20話 最高機密
弱冠17才にして宮廷魔術師となったセイランだが、今ではヤマト国に亡命を果たし、主に魔導工学に興味を示した。
そして特別に日本語を覚えながら過ごし、留学の者達と共にあちらの世界で学ぶ事になったのである。
「これが・・ヤマトの秘密・・なんだね」
「そうだ、最高機密だ」
「こんな凄まじい世界を知っていれば、いくらでもどうにでもやれるはずだ」
「だがそれは表には見せないのさ」
「どうして大陸を統治しない。これだけの後ろ盾があれば、充分に可能だと思うが」
「オレ達はね、基本的に攻めるのは得意じゃないんだ。だから昔から防衛構想の元に領地を作ってきた。それは独立の時に立証されたけどさ」
「攻めずに勝つ・・ですか」
「挑発すればさ、人員が金と食料を担いで持って来て戦ってくれるでしょ」
「そうして衰退を狙って併呑ですか」
「民は楽なほうに流れるからね、隣が楽しそうに見えれば誰でも行きたがるもの。そして民が減れば」
「それが攻めずに勝つという防衛構想の本当の・・」
「まあ、君はここで基礎科学を学ぶといい。こっそりこの国の民って事にしてあるからね」
「そう言う事もやれるって事か」
「学んだ後はどこの国に仕官しても構わないよ」
「えっ・・」
「君の事を調査報告書で読んでね、将来性のある若者だと思ったのさ。そういう子には学ばせたいと思ってね」
「そう・・なのですか」
「うん、だから気の済むまで学ぶといい。こちらでの事は頼んであるから、彼に任せれば良いからさ」
「分かりました」
それはともかく、西の国は散々であった。王を失い、将来を嘱望された若き天才を失い、それでも連合の約束の下にとりあえず兵を纏めて送り出したものの、他の国とは比べ物にならない程の小規模かつ低レベル。東も南も飛行船を有しているのにも驚かされ、そして貧弱な装備と軍をなじられる事になった。
「サイエン帝国は我らを舐めておるのかの」
「い、いえ、決してそのような。た、ただ、我が王が身罷られまして」
「聞いておるぞ。おぬしのところでも飛行船の開発に成功したものの、開発者を追い出したそうではないか」
「いえ、あれはまた別の者でして」
「天才とその名も高き、フリードリックの次男坊だったかな。放逐するぐらいならうちにくれれば良かったのに」
「いえ、ですからそうではなく」
「まあよい、そのような軍勢では何もやれまい。我らの戦う様を見ておれ」
「そうじゃ。そして我らで分割する様もよーく見ておくのじゃぞ、はっはっはっ」
結局、西の軍は戦いにも参加させてもらえず、ただ呆然と佇むのみであった。
「いよいよだな」
「浮遊砦の起動を開始します」
「お披露目だな」
【浮遊】魔法で浮き、魔法を放つ浮遊砦。
それはまるでもぐら叩きゲームのような事になっていて、それと言うのも魔法を放つと水晶の容量を殆ど使うので、【浮遊】の力も弱くなりゆるりと充填場所まで降りるという事になっている。そしてまた充填されて昇る。
どうしてそんな変な兵器になったのか、それは直下に【龍脈】があるからで、将来的に【龍脈】の防衛の為の試験的運用になっているからである。
実は後々の事を考え、各地の首都を目指して【龍脈】は延伸させており、併呑になってもすぐに開通になるように準備しているからである。
それは15年前の王都延伸計画の一端として進められていた計画になる。
なのでその上に浮遊砦をつらつらと設置したのである。
上から見ると丸い岩のように見えるが、実は塗装を施されたプラスチックで、やはり輸入品である。特注で頼んだ品とか。
そんな訳で妙に丸い岩の並ぶ場所に進軍してきた連合軍は、そこで急襲を受ける事になる。
人影も無いのにいきなりの魔法攻撃に不意を突かれ、散々やられた後に岩が上下しているのに気付く。
しかし、彼らは身動きが出来ない。浮遊砦から放たれたのは【パラライザー】であり、それも広角で撃たれた為に殆どの者達が気絶してしまったからである。
さてそうなると、浮遊砦が昇ったまま固定になり、中の螺旋階段を伝って人員が昇って来て、気絶している奴らを収容していく。
動いている奴は魔導銃の【パラライザー】で撃たれ、同じように収容していく。結局、連合軍の先鋒は、ロクな活動もやれないままに消滅した。
「思ったより調子が良さそうだな」
「あれで2500人ぐらいですか、もっと欲しいですね」
「次は城砦からの攻撃になるか」
「矢狭間ならぬ、魔導銃狭間ですか」
「相手さんもまさか、ずらりと並んで撃たれるとは思うまい」
「回収班はいつでも来い、らしいです」
「クククッ、挑発して回収する、中々だな」
「立案した甲斐がありました」
「さて、処置をしてくるか」
「ご苦労様です」
今回の作戦は飛行船の偽誘導進化と、アント民の補給が目的の作戦になっていて、飛行船のほうは今回は見逃す事になるが、そのまま水素を用いれば大量に来た時に一斉に大爆発を起こすという目論見になっている。ただその水素の製造に関しては極秘になっており、裏の商人を装ってそれぞれの国に売りつける事になっている。それは変装した彼が担当し、液体水素のボンベを使うというヤバい作戦。もちろん輸入品であるが。浮遊の為の見えない物質の売り込みには苦労したようだが、羊の胃袋に詰めてやると、ふわりと浮いてゆっくり降りてくる事になり、もっと大量なら空に浮かぶというのを実感させたとか。
ちなみに納品した飛行船は、ワイバーンの翼の皮を活用した代替品であり、かなり大きくしないと人員が余り乗れない飛行船にしかならず、あくまでも技術を売りたいという触れ込みで、売り込みに成功したとなっている。そうしてそれぞれの国ではワイバーン狩りをする事になり、多大な犠牲の元に必要数の皮を獲得し、巨大な風船がいくつも連なる不恰好な気球船になったという訳だ。
ちなみに劣化版の代金が黒金貨5枚となっていて、水素は白金貨5枚で充填したとか。その一大傑作品は現在、王宮近くに係留されていて、出動準備をやっているとか。早い話が水素が届かないと飛べない訳で、それをひたすら待つ事になっていた。そして彼が地下での作業を終え、変装して売りに行って充填し、代金を受け取って戻った頃には、次の受け入れ準備が整っていたと・・
「おつです」
「さすがに水素の製造法は、言っても分からないだろうしな」
「電気の無い世界で、電気分解とか理解不能でしょうな」
「まあこれでこれも商売になるようだし」
「後は大群になるのを待つだけですか」
「それまでにどれだけ売れるかな」
「5000万相当ですか、ボンベ1本が」
「5億で買えるだけ買ったからな、最低でも10本は消費してくれんと赤字が消えなくてな」
「そんなにあるなら水素エンジンもやれそうですね」
「人工衛星でも打ち上げるか」
「良いですね、情報処理が楽になりますよ」
何処まで本気か分からない、それが彼らのクオリティ。




