10話 四面楚歌
今、王国は大変な事になっていた。
それはとてもブルマン領に対する余裕などあるはずもなく、かつてのように3国に狙われていたからである。
当時は彼がそれを潰したが、肝心の彼が今回は味方では無い場所に居る。
100年以上前の記録を読んだ王は、自らの浅慮を独り悔いていた。
思えば宰相には煽られた記憶しか出て来ず、もしかしたら彼は・・
疑心のままに思い起こせば、主席宮廷魔術師失脚の頃から変わっていた事を知る。
今更、何を言っても仕方が無いと思いつつも、それでも宰相を問い詰める・・いや、問い詰めようとした。
しかし、出来なかった。彼が居なかったら。
彼の姿はそれきり消え、二度と王の前に姿を現さなかった。
宰相を失った王は他に頼る者もなく、仕方なく将軍に・・
「ガリク将軍よ」
「ははっ」
「おぬしは勝てると思うのか」
「当たり前です」
「ならばおぬし全軍を預ける。勝てば侯爵じゃ」
「ははっ、必ずや、彼奴の素っ首、掻き切って持ち帰ってみせましょう」
「相手は3国だ、あれは後回しにせよ」
「そ、それでは、挟撃の恐れもあり、あれを先に叩くべきかと」
「あれらは出て来ぬ。だから心配せずに向かってくる国々を成敗致せ」
「は、ははっ」
(誰かある・・ははっ・・使者を送れ・・えと、何処の国にでしょうか・・ブルマンにだ・・ですが、まだ勢いもありますれば・・認めると伝えぃ・・何と・・今はそのような争いをしてて居る場合ではない。国が攻められておるのだ。この火急な折に内紛などしておる場合ではない。良いか、認めてやるから蹴散らせと伝えるのじゃぞ・・しかし、それは余りにも・・ワシの命令が聞けぬと申すか・・い、いえ、承りましてござります・・ならば行け・・は、ははっ)
「なんて言うか、上から目線だよな」
「宣戦布告しておいて、そんな事をしている場合じゃないってか」
「こいつ、国がヤバくなって頭壊れてねぇ?」
「宰相が居ないからだろ」
「ありゃもうとっくに東に帰ってるぜ」
「いつ成り代わったんだ」
「あの魔法失敗で廃人騒動の時に殺してあっさりだ」
「指紋や声紋、瞳孔で区別出来ない奴らは悲惨だねぇ」
「更に魔紋もあるしな」
「魔紋ぐらいは使ってんじゃねぇのか、本場だし」
「いや、全然だな」
「けど、あれは便利だよな」
「ああ、魔紋の変化で相手の喜怒哀楽まで分かるってんだからよ」
「もうあれだけでやってるだろ、最近」
「ああ、この作戦本部の出入りも、魔紋パターン登録者しか入れないしな」
「じゃああの警備は飾りかよ」
「見せる事もないだろ」
(波を魔紋として扱っているのですか・・何とも凄い人達ですね・・彼らは科学と魔法の混合文明の先駆者、なのかも知れませんね・・となると、昇る人達が多くやりそうな気もしますけど、果たしてどうなるでしょうね)
「で、どうするよ」
「無視だな」
「ああ、来なかったって事で」
「使者はどうする」
「使者は死者ってか」
「おいおい、それは可哀想だろ。うちで引き取るよ」
「お前のところのほうが可哀想だろ。止めてやれよ、人体実験は」
「どいつもこいつも・・うちで引き取る、以上」
「奴隷にするんだな」
「ちょうど農作業の下働きが欲しくてな、ちょいと細いが何とか働けるだろ」
「農作業?お前、そんな副業やってんのか」
「まあな、だから良いだろ」
「まあ、良いけどよ」
哀れ使者として来たそいつは、隷属魔法を使われて絶対服従の身となり、趣味の者達の巣窟の闇に消えて、二度と戻らなかった。彼の運命やいかに・・
「あの使者どうなったんだ」
「あいつ、中々の働き者でよ、役に立ってるぜ」
「けどよ、お前、農作業とかやってねぇだろ」
「下働きと言っただろ」
「何をやらせてんだ」
「種を撒いているんだ」
「誰にだよ」
「今な、異種族間での妊娠の研究をやっててな、オークは可能性がありそうでな、今頑張ってもらってんだ」
「哀れな話もあったもんだ」
「いや、オークって旨いだろ、繁殖出来たら良いと思ってよ」
「オレは今日からオークは食わん」
「くっくっくっ、オレも止めとこう」
オーク農場の秘密は次回。




