10 「保健室と購買」
書き方を少し変更しています。
ベルにお姫様抱っこされたまま連れてこられた場所は見覚えのあるような部屋だった。
(まんま、学校の保健室って感じだなー)
そこは、ベッドがいくつも並べられており、壁際の棚には危なそうな色の薬品の様なモノや、見たこともない道具、書類などが並べられている。流石に機械類はないようだ。
木造建築の学校の保健室の様な部屋で、広さ的には病院の様な役割も持てそうだ。
「あら。ノルアーノさんじゃない、どうしたの?…あら?…もしかして、隠し子…?」
「…違いますよ…。任務先で保護したんです。ケガは無いと思うんですけど、一応見てもらえますか?」
「はいはい、そういう事ね。ここにいいわよ」
少し親しげに話しかけてきた人は、いかにも保険医という容貌でこれまたすごい美人さんだ。肌も髪も若々しく、身体中からフェロモンが出ているような妖艶さがある。
もし、在学中にこんな人が保健室に居たならば、ケガ人が居らずとも大繁盛した事であろう。
自分の髪を抱いた状態で、少し硬めのベッドに降ろされると、美人保険医が近づき目線を合わせるためにしゃがみ込み微笑みかけてきた。前が少し開いた服なので谷間がバッチリ見えてしまっている。…無表情な顔で良かった。
「こんにちは~私の名前はシェリーっていうの。あなたのお名前を教えてくれるかしら?」
「…みゅう」
「そう、ミュウちゃん。かわいらしいお名前ねぇ~。今から少し検査するけど、何も痛くないものだからリラックスしててね」
このピンクのロングヘアについて触れてくるかと思ったが、何事もなかったかのようにスルーして、ミュウの手に手を重ねながら微笑んだシェリー保険医は、立ち上がり、ベルと話し出す。
「見るのはケガ、病気、状態異常の有無、でいいのかしら?」
「はい。ちょっと事情があるので、見るのはそれだけでおねがいします」
「事情…ね。まぁいいわ。5分程度で終わるけどここで待ってる?お茶入れるわよ~?」
「いえ、私は団長への報告がありますので…。――ユティとサラは、ミュウちゃんの検査が何事もなく終わったらシャワーの準備をして先に行っててくれる?何かあればここで待機してて。報告が終わったら一度ここに寄るから」
「りょーかいです!」
「ミュウちゃんの着替えはどうしますか?」
「あ、そうね。とりあえず、ミトナさんの所ですぐに必要な物だけ経費で買っておいてくれる?後々必要になる物は今度まとめて街に買いにいきましょう」
「わかりました。」
「…はっ!(ミュウちゃんとお姉様と、街でお買い物デート…!)」
なにやらベルが報告に離れるという話になっているのでベルの顔をジッと見ていると、また何か勘違いしたのか、子供をあやす時の様な顔を近寄らせてきた。
「だ、大丈夫よ!この子達とお風呂に入ってる時くらいには戻ってくるから…!」
「…うん、わかった」
そんなに不安そうな顔をしていたのだろうか?と思いながらも了承の返事をすると、ベルは心配そうに、名残惜しそうに手を振りながら、医務室を後にし団長と言われる人物の元へと向かっていった。
(…団長ってどんな人だろ…。団長って言ったら傷だらけの大男タイプか、さわやか美青年タイプかってイメージだけど…。とにかく、こわい人でもいいから話の分かるめんどくさくない人であってほしいなぁ…)
ミュウの座るベッドの近くに置いた椅子にユティとサラが座り、シェリー保険医の入れてくれた紅茶に近い味の飲み物を飲みながら、検査を受ける。検査と言っても人間ドックの様な大掛かりなモノではなく、5分程度で終わるという言の通り、風邪の有無を調べているかのような手軽な方法だった。
小さな白い宝石が付いた体温計の様な細い棒状のモノを口に咥えたり、天使の様な、白いハネが模られたティアラの様なモノを頭に付けたり、薄い黄緑色の光を放っているペンライトの様なモノを身体全体に沿うように照らしていったりと、現代製品のような使用感に、魔法製品のような機能性が合わさった異世界の道具にワクワクしながら、ユティとサラに見守られながら検査を受けた。
ペンライトで全身を照らす際に、シャツを脱いでと言われて、男の時の様に躊躇なく無造作に脱ごうとしてしまい、髪の束によって首から上が抜けないという状況に陥ったり。瞬間的に、シャツだけ脱いだつもりだったけど下を履いていない事に思い至り股間のモノを隠そうと考えるも、女である事、もうモノは無い事を思い出し、悲しい脱力感を感じたり。これから堂々と見れるというのに、サプライズ的なラッキースケベに興奮したユティの、ミュウへの欲情をサラが防いだり。まだ幼いとはいえ、もう少し淑女らしさを持つべきよ、とシェリーさんから優しいお叱りを受けたり。と、何事も無かったとは言えないかもしれないが、特に問題もなく、”異常なし”という結果を受け、検査は終了した。
カポッカポッ、と、サイズの合わないスリッパの音を響かせながら、ユティと繋いでいる手に引かれる様に歩く。ミトナさんという人の所で色々と必要物資を買うという話だったのだが、靴がない事に気づき、シェリーさんから患者用のスリッパを借りたのだ。
反対側の空いている手は、三つ編み状に編まれた自分の髪の先端を掴んで、おヘソの辺りに持ってきている。こうすると、丁度引きずらずに済む高さになり、束にして抱えるように持つより効率的だという事に先程気付いたのだ。
(…そういえば、異世界に来てから初めてまともに歩いてるなぁ…)
異世界に来てからというもの、気絶して、抱っこされて、馬車で移動して、抱っこされて、と、馬車内での数歩以外で、ちゃんと自力で歩かないまま、地面を歩かないままに、人の住む場所まで、王都までたどり着けてしまっている事実を、改めて実感する。
(あのイノシシを見た時には”終わった”と思ったけど、何もせずに流れに身を任せてただけで安全圏らしき場所に辿り着いたんだもんなぁ。)
偶然にしては運が良すぎる気もするが、転生時に神に会っていない身としては、誰かに導かれているような感覚は湧かない。益体もない事を考えながらも、ワーキャーと騒ぎながら集まってくるお嬢さんお姉さん方を眺める。
まだまったく女慣れしていないので、幼女という役に徹していても、至近距離で受ける好意というのは簡単に御せるものでもなく、それが複数纏めて飛んでくるとなれば、私にはキャパオーバーである事は間違いない。
ベルが居た時とは違い、バカ騒ぎとはならないまでも、髪の長さや色が珍しいのか、子供自体が珍しいのか、遠慮なく近寄ってくる好奇心旺盛な少女・淑女達の波に、ついに恥ずかしさが限界に来たミュウは、手に持っている髪で顔を少し隠しながらユティの背中にくっつく事で回避を試みる。
背中に幸せを感じながらニヤけるユティと、周りからの質問などを適当に受け流すえするサラに前後から挟まれた状態で、止まること無く進み続ける。止まってしまえばモミクチャにされる事が分かりきっているからだ。
歩幅を合わせてくれる二人に挟まれたまま、スリッパの音を鳴らしながら暫く歩き続けると、細めの通路を通り裏口の様な扉の前に到着した。
「ユティ、ミュウちゃんとちょっと待ってて。ミトナさんに話通してくるから。」
「え?…あ、なるほど、りょーかい」
そんな会話をした後、サラは一人で扉を潜っていった。なんとなく察していたので、特になにも聞かずに手を繋いだままのユティに、手や頭を撫でられながらイチャイチャと幸せな時間を過ごす。馬車ではまだ落ち着いていなかった事や複数からの攻撃により、よく分からない感情しかなかったが、こう落ち着いた状態で二人きりで美少女に身体をペタペタ触られるというのは、未だ心に残っている男の部分が悲鳴を上げてしまいそうだ。興奮と羞恥心の狭間で耐えていると、程なくしてサラが出てきた。
「…なにしてるの、ユティ…」
「わっ!べ、別になにも…?」
「はぁ…。ミトナさんに了承貰ったから入りましょう」
「お、おっけー…」
少し熱を帯びたようなユティの手に引かれ扉を潜った先は、小さな雑貨屋の様な場所だった。ユティ達が着ているような服や、廊下を歩いている時に騒いでいたお姉さん達が着ていた制服のようなものなど様々な衣類や、見たことのない道具類など、所狭しと雑多に置かれている。
「その子かい?こりゃまたべっぴんさんだこと!よく来たね!あたしゃミトナってんだ!よろしくねっ」
「…みゅう」
物で溢れかえったカウンターから顔を覗かせ自己紹介してきたのは、元気いっぱいの笑顔が似合うおば様だ。歳をとってるのは分かるものの、若々しくスタイルも良く若い頃の体型をキープしている様だ。特に特徴的なのがその突き出された胸だ。今までに見てきた誰よりも豊満な胸がチェック柄のエプロンを押し出している。茶色い長めの髪は少しカールしており、首後ろから2つに分けられた髪の束は、胸に当って直進ルートを変更していた。
「ミュウちゃんね!小さいのによく頑張ったね!ここは良い所だからゆっくりしていきなっ」
「むぎゅ…ありがと…」
挨拶代わりとばかりに上から包み込む様にハグされ、その豊満な2つのクッションに押し潰される。念のために言っておくが、今言った”ありがとう”はこの胸に対してでは無い。決して。
「それにしても綺麗な桃色だ、染料じゃないんだろう?今までの人生で初めて見たよ~」
「…わたしも」
「?」
念のために言っておくが、今言った同意はこの胸に対してだ。ありがとう。
「よし!じゃあ、何が必要なんだい?この子の為なら頑張って割引しちゃうよ!」
「さっすがミトナさんっ!」
「ありがとうございます。今、持ち合わせがないので建て替えでお願いできますか?」
「あいよっ」
ユティとサラが、ミュウに必要な着替えや靴、髪留めなどを選び始め、好きな色とか好みとかある?など聞かれたが、女物の良し悪しが分からないので、よくわからないというニュアンスの身振り手振りで品定めを任せ、ミュウは一人で店内を散策する事にした。
衣服やよく分からない魔法道具の様な物などが雑多に置かれ、護身用の様な短剣から、調理用の包丁、研磨材や着火材、食用油や潤滑油などなど。生の食べ物はさすがに無いが、カロリーがメイトしそうな、スティック状の保存食らしき物などはあった。
入った時に分かっていたが、他の客は誰も居らず、思った通り入室した扉は裏口のようだった。正面の両開きの扉は閉められており、扉の窓ガラスに付いているカーテンも閉められていた。そのカーテンからそっと外を覗いてみると、大きめの空間が広がっており、人々が行き交う様子と、受付や待ち合い用のベンチ、景観用の観葉植物などの設備からして、ここが最初に見た正面玄関から入れるロビーの様な場所なのだろう。廊下で見た様な制服の人達以上に、街で見たような人達が沢山行き交っている。
裏口からサラが一人で入っていった時の予想では、ミトナさんとやらが気難しい人だから、先に話をしておいたのだろうと思っていたのだが、違ったようだ。
ここに来るまでにも、一般の人達には極力姿が見えない様に行動してきたが、この建物に入ってからは髪を隠さず、堂々と歩いてきた。だが、この店には外からの人も入店出来るのだろう。その為、何の考えも無しに裏口から入ってしまえば、入店中の客が騒ぎ、それを聞きつけた店周りにいる人々にも聞こえてしまう自体になる。それを危惧し、サラはミトナさんに話を付け、現在入店中だっただろうお客さん達を、閉店の様に言い含めて貸し切り状態にする為に追い出してくれたのかもしれない。
(色々、迷惑かけちゃってるなぁ…)
日本人的な考え方のミュウにとって、自分のせいで迷惑がかかっているという状況には、精神への負担が大きいので、お世話になった人達に、いつか、何かしらの恩返しをしなければ、と、改めて心に誓う。
大変長らくお待たせ致しました…。
投稿出来る所まで書けたので取り敢えず、です。 かなり執筆期間が空いてしまったので、書き方や前後関係などがフワフワしてしまっていたらゴメンナサイ…。
ブクマ、感想、誤字・脱字報告などしていただけますと、心が暖かくなります。




