プロローグ
とにかく、にやけが止まらない。紙一枚が輝いて見える。
『フランス行き』と書かれたその紙は、私のこれからのハッピーライフを物語っている。
パティシエになりたくなって、5年。確かに彼氏はできる兆しも見せなかったけれど、この夢のために、24歳の私は飛行機でフランスへ飛ぶ。彼氏なんてクソくらえ。そう言った時の親父の顔なんて鮮明に思い出せる。ずっと反対していた親父の前に、何百万か自分でも忘れた札束をどん! と叩きつけて。
「金ならあるわ、これまで必死こいて貯めてきた金じゃ、私の勝手に使ってもいいだろ!!!」
なーんて叫んで。
またにやける。
あの時の親父の顔と言ったら。ぶん殴られるかとも思ったけど、諦めの顔になった親父を尻目にこうやって出てきたわけだ。
母さんからは、『いいパテシエになりなさいね』というメール。ちっちゃい『ィ』が抜けてるところが母さんらしい。母さんの思いも胸に、私は今、この飛行機で、夢の国へと旅立つ。
飛行機に乗り、ため息をつけば、急に眠気が襲ってきた。あー、昨日親父と言い合いになってほとんど寝てなかったからなー。
私はそっと目を閉じて、やっぱりにやけながら、今度は『夢の世界』へ旅立つことにした。