6話 反転
「7番、射程に突入」
『撃て』
「下げ角よし」
「照準よし」
「てぇぇ」
「うっく」
「こりゃ強過ぎるな。纏めていくつかの馬車が消えちまったぞ」
「次、照準よし」
「まあ、消しとくか」
「白旗ぁ」
「ぐっ、くそ、もっと早く出せよ。指が動くとこだったぞ」
「位置情報送れ」
『白旗確認』
どうやらパルスの1発で馬車がいくつか消え、残りが降伏したらしいという報告を受け、地上部隊が彼らと接触をする。
そして軽い拘束の後、そのまま軟禁する事になったのは良いが、拘置所で出る飯を必死で食ってる奴ら・・
旨いと言われても困るが、どうやらもっと生活水準は下らしい。
領地では自給率がオーバーしているせいもあり、かなり彼の倉庫に消えている。
とはいえ、可能な限りの輸入食料品で賄うようにしていたせいもあり、不足の事態にはならなかった。
それは輸入が止まった今でも変わらない。倉庫に入れる量を減らすだけの事で余裕で賄えるからだ。
そんな訳もあり、上から下まで全ての領民に食料が行き渡るのが当然な領では、彼らの飢え様が理解出来なかったらしい。
ついつい事情を詳しく聞くにつれ、とても不思議な気持ちになったとか。どうして上がそんなに持っていくのかと。
自給率が低いなら低いなりに分配すれば良いのにと・・
そういう質問を受けても相手は困る。それも不思議そうに言われても。
そして相手もこの領の実態を知り、その気持ちが段々と揺らいでくる。
そして最後には決断する。亡命したいと・・
手土産とばかりに作戦の全貌を話す事になり、潜入作戦でしたと、その計画書のままに全てを晒す。
試しにと欺瞞情報を流してみると、それに呼応して動くような感じ。
どのみち王国もまともに来ないし、しばらくは南の国と遊んでいようと、彼らは虚実織り交ぜた作戦を立案し、実行していった。
一方、8番と9番は待てど暮らせど来ない敵影に痺れを切らし、調査を依頼してそこで降伏を知る。
やれやれと思ったが、手柄を逃したような気分になり、軽い気持ちで超々遠方射撃を試して見る事になる。
地図を確認し、射程距離を遥かに越え、地平線の彼方を隣の砦と共同で狙う。
丸い惑星のギリギリの位置・・遥か彼方の地表目掛け、揃ってパルスの5連射を放つ。
元々38発撃てる砲だが、減っても一般出力で少しずつ補填されている。
今回はテストの意味もあり、砲の水晶を空のものと取り替えての急速充填をやっただけの事。
次の敵が来るまでに補填もやれるだろうと、彼らは試験も込めてそれを実行したのである。
それが何の偶然か、淡くなったビームが10発、後続の馬車の群れを舐める。
馬は驚き棹立ちになるも、何が原因か分からない状態。
そのうち淡い圧力を感じる者多数となり、何かしらの攻撃が届いたと判断。
しかし肝心の目標は遥か彼方。まさかそんなところから届く攻撃があるのかと、司令官は背筋が寒くなる。
これだけ遠くて助かったが、至近距離で浴びたらどうなっていたか・・司令官は急遽兵を纏め、伝令を飛ばす事にする。
敵の未知なる攻撃を受けし。目標遥か彼方なれど、淡く感じし。至近なれば恐らくは全滅なりし。望むなれば進軍の指示をされたしと・・
その司令官・・第三王子の報を受けた国王は、かねてからの噂にあった、砦の事を思い出す。
あれはやはりただの倉庫ではなく、何かしらの攻撃の意思を持った・・
元々、そこまでの義理も無い王国からの依頼。
国王は撤退を指示し、彼らは急遽国に戻る事になる。
ただ、南の国では王国宛に、未知なる攻撃で支援軍は全滅となりし、賠償を求むと・・
転んでもただでは起きない、南の国の国王だった。
もっとも、そんな事態になったのは彼が10倍に強化したにも関わらず、射程の変更を伝えなかった為であり、南の支援軍があと数キロでも近付いていたら、連続照射で全滅も可能という微妙な距離だったせいもある。
その一部始終は高高度情報偵察機に収められ、作戦本部に伝えられる。
本来であれば秘匿兵器の無断使用での情報漏えいのような事件だが、7番が情報を伝えるのを忘れて放置された為、臨戦態勢でひたすら待たされた気持ちも分かるとして、今回は不問とされた。
彼らもまた開戦までひたすら待たされた訳であり、その心情察するに余りあるという感じだったのだが、そういうお互いの心情を汲み取る事を当たり前にこなす彼らなればこその結束の固さとも言えた。
そこには規律よりも強い意志のようなものが感じられ、悪く言えば甘い軍とも言えるが、それこそが彼らの特徴とも言えるのだった。
それは彼らが元々、空気を読む事に長けた民族の出であり、その中でも一般とは少し違った趣味嗜好を持つもの同士の連帯感もあり、相手の事を思いやれる心を持った者達だったからなのかも知れない。
他の国の上層部に兵士の心を思い遣れる者など皆無なのからすると、かなり変わった者達と言うべきではあるが、それが彼らなのだ。
敵を知らず、おのれを知らず、攻めて来る王国軍に明日はあるのか・・
その頃、彼は新生ミカと共に寝所でしっぽりやっていた。すっかり戦いの事など忘れ・・
そしてそのうち、そう言えばと思い出し、ミカと共に町に繰り出す。珍しく素の姿で彼女を伴って・・
彼は滅多に素で出る事がなく、その為かその風体も相まって、変な者に思われていた。
すなわち、次期魔王の魔皇子という異名を付けられていたのである。
以前、対処を尋ねられ、またかと思いつつも放置と指示していた。
そんな訳で町を歩いても何も言われる事も無いのだが、それゆえに彼はすっかりその事を忘れ、ミカと共に久々の町歩きを楽しむのだった。
「魔皇子が来てるぞ」
「魔界でも評判になってんのかな、今回の事件」
「まあ、独立国になるんだし、魔皇子のところと交易とかになったりしてよ」
「魔界の名産品とか手に入るようになるのかな」
「けどよ、魔族って敵対なんだろ」
「敵対だったらあんな風に時々来るかよ」
「そうだよなぁ。守護神も放置って言ってたし、独立したら何か交流が出来るのかもな」
「そういうのも何か面白そうだよな」
「魔界観光とかさ」
「面白そうだぜ」
「今日は姫を連れて来てたぞ」
「じゃあますます友好は近いって事かな」
「守護神に嫁がせるつもりかな」
「おう、あり得るな」
「意外と妹だったりしてよ、魔皇子と義兄弟とかになるのかな」
街から戻ったミカは爆笑しており、彼は憮然としながらも姫と嫁ぎの話に閃く。
どのみち魔界など知らんが、そう言う事にすればミカの姿も受け入れられるんじゃないかと。
そんな訳でミカと話を合わせ、ミカは魔皇子の妹って事になり、晴れて守護神の妻として公示された。
それからというもの、守護神姿の彼の傍らにはミカの姿があり、そんな2人を自然と受け入れる事になった領民達。
ちなみに魔界云々の話は極秘事項として兄から止められていると、ちゃっかり答えるミカだった。
それにしても紛争はどうなったんでしょうね・・




