8話 武器展示会
戦闘系各団体は、にわかに熱狂して各関連団体に連絡を取り合い、慌しく動き出す。
様々な合言葉が飛び交い、あちこちの倉庫から見た事も無い武器の数々が躍り出る。
それらは各団体のメンバー達によって運ばれ、あらゆる方向に向けて、始動の為の準備に取り掛かっていた。
趣味の者達は、この平和な時期でも仮想の戦いを夢に見て、様々な奇想兵器の立案や試作を行っており、それらの集大成は日の目を見る事なく倉庫の肥やしになっていた。それが遂に表舞台に立つのだ。愛する兵器達の晴れ舞台を飾ろうと、彼らは喜び勇んで準備に取り掛かる。
それは奇しくも、あちらの世界で年に2回行われる行事の如く、彼らは熱中して戦いの準備をしていたのである。
それを黙って見ている他の者達ではない。
なんせ領民の殆どと言っても過言じゃないぐらいに、その手の趣味持ちが多い特色を持つ領地なのだ。
余程の非戦闘向きの趣味じゃない限り、戦いに使えないかと、お蔵入りになった倉庫の備品の数々の調査に入る。
中には偶然、投げるとヤバいものがあったりもしたが・・
「アンタ、それ、ヤバいわよ」
「いけるかな、粉塵爆発」
「だからさ、小麦粉がもったいないって言ってんのよ」
「クラスターやるって言ってたし、これ、投げたら相乗効果で、ふふふっ」
「アンタ、旦那がそっちの趣味だから染められたね」
「今行くわよ、アンター」
「はぁぁ、仕方が無いか」
「よーし、こいつの出番が遂に来たー」
「今度は何よ」
「あのね、てんぷら鍋の新作でさ、それを戦闘系の奴と色々考えててさ」
「早い話が何なのよ」
「煮えたぎった油をそのままミサイルにして」
「うへぇぇ、何よそれ」
「だからね、ミサイルを半分にしたようなてんぷら鍋で、使った後は武器になるって」
「下らない・・下らないわ」
結局、ありとあらゆる奇想兵器の数々は、襲い掛かる狼の群れを完全に殲滅した・・いや、まさしくオーバーキルであった。
なんせ想定される敵があっちの軍であり、兵器であるからだ。
対戦車用の兵器を食らえば、どんな奴も粉砕するだろうし、対飛行場用の親子爆弾など食らえば、大群とてひとたまりもない。
科学と魔法をミックスした兵器もお目見えし、理解の及ばないような罠も炸裂した。
魔法の発動を探知して爆発する地雷や、小型のビームライフルも活躍していた。
彼らの頭上を飛び回り、魔法を放つ魔導バード・・こんなの誰が考えたのか・・
確かに相手にも飛び道具はありはする。
だがその遥か先から飛んでくる、見た事もない武器がいきなり炸裂するのだ。そんなもの、どうしようもありはしない。
しかもそれがもう1度炸裂し、その時には火炎地獄が周囲に広がる。
まるで伝説の最上級の火炎魔法でも撃たれたみたいに、侵攻しようとしたある領主軍は壊滅した。
そんなのが5つも飛んできて、それぞれに爆発したのだから。
残党はごく僅か。その誰もが地獄から戻ったかのように小刻みに震えており、二度と戦闘には向かない存在に成り果てていた。
欲にかられて全軍を送り出した各領主達は、誰も戻らない現状に呆然とするばかり。軍の消えた領地など、他国の餌食になるだけだ。
ちゃっかりと南の国は動き出し、亡命領主を担ぎ出して旗頭とし、王国の領土をかすめとろうとし始める。
ここに王国の版図は104年ぶりに縮小しようとしていた。
そうなれば支援の約束など無かったかのように、西の国も東の国も動き出す。
そんな彼らの動きは把握していたが、混ざる意味など無いとばかりに放置していた、我らがブルマン領民達だった。
「もうこれ独立いったんじゃね?」
「だろうな。王国はオレ達とか相手している場合じゃねぇし」
「お前ならどうする」
「決まってるさ。さっさと独立を承認して、軍事同盟を結び、他国への対抗を頼む。見返りは領地の割譲だ」
「お前が王様なら良かったのにな」
「ふん、オレが王ならこんな事にはしないさ。独立したいならしろと言うだけさ。どうせ他の領にはやれない事、だから王国としてつるんでるんだしな」
「カラスより入電」
「なんだ、今更」
「飛行船、数14、急速接近中」
「おいおい、他国の動き無視してんのかよ」
「どうする」
「第一防衛ラインを超えたら撃墜だ」
「砦へ通達、飛行船接近、防衛ラインを超えたら撃て」
「目標確認」
「上げ角調整よし」
「照準よし」
「てぇぇぇ」
「あのよ、オレ、思うんだけどな」
「なんだ」
「これ、妙に威力強くねぇか」
「そういやそうだな」
「前に聞いたのは飛行船にパルス3発とか言ってたろ」
「1発で粉砕したな」
「また来たぞ」
「後で守護神に聞いてみようぜ・・上げ角調整よし」
「ああ、そうしようか・・照準よし」
「てぇぇぇ」
「号令係、暇そうだな」
「いいよ、気分出るし」
「そろそろ交代じゃね?」
「もうそんな時間か、じゃ、メシ行こうぜ」
「お、来た来た。我ら3名、交代」
「ういっす、我ら3名、引継ぎ」
「お疲れ」
「飛行船また来ると良いな」
「え、撃ったんすか」
「2発な」
「うぇぇ、いいなぁぁ」
「んじゃあな」
「おつですぅ」
彼ら砦の射撃部隊は、3名の6交代勤務に就く。
それが12砦なので216名の部隊になっている。
仕事を終えた彼らは、そのまま地下までエレベータで降り、専用の宿舎で食事を摂る。そして次の出動の時まで自由に過ごすのだ。
もちろん、砦には他にも働く者は多い。食事もそうだし、宿舎の掃除や備品の交換など、それぞれに部隊が編成されていて、交代で任務に就いている。
とは言うものの、普段は閑職と言われる暇な部署であり、今回のような事は滅多に無い事だと、皆は戦闘に焦がれている。
だからこそ飛行船への攻撃や、馬車への攻撃をあんなに軽く話せるのだ。
それは奇想兵器をぶっ放した奴らにしても同じだ。
人生初にして最後になるかも知れない戦いの場に、余計な感情などもったいないと・・
魔物相手とは違う、本物の戦争に、彼らは酔っていたのかも知れない。
それこそが、その性癖こそが、彼らが趣味の者達と呼ばれる所以なのかも知れない。
「カラスより入電」
「次は何だ」
「遥か東より飛竜の群れの接近だそうです」
「何、ファイヤードラゴンか」
「ワイバーンだ」
「今、日本語なんだからカタカナで言ってくれよ」
「ああ、気を付けるが、どうする」
「どうすると言ってもな・・魔物は守護神に連絡する決まりだろ」
「素材そっくりだしな」
「うし、連絡して見学だ」
「酒もってこーい」
「こら、ふざけすぎだ」
ワイバーンか、久しぶりだな、クククッ・・
平常運転になってるようです。