4.砂糖もないなんて……ありえない。
「嘘でしょ? ……あんた砂糖も知らないの? 」
「知らない……ですね。というか、そのようなものはここにはございませんね」
おいまじか。私は頭を抱える。異世界って砂糖ねーのかよ。じゃあスイーツどうやって甘くしてんだよ。てかここに売ってるもんは一体何なんだよ。つーか一体何があるんだよ。
様々な疑問が頭を走り回る中、乗務員が肩をとんとんと叩いた。
「あの……ここにあるものであれば、ご説明します。あんまり専門的なことは知りませんが、この店の物なら説明できます」
ここで聞いたら負けた気がする。私はぶん、と振り向いて全力の笑顔で返す。
「いえ、構わない。ここで聞いちゃ、私のパティシエとしてのプライドがズタボロよ。見てなさい、私がちゃんと買い物するから」
このアホ面乗務員だけには負けられない。そうですか、とちょっと残念そうな乗務員。ざまみろ。私はカゴを腕にぶら下げ、店内を回る。
お、この粉は小麦粉みたいだ。真っ白で細かいし、焼いたら膨らみそう。それにしても袋小さいな。もしかしたらここでは高級だったりするのか……? 私はカゴに入れる前に、何気なく袋をひっくり返して原材料をみた。
……【スネークパウダー】?
「……ちょっと、そこの、そう」
私はくるりと踵を返し、乗務員を手招きする。
「どうかしましたか?」
私は、あえて、あえて堂々と胸を張る。
「ついて来なさい。あなたの説明を聞くことにするわ」
もちろん、アホ面乗務員に爆笑されたことは言うまでもない。この野郎。
「あー、これはスネークパウダーですね」
「読めば分かるわよ。私が聞きたいのは、これが一体何に使うものなのかってこと」
ぽふぽふ、と音を立てて粉の袋を叩く乗務員に私は聞く。
「これは、フラソススネークという蛇の皮を乾燥させて粉にしたものです。あ、フラソススネークはとても真っ白で綺麗なんですよ! 毒もないですし、観賞用としても出回っていて……」
「あーもう! スネークの話はどうだっていいってば! この、粉の話をしてるの!」
あぁもう。誰かまともに説明できる奴はいないのか。
「あ、そうでしたね……。このパウダーは主に薬に使われます。かなり苦いです」
「薬⁉︎」
「はい。というか、ここ薬コーナーですよ。気づきませんでした?」
え⁉︎
私は慌てて周りを見渡す。……本当だ、カプセルが描いた箱が置いてある。あ、マスクもある。ふーん、この世界でもマスクするんだ……。
「あのー、聞いてます?」
「聞いてるわよ。別に間違えて入った訳じゃないし。ちょっと頭が痛かったから、薬をと思って」
「あ、そうですか。だったらこれ効きますよ、スネークパウダー」
ぐいっ、と差し出される粉。
「い、いえ、遠慮するわ。そこまでじゃないから」
苦いのが苦手とか、頭が痛いってのが嘘だとか、そういうことは言わない。てか言えない。
「じゃあ食品はどこにあるの? 案内してくれない?」
私が言うと、乗務員はひょこひょこと通路を奥へと進んだ。
「あ、ところで」
乗務員が歩きながら言う。
「あなた様のお名前を聞いておりませんでしたね」
「あぁ、私? 私は宮田 コウよ」
私は言って、あなたは? と尋ね返す。
「私はブランと申します。やはり世界が違うと名前も違うのですね」
楽しそうな乗務員–否、ブラン。オシャレな名前が、ちょっと羨ましかったりする。
「……さぁ、着きましたよ。ここが食品のコーナーですね」
連れてこられた場所を見て愕然とする。
見るもの見るもの、全てほぼ原色。
主張の強い赤、きみの悪い青、蛍光色の黄色、腐ってんじゃないかと思うほどの緑。
「……何これ」
「何と申されましても……ここの基本の食品でございます。イチオシはこちらですかね」
差し出されたのは、見ないようにしていたどう見ても着色料たっぷり塗りたくったような紫色の塊。よく見るとヘタのようなものがついていた。かろうじてこれがここの『フルーツ』なのだと分かった。
「私はこのパーテイストが一番好きでして、何よりサドラより甘くて、それでいてサプラスのような苦味が少し残って……」
「ストーーップ!!! さっきから何言ってるのか全然分かんない!!!」