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1.ちょい待て。ここフランスじゃない。

「……さま、お客様。到着致しましたよ。お客様!」

ふぇ、と目を開けると、心配顔の男性一名。パイロットではなく、乗務員のようだ。

「あー、すみませんすみません、降ります」

急いで小さい荷物をまとめ、飛行機から飛び降りる。

「いい夢を見られていたようで。ずっとニコニコされておりましたよ?」

気付くとその乗務員が笑っていた。

ニコニコって……言い方を変えればニヤニヤだろうな。さぞかし気味の悪い客だったろう。飛行機から地上へ降りる階段を一段一段ゆっくり降りつつ、私は考える。ごめんな。とにかく憧れの地、フランスだったから……

そこまで考えてまたにっ、と口角が上がりそうになったとき。だだっ広い地上に、足をつけたその瞬間。

違和感を覚えた。


ここ、フランスじゃない。


なぜか分からないけど、直感でそう思った。フランスはもっとこう……オシャレな雰囲気が漂っているはず。日本にはないピリッとした空気が、漂っているはずなんだ。

なのになんだろう、この感じ。まっったく緊張感が湧いてこない。

さぁ、これから勉強の日々だ! という気にならない。

そしてさっきからニコニコついてくるこの乗務員。普通の飛行機なら乗務員はついてこない。そして、極め付け。

私以外の、客がいない。


「……あのー」

私は振り向いて後ろの乗務員に声をかける。

「はい?」

どうなさいましたか、と続けるアホ面の乗務員に少し、ほんのすこーし殺意を覚えながらも、私は丁寧に丁寧に聞く。

「失礼ですが、ここは一体どこでしょうか?」

「場所も分からないままいらしたんですか⁉︎」

「はよ教えろや、バカ乗務員」

あらいけない、口が滑って。私はわざとらしく口を押さえてみるけど乗務員は知らんふり。

「あなた様のチケットに、行き先はかいてあると思うのですが」

まぁそうだよな、と私は思い、チケットをポケットから取り出す。

確かにそこには【フランス行き】と……ん?

フランス……フランスじゃない。

「……【フラソス】?」

「はい。ここはフラソスでございます」

ん? 言ってることがよく分からない。

……と、思いたいだけ。嫌な予感が的中する。そして、今までのことが走馬灯のように頭に流れる。

おかしいと思ってた。フランス行きって普通、日本語で書いてるか? 多分英語とかそういうので書いてるはずだったのに、届いたのがカタカナだったから。でも舞い上がってた私はそんなこと気にもとめず、こうして何の疑いも持たずに飛行機に乗り込み、ニヤニヤして眠り、そしてこの訳の分からぬ地へ降りたったわけだ。

「……間違えた」

小さく言う。

「飛行機を、てかチケットを取るとこから間違えてる」

大失敗、というか、大失態。てかまず、フラソスってどこだ。聞いたことねぇぞ。

「あのー、フラソスって……」

振り向けば、あくびをしている乗務員。いや、接客業だからあくびは禁止だろ!

「あれ? ……あー、はいはい、なるほど……」

乗務員は私をまじまじと見た後何かを察したようで大きくうなづいた。

「あなた様は、間違いでここにやってきた訳ですね? たまーにおられるんです、そういう方」

うんうん、と楽しそうにうなづきながら乗務員が言う。楽しそうに言うな。

「ここは、あなた様の知っている世界ではございません」

へ? と変な裏返った声が出る。

「ここは、いわゆる『異世界』という場所でございますね」


……ちょっと待てや、どういうことか詳しく説明しろ!!!

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