15話 祭り
王都を制圧し、元副官は王の座に就いた。
反対する者は全て捕らえられ、全てが地下送りとなる。
その地下の人員の振り分けも色々あって、魔力のある者は水晶への供給の日々だったり、力の強い者は肉を捌いたり運んだりと言った力仕事に従事させられていたり、それ以外の者は餌係や掃除係などの雑務を日々こなす事になる。
しかし、体を動かしている者達はまだましだろう。
なまじ魔力が高い者は悲惨な事になっていた。
網のようなベッドに裸で横たわり、口には流動食の管が押し込まれ、下は垂れ流しになっていて、ひたすら魔力を吸われる生活なのだ。
いやそれを生活とは呼べまい。もはや飼育に等しいか。
彼らはもう人としては生きておらず、マナタンクとしての生涯しかない。
網のようなベッドなのは、たまに水洗いをする為であり、そこに快適さなどは無い。
そして洗う人員もまた同類なのだ。地下街は別名暗黒街、そう言われるのも頷ける話だ。
見目の良い地上を楽園とするならば、ここはまさに地獄かも知れない。
それゆえか、いつの頃からか暗い都と書いてアントと呼ばれるようになり、地下の彼らはアント民と言われるようになったとか。
それが洒落だったのか偶然だったのか知る人は居ないが、まさに蟻のように暮らす様は何とも言えない様相を呈している。
今回の独立騒動によって、新たな地下人員がかなり増えた。
その数は数万にも及び、第六次拡張計画が立案され、衛星領の地下も改造するという計画も進められていた。
地下の者達を統率する・・普通は嫌がるようなそういう職務も、好んでする者達が居る。それも特色のひとつだろう。
彼らは表には決して馴染めない事を自覚しており、自ら進んでその職務に就いたとか。
さて、ここに再生局という部署がある。
ここは地下の中でも比較的表に近い部署であり、ここでは産婦人科が主な職務となっている。
すなわち、地下で生まれた子供達の処遇に関する部署なのである。
表に馴染めなくても三大欲求はある訳で、それらはいくらかの特権を有し、それを活用した結果が残る事もある。
その結果は再生局で結実し、地上施設に送られる事になる。
そうして希望する者達の養子となり、親達とは無縁の生活を送るようになるのだ。
それらの出自を口外する事は禁忌とされていて、言われた本人からの訴えがあれば即座に調査をされ、証拠が出ればその境遇の体験が成される事になる。
すなわち、地下送りである。アメも多いがムチも多い、それがこの国の特徴なのかも知れない。
そんな国の今はアメの時か、建国祭が華々しく催されていた。
地下の統率民達は表には出ないが、それでも料理や酒が送り込まれ、自室でそれを味わってひっそりと建国を祝っていた。
そして彼らの生活が続く事も・・
隷属された者達にはそんなものは関係ないが、それでもいくらか食事がましになったりもしていて、統率民によって違いがあるようでもあった。
中には菓子を振舞う者も居たりしたらしいが、食えと言わないと食わない者達なので、味の感想などはありはしない。
旨いと言えと言われれば、泥でも旨いと言う者達だからだ。
それでもそれを好んだりする者達は存在し、そういう暗い趣味の者達をも内包する、ここはそういう国なのである。
適材適所と言えば確かにそうだろうが、世の為政者には決して受け入れらない者達だろう。
人を傷つけるのを好むような者達なのだから。
だからこそ元の世界でもはじかれていた者達だが、ここでは居場所を与えられている。
だから彼らはそこから動かない。彼らにとって、そこはまさに楽園なのだから。
そんな頃、表では大騒動になっていた。飲めや歌えやの・・
元々無宗教でありながら、様々な宗教の良い所だけを活用するようなお国柄の生まれなのか、色々な宗教の祝い方などをやっていた。
それはそれぞれの趣味の者達の成した事なのだが、だからこそ餅が配られていたり、ケーキが乱立してたり、洋風、和風、中華と、料理の特色も様々で、それはその手の趣味の者達によって統括され、今この時を迎えたのだった。
非戦闘職の集大成である。
中には怪しいカクテルを振る舞い、参加者が昏倒して病院に運ばれる騒ぎになったり、油物を食べ過ぎて胸焼けがして休憩所で横になっていたり、つまづいてケーキに突っ込んで、製作者達の袋叩きに遭っていたり、うっかり獣人を蹴飛ばしてしまい、総出でくすぐられていたり・・
そんな大騒ぎの中、彼はひっそりと裏方に従事していた。
病院に運ばれてくる患者の治療をしたり、トラブルの対処をしたり、そして統率民を労いに行ったりと・・
彼もまた暗黒の部分を持つがゆえに、彼らの心情を多少なりとも理解をしており、それゆえに受け入れたとも言える訳で、そんな彼をもまた統率民は慕っていたりもする。
「飲んでるか・・邪魔したな・・」
「待っておくんなはれ、今のはちょっとした趣味ですねん」
「産ませるつもりなのか」
「堪忍やで、ワイも男やさかいな」
「別に構わんさ。ただな、飲むのかヤるのかどらちかにしたほうが良いぞ」
「ええですやん、飲みながらがええんですねん」
「まあ、楽しそうならそれで良いか」
「へぇ、楽園でおま」
「割り当てがまだ増えそうなんだが、大丈夫か」
「せやね、ちーとばっかし足りんとこあるさかい、そこに送りますわ」
「消費のほうはあんまりは言わんが、程々にな」
「せやね、足りんようになったら困るさかい」
「喜ぶのはスライムだけだしな」
「くっくっくっ、今日はスラちんも祝いやな」
「おい、掃除ぐらいはしようや・・」
「お、済まんな、つい趣味に走っちまってよ」
「消臭剤、届けさせようか?」
「いやいや、これが良いのさ。この芳しき香りがな」
「そこの辺りは及ばんな」
「まあこれはオレだけかも知れんが、こんなオレでも受け入れてくれる。ここは楽園だな」
「割り当てが増えるから多少は言わんが、あんまり消費は増やさんようにな」
「ノルマは守ってるぞ。節制はしないとな」
「まあ、今は上でも祭りやってるから、注文すれば大抵の料理は届くからな」
「ふむ、ならば血の滴るような・・くっくっくっ」
ふうっ、確かにオレにも似たようなところが無いとは言わんが、さすがに連続で回ると気分が悪くなってくるな。
まあ、ああいう奴らの存在の事もあり、今のようなシステムを構築した訳ではあるんだが。
誰に聞いても楽園と言うから、満足はしているとは思うが、それならそれで誘致した甲斐もあるってものだな。
そうやって危険分子と言われる者達を抜いたってのに、あっちはますます悪くなるばかりとか。
もっとも、欲の強いのは省いたから、蠱毒みたいになっているのかも知れないが・・頼むから消えないでくれよな。
あっちが無くなるとこっちもタダでは済まないんだから。
「なぁなぁ、国が出来たんならさ、国歌も必要だよな」
「まあそうだけどな、ここじゃそういうの無いだろ。だから別に君が代で良いだろ」
「それはそれとして、表に出す威勢の良い曲でだな」
「お前の言いたい事は分かるが、それは却下だ」
「えー、良いじゃねぇかよ」
「アニソンおたくに任せたら、どうなるか分かるからだ。ラストは国名を伸ばして歌うんだろ?」
「うっ・・そ、それは」
「くっくっくっ、やっぱりかよ」
あんまり祭りっぽくない話になりました。




