2話 準備完了
「ここは民主主義だ、封建社会とはやはり相容れん」
「ここは第二の故郷なんだ、今度こそ守りたい」
「そうだな、かつてのあの国は当時の大人達に好き勝手にされたが、今はオレ達が防衛を担っている」
「そうだとも、その為にレベルも上げた」
「彼は拒否すると言っていた」
「当然だ、侯爵の地位でここを捨てるなどあり得ん」
かつてファンタジー系の移民を募った関係上、おたく率が派手に高いのがこの領地の特徴だ。
今では上層部もおたくで占められているぐらいだ。
あちらで戦闘関連、情報関連組織の中の趣味の奴らを募った結果、やたらとその手の情報に詳しい奴らが得られた。
なので、早々に防衛、情報部門などに人員を振り分けられたものだ。
しかも、親がそうなら子も染まるってなもんで、今では違う奴らを捜すほうが難しい有様だ。
あれで職員専用図書館の設立も押し切られてしまったが、何度もリクエストを聞いて運んだから、かなり充実してるはずだ。
あの国は実質的に終わったようなものだが、ここはまだ古き良き日本の名残が残っている。と言うか、おたく連中が復刻させちまったと言うべきか。
確かに科学と魔法の技術は相当進んだが、分離政策で完全に分けられている。
防衛関連と民間の生活環境では、立地から内容まで様相が全く異なるのだ。
まるで昭和初期みたいな町並みと暮らし振りかと思えば、防衛関連は近未来的だ。
更に言うなら、諜報系はもっと進んでいる。
現在、全ての国に根を張る情報部や、高高度を飛行して各国の詳細地図を作成する空軍諜報部隊による飛行船部隊や、盗聴を専門とする盗聴局など、全ての国の機密は筒抜けに近いと言って良いだろう。
さて、市街の様子でも見てくるか。
「あら旦那、寄っていきませんか」
「悪いな、今日はちょっと忙しくてな」
「それは残念ね」
「景気はどうだ」
「若い子はやっぱり元気ねぇ」
「あっちが酷いからな、こっちに来たらしばらくは止まらんのだろう」
「お陰様で大繁盛よ」
「そりゃ良かったな。で、ツケはどの程度だ」
「かなり溜まってるわ」
「うちに回しといてくれ」
「はいはい、遠慮はしませんよ」
「構わんさ。それでな、ちょっと国とやりあう事になってな」
「聞いたわよ、頭を下げたのに無視したとか、税金出したのに没収したとか、構わないからやっちゃまいな」
「心強いな」
「ここいらは問題無いからさ」
「そうか、なら頼むな」
「あいよっ」
復刻版の遊郭ってか。けど、強制は皆無ってのが良いよな。
なんせあっちの狂った法律の恩恵で、なり手には事欠かなかったからな。
それで今でも世間に認知されていて、ああやってなり手はやって来る。意外と高給なのも人気の秘訣かも知れんが。
しかしな、人気ナンバーワンが獣人ってのはやっぱり、その手の趣味持ちが多いって事だろうな。
だから花街でも7割ぐらいが獣人なんだけど、みんな明るいんだよな。
好きでやってる仕事だからだろうけど、引退後のサポートもかなり充実させた。
引退後は悠々自適で若い子の世話をしているみたいだな、さっきの女みたいに・・
さて、次は・・
「おうっ、旦那、暇かい?」
「視察かな」
「もしかして、あの噂、本当かい?」
「さて、どんな噂になっているのやら」
「戦争とか聞いたけどよ」
「耳が早いな」
「うちの子が関係者なもんでな。まあ、叱っといたけどよ」
「家族だから軽くなったんだろ」
「国防に甘えは厳禁だ。ちょいと説教しといたが、あれで締まれば御の字ってとこだろ」
「さすがは元海保の司令官だな」
「よせやい、昔の話さ」
「今回は相手が王国だ。オブザーバーとして参加してくれるな」
「こんな爺さんでも役に立つなら使ってくれ」
「助かるよ」
さてと、元経験者を参謀にして・・おっと、愛で隊と守り隊の奴らにも伝えておかないとな。
あいつらはちょっと過保護だが、それだけに後方支援としても優秀だからな。
うん?・・魔導メールにメッセージか。ふむ、やはりそうか。側近に染められた結果か、情けない王様もあったもんだな。
しかもその側近、東の国からの利益供与ってよ。どうなってんだよ、あの国はよ。
オレ達が進歩しているってのに、あっちは退化しているみたいだぞ。ほお・・またぞろ南と西が協調路線か。
あそこも変わらんな。どのみち東とも合わさって、恩を売って何かしらの恩恵を受けようって腹か。
しかし、甘いよな。何の為に魔物砦を12ヶ所も作ったと思ってんだ。対王国だけでそんなに要るもんかよ。
四面楚歌でもやっていけるように、防衛構想は徹底してんだ。
今じゃ気象魔法の恩恵と、近代農法のコラボで、以前よりも生産量は上がってるし、バイオ系もかなりやれてんだ。
現在、領民の倍の自給率は伊達じゃねぇってもんだ。まあ、オレの倉庫にあらかた入っているけどな。
可能な限り外から仕入れ、自前の食料は備蓄に回すと。これももうじき終わるか。
「戦争なのねん」
「誰から聞いてんだ、やけに情報が早いんだが」
「あらん、うちもメンバーよん」
「そうだっけか」
「うちの旦那だけどねん」
「ああ、トシから漏れたのか」
「噂だと報酬はお酒って聞いたけどん、本当なのん?」
「情報媒体だ」
「え、それって、まさか」
「欲しいだろ、あっちの最新の情報媒体とか」
「うわぁぁぁ、やるわ、何でも言って」
「既にメーカーに50万個発注済でな、製造が追い付かずにてんてこ舞いらしいな」
「え、そんなに防衛隊多くないよね」
「後は売るんだよ、国民に」
「じゃあ、参加すればタダ、そうじゃなければ有料になるのねん」
「メーカー小売価格18万だったかな」
「それで50万個も買えるのねん」
「いや、それぐらい買わないと、戸籍の無い奴など相手にしてくれん」
「うっく、じゃあどうあがいても」
「今アッチはちょっと前のドイツみたいになってるからな、密告されたら終わりだぞ」
「うぇぇ、ますます狂ってるねん」
「しかしその語尾は隊長伝統になっているのか」
「婆様伝統かもん」
「爺さんと同じ名を付けられた旦那か」
「あらん、アタシも似たようなものよん、グリンだし」
「グリリンにならなくて良かったな」
「そんな名前なら親捨ててるし」
「くっくっくっ」
ふうっ、戦争の噂が流れても、中々に平穏なものだな。まあいい、こっちは準備完了だ。とっとと宣戦布告なり何なりしろよ・・
かなりざっくりですね。