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異世界ツアー2 ~異世界の未来とその趨勢~  作者: 黒田明人
5章 第二次対連合軍紛争勃発
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25話 火山

 

 

「はっはっはっ、見よ、小僧は逃げ出したぞ」

「まさか、勇者様が、そのような」

「【浮遊】は使えるようだが、それぐらいで何もやれぬ。さあ、カイナ卿よ、あのような抜け作にどれだけの予算を食い潰したか、覚悟は良かろうな」

「勇者様には何かお考えがあっての事と推察する。今しばらく、しばらく」

「明日にはその首貰い受ける。覚悟しておくのだな、はっはっはっ」


カイナ卿は勇者の考えは分からなかったものの、このままでは命すら無いと考え、身の回りの物をかき集め、急いで国を離れる事にした。

と言うのも最近、色々と肩身の狭い事になっており、引退して田舎でのんびり暮らそうと思っていた矢先の事、最後の花道のような召喚だったのだが、もう無理と諦めてすぐさま国を発ったのだった。


そしてしばらく進んだ頃、地面が揺れるのを感じた。

ふと見ると周囲に落ちた隕石の群れ。

偶然にも隕石と隕石の隙間で助かったと思うと共に、早くこの場が逃げねばと彼は御者に急げと伝え、急がなければ死ぬ事になると必死で御者は馬をせかす。

衝撃で揺れる地面を馬は必死に駆け、どれくらい時間が過ぎた事か、またひとつ大きなゆれを感じ、振り向いた彼の目には、地表から溢れ出る溶岩。

それが猛烈な勢いで周囲に広がっていく。


馬も倒れよとばかりにムチを振るい、馬は必死でそれに応える。

そのうちに熱気が彼らを包み、もうダメかと思ったがからくも圏外に逃れ、彼は命拾いをしたと思うと共に、あれがあの勇者の力だと感じた。

そして誓ったのだ。この事を知らせねばならぬ。勇者とは諸刃の剣だと・・


彼は地震発生の事しか頭に無かったが、地殻の下には溶岩があり、刺激を与えると噴き出す事になるのを忘れていた。

半径5000キロのドーナツ状に散らばった隕石の数々は、それぞれの目標に向けて収束しながら落下していき、その衝撃の殆どを内側へと発生させた。


そこまでは彼の計算通りだったのだが、その際に隕石は崩壊せずに地中を進行し、そのままマントル層まで突っ切ったのだ。

そして地中深くでそれらがぶつかり、超高温を発生させた。

それは中心核の数十倍にも当たる猛烈な高温で、周囲の溶岩が一瞬で蒸発し、体積が莫大に増えた。

その力は直上に向かって進行し、勢いよく噴き出したのだ。


そしてその流れに周囲の溶岩もが同調し、ここに惑星規模でも最大の火山が発生した。ただ、これが人為的だったが為に、噴煙はさほど上がらず、溶岩がただ溢れるように流れ出て、辺り一体を火の海に変えるに留まったのだが、火山の周囲数百キロに及んだ溶岩流のせいで、生きとし生ける者の存在は全て蒸発したのであった。


ヒマワリは遥か南で発生した火山を捉え、本部に災害情報として通告し、災害対策として国内に警告を発した。そのせいかさほどの被害ももたらさなかったとか。


今ここに大陸から王都を含むいくつかの街が消え、勢力地図は大きく塗り変わった。

南の国の中心部が火山になってしまったので、国としての体裁は保てず、元々、自治区として豪族の集まりのようだった国は、そのまま散り散りとなって小国家郡へと変貌した。

豪族達にも今回の勇者召喚の話は伝わっており、あれはその失敗だと思ったのであったが、後にカイナ卿より真実らしき話が伝わるにつれ、今回の事は勇者を怒らせた報いとして深く心に刻まれた。

そしてあの術式は危険だと、勇者を怒らせるとこうなると皆の心に深く刻まれ、もう二度と勇者召喚が行われることは無かったのである。


彼のイタズラも無に帰した今回の事件は、彼が作業を終えて戻るまでには収束したが、戻った彼がそれを聞かされて絶句したのは言うまでもない。


やりすぎちゃったなぁ、しまったな、折角の人材を・・


彼は、アント民の確保がやれなくなった事しか考えてなかったとさ。めでたしめでたし・・って、まだ終わりじゃないよ。


それはともかく、彼が獲得した膨大な量の原油は有効利用され、国の錬金術師達に新たな仕事を生み出した。

物理の知識とイメージは錬金術への理解を深め、遂に石油製品が巷を賑わす事になる。

もっともヤマト民と呼ばれる生粋のヤマト国の錬金術師にしか行えない事業であり、自然とヤマト本国のみがそれを享受する事になったのは致し方あるまい。

あれは留学の経験を持った錬金術師にしか行えない事であったのだから。


ただ、原油は石油製品になるだけで、燃料として活躍する事はなかった。

それだけがあちらの世界と違う点だが、その違いは大気中の汚染物質の量にとしてはっきりと現れている。

この事から恐らくと彼は・・


《・・人が火を物質の燃焼で生み出したかマナで生み出したか、それが2つの世界の命運を分けたと思うんだ・・確かに、そう考えれば辻褄は合いますね。それにしても学識も大したものです。着実に、と、これはまだ・・えっ・・いえ、こちらの事です。それより、その考えは恐らく合っているでしょうね・・そうですか》


やっぱり合ってたか、となると公害は絶対に発生させちゃダメだな。

汚染物質のうち、何がそうなのかはこれから研究していけば分かると思うけど、それを外に流しちゃダメだな。

でも、それを利用すれば、マナ消しアイテムなんて物も作れそうだな。

もちろん、拡散しないような方法が必要になるけど・・うん、やれそうだ。


その後、彼は魔法無効化を物質の方面から確立させ、盾の表面に塗るタイプの魔法防御塗料へと発展させたのである。

それはともかく、今回の事件で連合を組む相手が微妙に変わってしまった事と、主導権を握っていた国が分裂した事で大きく計算が狂い、第二次の紛争が起こるのはそれから20年の時を要したのであった。


「うん、これはいけそうだね、承認しよう。でも、良かったのかい?うちで」

「学べば学ぶほど、僕の力を生かせるのはこの国しか無いと思ったんです」

「君がそのつもりならありがたいね。それでね、計画のほうは問題無いから進めてくれていいよ」

「そうですか、ありがとうございます」

「予算は無尽蔵とは言わないけど、必要なだけ使ってくれて良いから」

「分かりました」


あれから20年の時が過ぎ、かつての天才少年は立派に成長を遂げ、ここに新たな歴史を刻む事になる。

世の常識を塗り替えるような彼の研究結果を元にした、新たな科学と魔法のコラボレーション。

マナを燃料とした魔導発電所の建設。


従来の魔導発電機での発電とは全く異なる、マナを構成している物質の確定と共に、それに直接働きかけて莫大なエネルギーを生み出すシステムのモデルを完成させ、それを実行に移す事になったのだ。これにより、マナ使用効率が莫大に向上し、アント民達の発生させるマナによる出力換算は数百倍にも及び、人員は一気に余剰人員となる。


これを受けて旧王都と本国を結ぶリニア鉄道計画が実現に向けて進み始め、沿線の魔物は隔離され、魔物避けを施されたフェンスの中には専用の道が旧王都まで延び、潤沢な電力に支えられたシステムが列車を浮上させ、高速で走る事になる。かつては魔導トラックでも1週間は掛かっていた道のりが、僅か半日で到達するようになる。


それと共に物資が比較にならぬ程に大量に輸送される事となり、新鮮な野菜類や沿岸でしか味わえなかった魚介類までが内陸に届くようになるような路線も増えていき、ここにヤマト国は大陸でも隔絶した文明を築くに至る。


その頃、他国ではやっと科学の基礎が知られるようになり、単純な化学実験などが行われるようになっていた。

それは物質の燃焼の原理などを探る実験で、様々な物質の燃焼の実験・・

そしてそれは汚染物質をそれとは知らずに普通に廃棄し、国内の大地に撒かれる事になる。

ゆえにその事が国内のマナ事情を悪化させていたのだがその事には気づかないまま、衰退の方向に舵を切っていたのである。


彼が数十年の間、供給を続けていた水素も、やっと自前で供給出来るようになったのは良かったが、今度は国内の魔術師の発生割合の低下という問題が発生し、ますます科学に傾注するようになる。それが汚染物質による土壌の汚染による発生生命の汚染であると気付かないまま。ごく微量の汚染物質は、胎児の身体のマナの構成物質を分解し、その素質を消していたのだ。なので産まれる子は自然、マナの少ない子になる訳で、それでも育成の方法で育つ可能性はあれど、世の常識として生まれ持った魔力の少ない子が魔術師の道を歩む事は至難とされ、他の職に就く事になっていた。


そんな他国の動きを対岸の火事としてただ見ていた訳ではない。汚染物質の除染の研究が続けられ、その部門でもあの天才が活躍する事になる。かくして、かつて西の国で将来を嘱望されていた、セイラン=フリードリックは大輪の花を咲かせ、ヤマト国でも著名な学者になったのである。


彼の理論に基づく魔導具が開発され、それの実験はあちらの国で密かに実行されその効果が確認された。本来ならそれでその世界も救われるはずが、残念ながらその世界では魔法の事は絵空事とされている。なので例え効果があると言われても、魔法と科学のコラボレーションの結果などという話は与太話とされ、魔導工学など空想科学の類だと失笑されるだけになる。そして実験の結果を見せ付けたとしても、何かのまやかしかトリックと決め付けられ、科学アカデミーの舞台に上がる事は決して無かった。


2つの世界は互い関連があり、片方が消える事はもう片方の滅亡をも意味する。なのでこの研究が双方の世界の未来に繋がると思っていた彼も、余りの頭の固さに嫌気が差し、遂には諦めて撤退する事になった。なるようなしかならないと、半ば諦めて・・


「残念ですよ。この世界は僕の恩師でもあると言うのに」

「だがまだ時は残されている。そうすぐには無くなったりはしないさ」

「それを願うしか無いんですね」

「せめてあちらの世界だけは、二の舞にはさせたくないな」

「ええ、こんなに汚すなんて事は絶対に・・」

「まあ、留学生達の住む近所にこっそり設置はしておこう。あれでもかなりの高性能、気休めのようだけど、子供達の安全には寄与するよ」

「ええ、きっとそれで良くなると思います」


ヤマト国でも僅かだが才能を持つ子の発生率の低下が発生していたが、こちらの世界からの汚染が原因と判明した今、その対策は万全に行う事を2人は決意した。

それから程なくして全国民に対する除染が実施され、特に留学帰りの子供達の除染は義務とされ、国内でのマナ事情は復活の兆しを見せていた。

ただ、問題は、他国からの汚染物質の影響のみであったが。調査をしている者達の、見慣れぬ装備の数々は、嫌が応にも他国の目に晒される訳で・・

そんなヤマト国の技術を魔王との連携によるものと公示するも、技術格差は広がるばかりな現状に、遂に周辺諸国の我慢が限界に達し、連合軍が編成されて宣戦布告がなされる事になった。


それはただの嫉妬によるものだったが、皆は国々の出した魔王との連携を信じており、邪な技術と決め付けて独自の技術に固執しての軍勢の編成。

しかし大本の飛行船の製造元も知らぬままに、彼らは飛行船の大軍勢を編成するに至り、大勢の兵士や魔術師を乗せたまま、遥か彼方から一気に本国中央部を占領する計画を立てる。それは国境の防衛ラインが強固なのでの苦肉の策だったが、既に彼の手の内にあるとは遂に気付かぬままであった。


ヒマワリから寄せられた情報に、さしもの作戦部も唖然とする。

周辺各国の全ての飛行船を集めたと思しき、大小様々な飛行船の大軍勢が出来上がりつつあったからだ。

概算で4000とか、5000とか、日々増えていく数に、何処まで増えるのかと少し不安になる面々。

だが遂に6845隻で収まったようで、いよいよ攻撃に来るかと思われた。

なので早速にも国境防衛ラインへのマナ供給が成され、新型武器がお目見えする。

総延長200メートルから加速されるレールガンである。


供給されたマナを電力に転換、潤沢な電力でレールガンは稼動する。毎秒で表される連射性能の威力を見せる時は今だと、1キロごとに設置された外壁砲が遂に

うなりをあげる。


キリが悪いですかね。

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