1話 極秘防衛構想
とりあえず開始です。
「あれからもう50年が近いのか」
「そうね、私は無理だったわ」
「良いさ、こうして傍に居てくれれば」
「子供達は早かったわね」
「獣人の宿命か、哀れなものだ」
「あの子、どうしたの?」
「上からの罪人さ。オレを騙そうとしたからおしおきだ、クククッ」
「あらあら、でも、私にはもう無理だから」
「ロリコンとは言わないのか、くっくっくっ」
「くすくす、言わないわ」
ミカが寿命を迎えてもう48年にもなるのか。
今はバイオロイドの中に留まっていてくれるが、ただそれだけで精一杯だったな。
オレのは所詮、上の真似事。到底、転生などやれはしない。これを確立する前にフェンリル達は逝ってしまった。
獣人の寿命はかくも短いものかと嘆いたものだ。今頃はどんな奴に転生しているものか。
いかに尖兵とは言え、上の規則は曲げられないか、なら仕方が無いよな。
だがな、オレはもう好きにやらせてもらうと決めたのさ。だからもう、無駄な遠慮はしない。
かつて、そう、ケモシティが完成して数年後か、今日この時のある事は既に予想していたさ。
こちらの歴史は知らないが、あっちではよくある、いや、あっただな。そういう歴史から学べば当然の帰路だ。
だからオレは提案した・・極秘防衛構想を。
当時、賛同者達と色々な意見交換を経て防衛の為の砦の構想に至り、表向きは魔物の対策の為の施設と思わせ、その実、緊急時には外敵排除の施設になる。
という構想になったっけ。懐かしいな。あいつはもう居ないと言うのに、あいつの発案で砦は進化したな。
オレは当初、【ビーム】砲までは考えていたが、まさか魔力を電気のように供給させられないか、と言われて開発して完成させたアイテム。
あいつの発案が無ければ今頃は、魔力充填水晶だけでやっていたはずだ。
今の【ビーム】砲の出力が秒/消費でMP10万もあるから、いかに超高純度結晶でも、パルスで38回しか撃てない事になる。
当時の王や宰相は良い奴だったからと、魔導馬車や飛行船の技術を披露しちまったけど、その対策は考えてあるさ。
それにしてもバイオ血管は良いが、あれを生物に分類するのは惨いな。
細菌や樹木を経てやっと確立した、生きた魔力伝達ラインとでも言えば良いのか。
あれが現在の12の砦に繋がって、オレの施設の水晶に連結されている。
もちろん、城の外壁にある、対空防衛魔法装置にも分岐しているがな。
もっと言えばケモシティのあらゆる魔法装置にも分岐しているな。
ただ、緊急時にはその接続は切られ、砦が優先になるだけだ。
そういや、施設で寝るようになったのは何時からだろう。供給装置に繋がって眠るようになったのは・・
消費者が多くなればそれだけ消費も増える。
以前は月一ぐらいで枯渇するまでに供給してたものだが、寝ている間の供給で事足りると分かり、こちらに居る時は大抵あそこで寝るようになったな。
それはともかく、やはり人は変わるものか。いや、あいつはオレを知らんのだな。
爺さんから何も聞いてはいないのか。本人がそのつもりか、それとも側近に押し切られたか。どらちにしても、もう王国とは縁が切れる。
あれだけ下手に出て陳情しまくったと言うのに、聞く耳持たないか、ならばもういいさ。今の当主が若輩だからと舐めたのか?甘いな。
あいつはオレの仮初の姿、だから本人を前にしてあいつに命令しろとか言われてもさ、呆れるだけさ。
やはり数年前の気候安定化魔法の件が引き金なんだな。
宮廷魔術師達が5年も掛かって習得出来ませんでしたって結果になってから、オレに対する態度が変わっちまった気がするな。
化け物を見るような目とかさ。確かにオレは最初にここに来てから、ひたすら魔力は増え続けている、現在も尚。
ミカが逝った頃ですら、億を超えていた魔力。あの気候魔法には実に3億の魔力を使うんだ。
人工水晶の容量が15000しかないってのに、どんだけ集めれば使えるか・・
それでも集めたは良いが、今度は実行する精神力が足りないときた。
主席がいきなり行使しようとして、プッツンしちまったっけ。
それからというもの、精神修行とか色々やってたようだけど、遂に行使には至らず、諦めちまったな。
現在の魔力は5億ぐらいあるが、さすがに連続使用は無理だ。
精神を限界まで酷使しての行使なのに、王国全土の各領地に使えとは無理難題もいいとこだ。
何度も陳情したんだがなぁ・・さて、ゴム付けるか。これもなぁ、この世界でよく作ったよな。
どんな奴かは知らんが、これで思い付いたんだよな、飛行船にシーサーペントウルフの浮き袋を使うって。
原材料名の紙片にそんな魔物の浮き袋・・んで、浮き袋と言えば・・後は狩って解体したらまさにこれってなって。
今ではうちの飛行船は全てこれになっちまったし。
「おい、座って動け」
「はい」
「あらあら、お手軽ね」
「お前以外に心などやれるかよ」
「嬉しいわね」
「いよいよ、戦争になりそうだよ」
「仕方が無いわね、あんなに陳情に通ったのに」
「あっあっあっ・・」
「黙って動け」
「はい・・む、む、む」
「くすくす、厳しいのね」
「気が散る」
「あはは」
「まあ・・何にしろ・・オレは・・やる事を・・やる・・だけさ・・はぁぁ・・もう良いぞ」
「はふうっ・・はい」
「さて、動くとするか」
「行ってらっしゃい、旦那様」
「おうっ」
精神体で抜けてスーツ姿の皮を被る・・もうこれにも慣れたな。
身体はあの施設に置いたまま、こうやって出られるようになって楽になった。
特に変装の多様が効くようになったのがでかい。
後はこの格好でアッチに行けるようになったのもありがたいな。
なんせこの姿なら撃たれようが斬られようが、爆弾に粉砕されようが関係無い。
精神体を攻撃する武器など無いとあっては、壊れた皮を作り直すだけで良いんだから。
しかも多少の質感まで出せるようになって、あの女の捕縛にも使えたし。
しかしまぁ、皮でヤると味気ないの何のって。あればっかりは身体が無いとな。
ただ、15才の身体なのは変わらんから、耐久性が無いのが辛いな。早い話が早漏な訳で・・
普通は年と共に耐久性も上がるもんだが、あればっかりは・・
おっと、そんな事を考えている場合じゃないな。なんせこれから防衛をやらないといけないんだから。
「集まっているようだな」
「守護神、お早いお着きで」
「うむ、それで、どうなった」
「貴方様の当主姿での陳情結果で紛糾しまして、満場一致で独立と決まりました」
「よし、ならば通達だ」
「はっ・・おい、支局に暗号電文を送れ」
「了解・・ニイタカヤマノボレ」
「くっくっくっ、おたく共めが」
家族の不幸で彼の性格はまた変わっているようです。