4話 状況把握
「申し上げます。戦時特別情報隊より入電」
「おいおい、そこは『カラス』と言ってやれよ。折角のコードネームなんだし」
「それより、いよいよ進軍開始か」
「いえ、どうやらこれから兵を集めるようですな」
「泥縄かよ」
「くっくっくっ、悠長な事ですな」
「緊張していちゃ神経が保たん。足並みが揃うまで通常任務に戻らせよう」
「ああ、すっかりあっちの戦争と勘違いしてたな」
「で、作戦名はもう決まったのか」
「それがな、あちこちの団体から色々出て来てな。やれバルバロッサだの何だのと」
「攻撃の作戦名は拙いだろ。うちは防衛で勝つ戦法なんだしよ」
「んでな、困ってたところに守護神が来てな」
「まだネーミングセンスは治ってないんだろ、大丈夫だったのか」
「いやそれがな、意外と新鮮と言うか、素人意見と言うか、ノーマルからの視点と言うのもバカには出来んと思ったんだ」
「じゃあ、守護神の命名になったのか」
「作戦名は『サコク』だ。どうだ、オレ達の頭からは出て来ない発想だろ」
「確かに防衛構想に合っているし、盲点だな」
「だろ、だから満場一致で決まったんだ」
「んじゃ、この会議も『バクフ』にするか」
「お前も守護神並のネーミングセンスだな。柳の下にそう何匹もドジョウが居ると思うなよ」
「いーじゃねぇか、鎖国だから幕府でよ」
「『リンジコッカイ』になったぞ、通常の会議の『コッカイ』の戦時版だから」
「なんか当たり前だな」
なんか知らんが侵攻スケジュールなるものが送られてきた。
どうやらあちらさんの侵攻計画をスパイしたらしい。
それによると1ヵ月後に足並みを揃えて一気に領境に到達、これを破壊しての侵攻で、それと共に飛行船部隊が四方からケモシティに空爆ね。
えっと、注釈か。ああ、オレがやったような火炎つぼ作戦か。
ただなぁ、砦の射程もかなり長い上に、万が一抜けれたとしても城壁対空システムがあるからな、あれは抜けないだろうな。
以前、テストとして砦の【ビーム】砲と同等クラスの魔法を岩竜にパルスで使ったら、大穴が開いちまったからな。
元は1万のつもりが、念の為に10万/秒に強化したせいだった。
あいつらには連続照射でやっと竜を倒せるレベルだと説明したけど、ワイバーンの乱れ撃ちもやれそうだぞ。
10匹ぐらいの群れなら簡単に落としちまいそうだな。ううむ、許可出しとくかな。
「ガリク将軍、あなたは反逆者だ」
「何を言うかっ、あいつはこの王国に対して狼藉を・・」
「待て・・」
王国では突然の独立宣言に慌て、将軍が王の許可無く使者を斬ろうとしたとして、反対派に散々に叩かれていた。
宰相はそれを黙って見ているだけであったが、王が今はそんな事を論じている場合ではないと一喝した為、問題は水面下に潜る事になる。
その場で将軍を許し、反対派にも便宜を図っていれば終わったはずの話も、先送りしたが為により深く根を下ろす事になったようである。
最近の王国はこういう事が多く、だからこそ反対派なる存在も生まれている訳なのだが、王はそれに全く気付かず、宰相もそれを口にしない。
かつての王国の体制にはあるまじき存在だが、今は彼以外に王に進言出来る者も居なくなっている。
数年前に筆頭宮廷魔術師が超高等魔術の習得に失敗し、精神をやられて廃人になって以来、彼の地位を脅かす存在は居なくなったのだ。
それからというもの、彼は以前にも増して王の専横を推奨するような行動を取るようになる。
今回の宣戦布告にも同調し、更に煽るような言動まで取るようになっていた。
確かに一領主と王国では戦力の差があり過ぎると普通は思われがちだが、戦争は攻めるほうが食料消費も多く、また経費も増大する傾向にある。
彼の領地は防衛のみを主とした構想を立てており、宣戦布告をした以上は現地まで兵士や食料を運ぶ必要があり、損耗すればまた補充しなくてはならないという、多大な消耗が予想される紛争になるだろう。
そこまで見越しての宣言なら立派なものだが、果たしてどうなるか。
技術格差を乗り切って人海戦術で領地を占領せしめるか、領地防衛構想に基づく防衛網が防ぎきるか。
そのシミュレーションは領地では恒例のように行われていて、その時々の王国の全兵力を投じての戦力予測に基づく対策まで講じられていた。
「あれからかれこれ1ヶ月だが、まだ報告が来ないのか」
「どうやら戦争反対派が、色々と邪魔をしているようですな」
「争いたいなら戦争が終わってからにしろよ。待ってる身にもなれよ、じれったいな」
「カラスより入電」
「お、いよいよか」
「王都で火災発生、食料の大半が焼失、進軍に遅れが出る模様」
「おいおい、オレ達のせいにされそうな事件だな」
「冗談じゃあるか、こっちは黙って待ってるんだぞ、誰がそんな事をするか」
「そうだよな、そんな無駄な経費、あるなら防衛隊の備品に使ったほうがましだ」
「もーいーくつ寝ると、開戦日ってか」
「はぁぁ、解散、解散」
「次は来週か」
「何も無ければ来週、あれば随時な。はい、解散、また来週」
「なんかアニメの放送みたいだな」
「くっくっくっ」
中々足並みが揃わないようです。