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自慢の(千文字小説)

作者: 小出元春




 夜の十一時、ずっと起きていた僕は今日配布された手紙を帰宅したばかりの父さんに渡した。内容は授業参観の日程の案内で、親御さんの参加を促すものだった。父さんは一瞬だけ目を見開いたけど、すぐに難しい顔になり手帳を取り出した。予定を確認すると、「大切な会議があって行けない」と早々に言われてしまった。就いている仕事上、国に関する会議と僕の授業参観のどちらを取るかなんて僕にでも分かることだった。

 父さんは申し訳なさそうな顔をして「ごめんな」と言いながら僕の頭を撫でた。


 授業参観の科目は国語でその日までに書いた作文を読むというもの。テーマは『私の家族』。みんなは実際に親が観に来るから、作文を読み上げるのをかなり嫌がっていたけど、参加者のいない僕には全く緊張や恥ずかしさは無かった。授業中に先生に当てられた僕は、日頃の鬱憤を晴らさんばかりに父さんがどれだけ凄い人なのかを延々と読み続けた。

 毎日のように会議をして帰りは夜中。たまの休みにはこの国の未来を喜々と語り、「あの計画には父さんも関わったんだぞ」と話す姿は僕の自慢だったから。


 授業参観から二週間ほどしてから僕は先生に呼び出された。職員室に入ると、先生から三者面談の日程が合わないなら御父様が休みの日に家庭訪問という形でお邪魔できないか、と相談された。

 その日の夜に父さんに相談すると、来週の日曜日なら休めそうだと言われた。



 日曜日、家庭訪問に来た先生は日頃の僕を褒めるような内容を言い、少し戸惑った。それより困ったのは先日の作文の内容を言われた時だ。父さんは横で「いや、嬉しいですね」なんて言いながら頭を掻いている。僕は恥ずかしくて俯いていると大きな手が僕の頭に乗っかった。


 「それでも僕は自慢する人にはなってほしくない。自慢される人になってほしいと思います。そして、出来れば自慢できる息子になってほしいですね」


 その言葉を聞いた日から僕は自分でも驚くくらい勉強を頑張るようになった。勉強ができることが偉いことだとは思わなかったけど、僕は父さんよりも凄い人になりたい。その一心だった。




 お盆になり、久しぶりに父さんの墓参りに来た。墓の掃除をした後、息子も僕の真似をして手を合わせる。「そういえば」と言って息子が聞いてきた。

 「おじいちゃんってどんな人だったの?」

 僕は息子の頭を撫でながら昔言われた言葉を思い出す。

 けどまぁ、あんたの孫に自慢するなら悪くはないだろ、父さん?

『吊るし雛』の父ちゃん・息子verでしょうか。

私も自慢される人間になりたいものです。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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