を慕っている部下の方なら、ぜひ縁戚になりたいはずなのに。


「それが、先日も部下の妹君と会ってきたのだが、私の顔を見て真っ青になり、失神。……その前は泣かれてしまった」


「まぁ!? 信じられません。やっぱり軍人の家系の方でも、名家のご令嬢というのは繊細でいらっしゃるのかもしれませんね」


「家のことがなければ、私とて結婚したいなどとは思わぬ。だからもう、そんなことは考えずに、軍人としての生をまっとうしようと思っていたところだ。お前が結婚などしたくないというのなら、私の娘になって時々タルトを焼いてくれたなら……どんなによいかと思ったのだが」


「お気持ちだけで、とっても嬉しいです」


「いや。さすがに勝手はできぬが、この話は進めさせてもらう! やはりブレインには任せておけん」


 ザカライア様は急に立ち上がり、ものすごい勢いで部屋を出て行ってしまった。


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