3話 宣戦布告
相手陣営の事はリアルタイムで把握され、盗聴の音声は会議場に響いている。独立宣言を受けていきり立つ将軍は、王の許可も得ずにつかつかと使者に歩み寄り、スラリと剣を抜き、大上段に振りかぶり・・
(防衛システム作動・・うぬっ、面妖な・・では、私はこれで・・おのれ、逃すか・・転移・・バカな・・)
「使者を斬ろうなどと」
「愚か者ですな」
「まあそんな愚かなところも把握済みだけどね」
「あの王って傀儡なのか」
「一応、自分の意見は言うようだが、強硬に言われると下がるようだな」
「あの将軍、王を舐めてるだろ」
「宰相も曲者だな。あいつらが左右から操ってんな」
「まるで雑草の如し、風に吹かれるままに右左、あれが王国のトップなら未来は暗いな」
「防衛システム、巧く作動したようだな」
「はっ、何度かテストを行いまして」
「実はあの魔法水晶、作るの面倒だからあんまりテストで消費せんでくれよ」
「ははっ、気を付けまする」
「てかさ、何でそんなに畏まった言動なのよ」
「えと、御前会議なので、その」
「その手の趣味なのは分かるが、こっちが固くなるから程々にしてくれよな」
「申し訳ないです。あのほうが気分が出ますので」
「やれやれ」
(あの粉について何か分かったか・・どうやら魔法を水晶に封じ込めていたらしいですな・・あの大きさで安定するのか・・普通ではあり得ない事ですが、恐るべきはブルマン領の技術ですな・・紫水晶で同じ事がやれるか・・魔法を封じ込めようにも、すぐさま発動してしまいますので、留めておく方法が分かりません・・うぬぬ・・しかもあの粉、およそ考えられない程に純度が高いのです・・そんな事もやれるのか・・あれを再度錬金したところ、一瞬ですが相当に透明度の高い水晶になりまして・・何とか作れぬか・・もっと大量にあれば、或いは・・純度を上げるにはどうすれば良い・・それが皆目・・うぬぬ、開示要求にも応じぬ。あれさえあれば・・そうですな)
ふーん、かなり把握してんな。純度の高さを知られたか、まあいいけどな。
作り直して不純物排出の発想が無いと先には進めないんだよ。進みたいなら物理を学んだほうがいいな。
オレ達みたいにあっちに子供達を留学でもさせないと無理だろうけどね。某県某市某町にはオレ達のセーフハウスがある。まあ、全国何ヶ所かそういうのがあるけど、将来的に上に登らせたい親が申請し、子供が承諾すれば可能な留学。実現後に転移拠点に流用出来て便利だしな。
国籍や本拠地を偽装し、仮初の国民となって基礎知識を学ぶ。
この試みは既に体験済みなので実行は手間要らず、すぐさま実行に移されて今では専門職や上層部には必須の学歴となっている。
なので日本語を学ぶ必要もあり、ブルマン領では第二国語が日本語になっている。
ただこれ、親からしか教われない言語なので、他領の連中には未だに未知の言語扱いなのよな。
・・日本語は孤立言語、習得が大変な言語として有名だが、それだけに暗号にも用いる事が可能とされている。特に連想という技術を用いれば・・
この本って誰が書いたの?その手のフェチだろうと思うが、本当に多種多様のおたく連中が居るから、多分この領って派閥乱立に見えるんだろうな。
しかも対立を演出するのが好きな奴らも居て、だから偽反乱芝居とかやって楽しんでるけど、あんなの見たらきっと内紛一歩手前ぐらいに思うんだろうな。
しかし、あいつら配役が酷いんだぜ。オレを悪の黒幕みたいにしやがって。
(王国と戦う意思などとんでもない・・うむ、だがな、諭しても止まらんのだ・・どうする、我らだけで反逆しても・・かくなる上は他国へ亡命すべし・・おうっ・・おうっ・・これは好都合、早速知らせねば・・・・はーい、カット・・どうだった・・もうちょっとこう、お館様を悪の代名詞みたいにするとかさ・・亡命を内乱にするとかさ・・)
確かにかつて映画を作った時に発足させた映画研究会だけど、すっかり変な方向に染まっちまって・・
しかもあいつら確信犯みたいに、他国や王国の間諜の近くでわざと芝居してやんの。
シュプレヒコールとか叫んだりしてさ、いかにも本気で内乱を起こそうなんて雰囲気作り出して・・
まあ、路上演劇の届出はしているようだから何も言えないけど、知らない奴がみたら驚くぞ・・
あれ、またやってる。好きだねぇ。
「魔王を倒せ」
「「おーー」」
「よ、お疲れ」
「あ、守護神、どうもです」
「今度は魔王かい」
「いや、あはは、このほうが気分が出ますので」
「やれやれ、お手柔らかに頼むよ」
「いやいや、申し訳無いですな」
けどなぁ、あの守護神ってのも何とかならんもんかな。
確かに裏の支配者とか言われるよりはましだけど・・
以前は前当主とか、前々当主とか、前々々当主とか言われてて、キリが無いからってんで誰からともなく・・んで、すっかり定着しちまって。
まあオレも、あんまり前々々々言われると化け物と言われているみたいで気分が良くないが、まあ仕方が無いのかねぇ。
こっちに来て103年か。通算だと130才越えてんだもんな。
ミカもアンチエイジング効果もあるからもっと長生きすると思ったけど、あっちの薬漬け食品のせいか、意外と短命だったな。
まあ、何とかバイオロイド化が間に合ったから移したけど、もうミカとは夜も添い寝ぐらいしかやれないんだよな。
そこまでの機能を持たせるには、上の転生システムを使うしかないけど、あれを使うには記憶の封鎖が必須と言われちまって・・
だからオレのお手製人間もどきでお茶を濁すしかなくてさ。
一応、喋れて動けるけど、生殖機能は無いんだよな。
記憶力も悪いから新しい事は中々覚えられなくて、だからいつも外の景色をぼんやりと見てて・・
あいつ、あれで本当に幸せなのか?解放は断るけど、本当は生まれ変わりたいんじゃないのかな。
それをオレが留めているんだけど、本当にそれで良いのか、ミカ・・
ふうっ、もっと研鑽するか。ミカが人間に戻れるように・・そうだな。
「守護神、使者が来るようです」
「ほお、早いな」
「どうやら飛行船のようですな」
「ふふん、我が領からの献上品をそのように使うとは」
「後、劣化版の気球船もどきも何隻かあるようです」
「どうせシーサーペントウルフの浮き袋とか知らんのだろ」
「いや、知っても獲れないですって」
「まあそうだろうがな、それで、準備のほうは」
「臨戦態勢で緊張して待機、まあ、気分はノリノリですよ」
「シミュレーションも何度やったかな」
「ここんとこ、毎月恒例の行事になってましたからな」
「やっと本物が始まるか」
「まあ、あんまり本番って気がしないのが何ですけど」
「関係各所に伝達。今回のシミュレーションも頑張れと」
「くっくっくっ、了解です」
やっと始まるか・・
やっと始まりそうです。