24話 勇者召還
相手が魔王の息子という事で、各国は非常の手段に出る。
確かに15年の準備期間はあれど、それは国の都合でしかない。
兵達や冒険者はただ自らの全盛期が過ぎるのを見ているだけなど、耐えられないと思う者も出たらしい。
それは各国の魔術師達も同様で、なので太古の技術の復活を目論む事になる。
かつてミカの同僚だった者達の末裔と言うか、教え子やその息女その他色々にそれは伝播したようで、それらが集って召喚の儀を提唱する。
すなわち、国の支援があればそれは可能ですと。
各国は時間稼ぎになると共に、もし強大な力が我が物になれば潰し合いをしてくれると思い、各国共同勇者召喚の儀を執り行う事になる。
かつてのミカの水晶珠の存在はあれど、現在は喪失している。
となると伝承の通りに64個の天然水晶珠を用いるしかなく、黒金貨数枚もするそれを64個など、国の支援が無いと不可能だったのである。
320万のマナと言うのはヤマト外では膨大な量だが、ヤマト内では知れた量。
例の超高純度人工水晶の容量が380万な訳であり、1個で召喚が可能な代物だからである。
そんなのをふんだんに使っているヤマト国としては、ご苦労様としか言い様の無い作業に過ぎなかった。
それでもその情報と対策を相談しようと守護神に連絡をしようとしたが・・
「拙いな、守護神はあちらに出張中だぞ」
「あ・・そうだっけ」
「どのみち15年あるからと、少し長期に出て来ると言ってたろ」
「そうだったな。地下が500億超えたから、そろそろ構わないかなって」
「何をしに行ったんだっけ」
「原油だよ、化学製品を錬金術で作れそうだろ。だからこちらでビニールとか作れたら楽になると言ってさ」
「ならすぐ戻るんじゃないのか」
「お前な、そう何度も通ってとかより、守護神なら現地でこっそりと、くくくっ」
「ああ、いけそうだな、それでか」
「特にさ、爺さん連中に苦渋を飲ませた国の油、盗って欲しいだろ、大量に、洗いざらい」
「ああ、成程な、くくく」
「その作戦行動で長期らしい」
「で、どうする。妨害工作は良いが、さすがに攻めれば犠牲が出るぞ」
★
「お前さ、その手の話、読んだ事ねぇのかよ」
「そういや、お前は」
「あれな、確かにギフトとかあるみたいだけど、最初はレベル1だ」
「そのギフトがヤバいんだろ」
「そりゃ死なないスキルとかならヤバいけど、それでもさ【ビーム】砲で撃たれて身体が蒸発しちまったらさ、どうやって死なないんだよ」
「なんかいけそうだな」
「そんでよ、もしかして爺さんの故郷の奴だったらよ、こっちに勧誘もやれそうだろ」
「そうか、うちは第二国語が日本語だ」
「それそれ。そりゃ通訳みたいなスキルがあるかも知れないけどさ、うちに来れば日本食が食えると」
「爺さん、言ってたな、日本食に憧れてこっちで食えて感動したって」
「だろ、だから何とかなりそうなんだ。まあ、ダメでも交渉して時間稼ぎをするとかさ、死なないスキルでも【パラライザー】で痺れてもらうとかさ」
「マジでいけそうだな」
「でな訳で、情報共有だけして待機だ」
「うし、伝達しとこう」
かなりの量だな。しかし、ドラム缶構築しながら掘り進む計画は良いが、回復しないからきつい現場だよな。
もうじきのはずだが、空のドラム缶も相当な数になったし、ぶち抜いたらどれだけ採れるか・・うん、?
・・何の気配だ・・これは・・穴の・・オレは作ってねぇぞ・・
《キツネさん、近くに穴、作ってたり?・・これは、これは太古のシステムですね・・なんか、動いても付いて来るような・・勇者召還ですね・・え、そんな大昔の・・あれはですね、そちらの世界で一番強い人を呼び出す魔法なのですよ・・うげ、だからオレに・・くすくす、貴方に対抗させる為に貴方を呼び出すのですよ、くすくすくす・・それって間抜けですね・・はい、くすくすくす》
こうなりゃ成り済ますか。
んでその水晶、全部いただくか、クククッ・・
そうと決まれば変装して、ステータス偽装して、ギフト何にするかな。
まあ、適当で良いか。ええと・・
留学生の視察で見た、一般の中学生の姿で・・
顔もそれなりに・・ギフトは異世界言語理解にと風魔法と水魔法・・
うお、落ちる・・くそ【浮遊】使いてぇ。
「おおおお、成功したぞ」
「勇者様だ」
「勇者様、ようこそおいでいだきました」
「ここは・・何処だ・・オレ、なんでこんな」
「こちらで説明を致します。どうか」
「あ・・あ、ああ」
一通りの説明を受けた彼だったが、実に言い掛かりのような説明。
ある国が魔王と結託し、世界を征服しようと企んでいると。
その野望を打ち砕く為、我らも準備を進めているが、到底間に合いそうにないと。
戦力も足りなくてどうしようもなく、なので召還に及んだと。
マジでいい加減な説明だな。てか、この研究ってミカの・・
《ミカ、ちょっと良いか・・あれ、これ、向こうから?・・いや、ちょっと事情があってな。それでな、聞きたい事があるんだが・・なぁに・・お前、バールミクスって奴知らないか・・ノーマン=バールミクス。かつて私達のラボでの講師の名前だけど、これくらいしか知らないわ・・今な、勇者召喚されちまってな・・ぶははははははっ・・オレに対抗する為にオレを召喚したらしい・・はははははは、お腹が、ははははは、苦しい、はははは》
ありゃ当分、笑ってるだろうな。
ミリア=バールミクスか。子孫って訳か、ご苦労様だな。
やっぱり当時の懸念が本当になっちまったな。
人は知ると使いたくなる生き物だから、いつかはこうなると思ってたんだ。
だけど、まだオレで良かったぞ。いくら強くても・・
待てよ、オレ以外だとハモンになっちまうんじゃ?それ以外となると、留学生になってた可能性が高いな。
うん、だからオレで良かったんだ。
そして彼は深夜、行動を開始する。転移で召喚場に忍び込み、全ての天然水晶を人工水晶と交換。
その時に純度の違いを知り、やはりそう言う事だったのだと思ったのだった。
人工が容量が低いのではなく、単に純度の高い材料を使えば天然と同等になるのだと。
そして天然の純度も決して高い訳ではなく、人工の材料が粗悪なだけなのだと。
そんな訳で水晶に関する考察を終え、朝まで寝ても良いけどと思いながらも、ちょっとしたイタズラを思い付く。
再度、召喚場に飛び、巨大な魔法陣のごく一部を微妙に変更する。
元々、勇者召喚の魔法陣は遺跡から掘り返して組み合わせた感じになっているので、再構築をして変えてしまえば元からそうだったと勘違いするはず。
そして今度はどうあがいても召還出来ないと・・そして彼は3ヶ所それを行い、満足して寝所で朝までぐっすりと眠ったのである。
「して、おぬしの特技はどのようなものかの」
「ここで見せるんですか」
「うむ、見せてくれるかの」
「でも、危険ですよ」
「ほお、そこまでのものかの」
「ええ、この街が壊れます」
「ううむ、そこまでの力を持っておるとは」
「壊れても良いなら使いますけど」
「はっはっはっ、小僧が吹きおるわ」
「ザルド卿、この方は勇者なるぞ、無礼な物言いは」
「ふん、何処から来たのかは知らんが、そんな小僧に何が出来る。勇者などと言っても全然強そうには見えぬ」
「おっさん、死にたいのか」
「ほお、やる気か、小僧」
「突っかかってきたのはそっちだ。死にたくないなら余計な口は閉じておけ、長生き出来ないぞ」
「はっはっはっはっは、よくぞほざいた。決闘を申し付ける」
「なあ、こいつ、死んでもいい奴?」
「何とか殺さずには済むまいかの」
「オレはそうしても良いよ、けどこいつ、殺す気だよね。オレも殺されそうになってまで手加減はしないよ」
「致し方あるまいの」
かくして彼と変な奴との決闘という事になり、闘技場のような場所で戦う事になる。
彼は任務途中での強制転移にむかついており、確かに記憶したからすぐに戻れるとは言え、自分達の都合で他の世界から人を拉致する事が気に入らず・・
まあ、彼も似たような事をしているのだが・・
仕事の邪魔をしたこいつらに色々と嫌がらせをしてやろうと思って昨夜のイタズラに及んだが、あんなもんでは全然足りず、何か無いかと思っていた矢先の事だった。
雑魚が突っかかるのでこれは渡りに船だと軽く挑発してやれば、思った通りに動いてくれて決闘をする事になった。
彼は発散も込めて新魔法【アースクエイク】をぶちかましてやろうと思ったのだ。
実は穴を掘るにあたって微小の振動を与える事によって、地盤を緩める事が出来ると知り、サクサク掘っていたのであるが、それに力を注げば大地震になるとは思っていた。それの試験も込めて、ここに顕現させてやろうかと・・
ただ、いくら離れているからと言って、ただでかいだけの地震ではヤマト国にまで被害が及ぶ恐れがある。
彼は地震波の相殺を思い付き、外周から内向きへの波を発生させる事にした。
そうすれば中央部分で爆発のような派手な衝突が起こると思ったからだ。
それで減衰させれば他国には及ばないと・・その方策を一晩考えた翌日、決闘の場所に赴く。
「覚悟は出来たか、小僧」
「アンタに見せてやるよ、オレが神から授かった恩恵をな」
「はっはっはっ、そんなものがあるなら見せてもらおうか」
そして決闘開始となり、上空に飛び上がる。
そのまま成層圏まで昇り、周囲に巨大なドーナツ状に隕石を顕現、それを内向きの方向で落下させる。
これは【メテオ】の応用になるが、外周の破壊と中心部の破壊になるはずと、結果を見ずにそのまま現地に転移し、作業を再開したのだった。
やれやれ、ずいぶん時間が掛かっちゃったな。この魔法は時間が掛かるのが難点かな。まあもう付き合っちゃいられん。さて、続きをしないと・・
やり放題です。




