7話 連合軍
実はブルマン領の秘匿兵器について、周囲の領主はそれと知りつつ王宮に報告はしていない。
それにはある理由があった。すなわち、届くのである、射程が。
うっかり漏らして消滅したくはないと、彼らは貝のように口を閉ざす。
では何故、その射程を知る事になったのかだが、砦が出来てから現在まで、魔物被害での救援要請が何度かあり、他言無用でそれを殲滅してきた実績がある。
隣の領主が必死で応戦する魔物に対し、どこかからともなく飛んできた光の魔法で魔物があっさりと消し飛ぶ様を何度か見る事になり、代々の領主に伝えて来たからである。ブルマンの秘密は誰にも漏らすな、漏らせば消えてなくなると。
もろちん他にも理由はちゃんとある。
それと言うのもブルマン領では食料危機の経験がなく、輸入食料が無い年もありはしたが、そう言う時には逆に輸出すら行ってきた。
ブルマン領には売るべき物はいくらでもあるが、隣の領にはそこまでの物は無い。
なので魔導具などを売るにあたり、食料購入でバランスを取って来たとも言える。
豊作でも変わらず買い取ってくれる隣の領の存在は、何かと台所事情の苦しい領主にとってはお得意様にも等しく、それで得られた金で特産品を買う。
ブルマンの魔導具や魔導馬車などは誰もが欲しがる品であり、だからこそ王国の勅令で動けなかったとしても、彼らの秘密だけは出せなかったのだ。
そんな彼らだが、今回の契約違反のような戦時特例税の徴収は、当てにしていた軽減税率を反故にするような行状であり、それは予算に計り知れないダメージを与えた。プラスと思って使ったら、実はマイナスでしたってなもんで、財政危機を迎えるのも道理と言えた。
しかし、王国としては今は戦時中。ただでさえ戦費が嵩む中、とても猶予や先送りなどはやれそうにない。
かと言って領民にこれ以上の無理は・・近年、脱民・・隣の領に逃げ出す民が増えており、これ以上締め付けたら一族郎党まとめて逃げ出されてしまう可能性もあった。民が減れば税収も減る。減ればまた増税せねばならなくなり、更に民が減る。そのジレンマから彼らは遂に、密かにブルマン領に繋ぎを送る。
連絡を受け取ったのは彼。そこまで苦しくなっているとは思わなかったと、軽い気持ちで融資をする。今までの所業など知らぬ風に・・
確かに財政危機は乗り越えたが、王国の所業と彼の行い。それを嫌でも比べる事になる。
どの道、今回の戦いに勝てば彼らは独立する。となると国になる訳だ。
普通なら国と領主の戦いは一方的になるものだが、彼のあの余裕は一体と。そして秘密の兵器らしき存在。
そういう色々な要素が絡み合い、もしかしたら勝てると思っているのではないかと思ってしまったのである。
それなら今の内に傘下になっておけば、後々は魔導具なども優先的に・・
そういう話があちこちで行われ、領主レベルでの話し合いも極秘に行われ、ブルマン領の周辺の領主達は、連合軍を組む事になる。
そしてブルマン領に対し、我ら連合軍との軍事同盟を求むとやってしまったのであった。
しかし、そういうのは普通、独断での軍事行動とも言える。
ブルマンはあくまでも王国の領主。確かに独立宣言はしたものの、兵を出して近隣を攻めたりなどしていない。
つまり、王国が攻めてきて、そのまま恭順すれば戻れない事も無いのだ。
しかるに連合軍は既に王国に独断での軍事同盟という、所属から勝手に離脱したも同然。
彼らこそ反乱軍として討伐の対象になりかねない行動に、ブルマンが王国に恭順したとしたら、彼らははしごを外された反乱勢力になってしまうんじゃないか。
そんな会合での冗談話も出るぐらい、彼らの行動はまともじゃなかった。
「あいつら、何か勘違いしてんじゃねぇのか」
「大方、オレ達が王都に攻め入るとでも思ってんじゃねぇのかよ」
「ふっ、あり得んな。宣戦布告をした相手がいる以上、のこのこ来るのを待ってれば良いだけの事。余計な戦費を使って攻める理由などどこにもねぇよ」
「そうだよな。オレ達は独立を宣言したんだ。それが嫌だから攻めて来るんであって、オレ達は別になし崩しで問題ねぇんだし」
「そうそう、王国が諦めたその時点で勝利なんだから、それを待ってれば良いだけさ」
「なら、答えは決まってるな」
「却下だ」
「異議無し」
まさか断られるとは思わなかった連合軍は、今後の行動指針を見失う。
もはや王国の知られているかも知れない今回の独断での軍事行動。
彼らはある意味、背水の陣にも近い気持ちで臨んだブルマンとの軍事同盟の為の立ち位置の確保。
素直に傘下に入っていれば、負けても恫喝されたで終わったかも知れない立ち位置を、自ら捨てて欲を掻いて後戻り出来ない場所に来てしまったのだ。
こうなればもう開き直るしかないと、連合軍は独立連合体として独立をそれぞれに王国に宣言する。
振って沸いた事態に、対ブルマン討伐軍の編成をしていた王宮は、これを漁夫の利を得る行為と受け取る。
たちまち他の領主達に連絡を入れ、反乱領主達の討伐を通達し、獲得領地の半分をくれてやると伝えて使者を送り出す。
そうなれば食指の動く者多数な訳で、たちまち連合軍は周囲から攻められる結果となり、領主の一族は必死の思いでブルマンの門を叩く。
かつての立場は既に無く、ただの個人としての亡命に過ぎず、ただ、匿われるように小さくなって生きていくしかなくなった訳だ。
他の領主達に散々食い散らかされた彼らの領地は、それぞれ申告の後に分配される事になるのだろうが、王国はブルマンを放置して何してんだと、作戦本部は再度呆れる事になるのだった。
しかしそこからの行動は今までの稚拙な作戦行動とは違っていた。
食い荒らした狼をそのままブルマン領に放ったのだ。
獲得した領地の半分は王国に出す事になるが、それが嫌なら・・
全て欲しいならブルマンを獲れと・・あれが落ちたら獲得した領地は全てくれてやると。
かくして周囲の領地のその外側の領主達による、対ブルマン戦が勃発する。
そして王国は彼らを捨石に、体勢を整えるつもりらしい。
「バカばっかりじゃなかったな」
「まあ、それぐらいじゃないと戦う相手に不足ってもんだぜ」
「90式、出せるかな」
「魔導戦車かよ」
「守護神からデータの委譲があってよ、こんな事もあろうかと」
「お前は幸村かよ」
「けど、そう言う事ならうちの秘匿兵器も出そうかな」
「おいおい、お前んとこもあんのかよ」
「そういうお前のところにもあるんだな」
「あのな、この手の所属団体はな、それぞれに秘匿兵器持ってんだよ」
「うげ、ちなみにお前んとこは何だよ」
「ふっ、聞いて驚け。魔導ミサイルさ。しかも気化爆弾入りの派手なやつだ」
「てめ、守護神に水晶貰いやがったな」
「ふっふっふっ、5発あるんだよな、何処に使おうかな」
「たった5発かよ」
「そういうお前んとこは何だよ」
「オレは数百発だな」
「あ、知ってるぞ、お前んとこ、魔導クラスターミサイルだろ、たった1発の」
「上空で数百発になるんだから良いだろ」
「やれやれ、みんなとんでもない事になってんだな」
「あ、守護神、いらっしゃい」
「この際、その秘匿兵器のオンパレード、やってみないか?」
「また供給してくれるって話なら」
「まあ、おいおいな」
「うしっ、やってやるぜ」
「ヒャッハー、武器祭りだぜぇ」
ううむ、もしかしてオレは、パンドラの箱を開けてしまったのかも知れない・・
どれだけ溜め込んでいるんでしょうか、この100年間で。