正直な木こりと、深夜のコンビニバイト並の接客意識しか持ち合わせていない湖の女神
斜めにぱっくりと口を開けた木の幹へ、斧を叩きつける。
こおん、こおん。
深閑とした森の湖畔に、斧が幹を打つ音だけが響き渡った。
都会を離れ、こうして森で一人リズムを刻んでいると、自分がこの世界で唯一時を刻む時計にでもなった気がする。斧の重心がブレないよう、腰ごと打ち付けるようにひとつ、またひとつと木を伐る。
「――あっ」
ぬるりという感触と共に、両手から重さが消えた。しまった、と思った頃にはもう遅い。僕の手からすっぽ抜けた斧は、綺麗な放物線を描いて、湖に向かって飛んだ。
ぽちゃり、と呆気ない音と共に僕の斧は湖の底に沈んだ。
「あー……あーあーあ、やっちゃった」
湖を覗き込む、斧はもちろん見えない。どれぐらい深いのだろうか、試しに足を入れてみると、冷たさに飛び上がった。もうすぐ冬になろうというこの時期に、ここに潜ってどこにあるか斧を探すなんてとても無理だ。
「まいったよ、もう、まいったな……」
湖畔でしばらく呆けていると、目の前の水面が大きく波打った。
ごぼごぼという音と共に湖面が不自然に泡立ちはじめ、やがて水底からまばゆい光の柱が立った。
「うっ――!」
余りのまぶしさに両腕で顔を覆った。
気づくと光の柱は消え、そこに一人の女性が立っていた。
白いドレスに身を包んだ、滑らかな金髪と棲んだ蒼い瞳の女性――女神かと見紛うほどの神々しさと、その美貌に、僕はしばらく見とれてしまった。
斧、湖、女神――。
どこかで聞いたことがあるような……。
僕の脳は必死に材料をかき集め、現在の状況を分析した。
斧、湖、女神――まさか。
「あの……おとぎ話の……金の斧、銀の斧でお馴染みの……湖の女神様? えっ、まさか、あれって実際おこった話だったの!?」
僕がそういうと女神様はにっこり微笑み、再び光の柱が湖を貫いた。湖面が泡立ち、棒立ちの女神様が意味深に微笑んだまま、ぼこぼこぼこと湖の底へと再び沈んで――。
「いやいやいや、まってまって待って」
僕が腕を掴むと露骨に嫌な顔をされた。
「……なに」
「なにじゃないですよ。女神様ですよね? 学校休みなのに無理やりママに起こされた、みたいな顔してますけど、え、女神様ですよね?」
「そうだけど」
「出てきてくれたんですよね。僕が斧を湖に落として困り果ててたから、見かねて出てきてくれたんですよね? 例の『あなたが落としたのは金の斧か銀の斧かそれとも~』ってやつをやりにきてくれたんじゃないんですか!?」
「いや、自動だからコレ」
「自動……?」
「湖に斧落とされたら、自動でせり上げられんの、アタシ」
「斧キッカケなんだ。えっ、でも、じゃあ、やっぱり僕の斧を返してくれるってことじゃないんですか?」
女神様は心底めんどくさそうに溜息をついた。
「あのさあ、あー……じゃあすごい分かりやすいたとえしたげる。コンビニとかでさ、客が入ってくるとするじゃん?」
再び湖面に光がにじむ。
「そしたらなんかチャイム鳴るじゃん?」
湖面がまたも泡立ち始める。
「したらコンビニの店員は、客が何か買おうが買うまいが、とりあえずレジに顔出さなきゃいけないじゃん?」
ごぼごぼと音を立ててゆっくり女神様の身体が沈む。
「じゃ、そういうわけなんで」
「待って待って待って、だから待って」
「なに、キモい。なにかしらキモい」
「得体の知れないキモさは謝りますけど、説明しながら沈んでいくの卑怯でしょ」
「いや本当、本当に忙しいの。だからいったん沈ませて、いったん帰らせて?」
「絶対沈んだら二度と浮かんでこないやつでしょう。ダメです、斧返してくれるまで、離しませんからね」
「じゃあ、セーブだけ、セーブだけしてきていい?」
「ゲームやってんじゃないですか。世界でもっとも後回しにしていい用事ですよそんなの! だいたい女神様が何のゲームやってんすか」
「アイマス」
「オートセーブじゃねーか! 一切セーブしなくていいやつだから安心して斧返してくださいよ! さっきの喩えでいうなら、僕はコンビニで買い物する客ですよ、客なら対応すべきじゃないですか?」
そういうと、女神様は顔を歪めて舌打ちした。本当に女神かこの人。
「わかった、はいはい、わっかりましたよっと。探せばいいんでしょ、探しますよ、探させていただきますよん」
「一挙手一投足腹立つなこの人……」
「で、あんたが落としたっていうのは、どんな斧?」
「あっ、はいはい知ってますよそのやり取り! えっと、僕が落としたのは金でも銀でもない、普通の斧です!」
「――ハハッ」
ごぼごぼごぼ……。
「待って待って沈むの待って! なんでなんでなんで?」
「普通ってあんたさあ、見つけてもらう気全然ないでしょ」
「え!? だって、あの、湖の女神の伝説だったら、こう答えれば『正直でよろしい』っていって斧返してもらえる展開じゃ……」
「いや知らないけどさそんなの。斧返して欲しいんでしょ? どういう斧かわかんないとアタシだって探しようがないじゃん。あんた、この湖の底に何本の斧と、京都の土産物屋で買った木刀が転がってると思ってんのよ」
「後者は修学旅行生が使い道もないのにその場のノリで買ったからですけど、ええと、じゃあどういえばいいんですか?」
「はー……じゃあ、まず色。色おしえて」
言って、女神様は懐から何か紙のようなものを取り出した。
「えっと、刃の部分に赤いラインが入ってて、柄の部分はグリップだけ黒いゴムがハマってますけど、基本は樫の木製です」
「か、し……かし、かし、かし、かしってどんな字だっけ」
「あ、木へんにですね、堅焼きポテトの――」
「カタカナでいいや」
……。
「で、大きさは? どんぐらい? あと斧の特徴も」
「柄の部分が七十センチぐらいの……シンプルな伐採斧なんですけど」
「あそ。斧の特徴は本当にそんだけ?」
「はい」
「……じゃ、この余白に出来るだけわかりやすいイラスト描いて。あと連絡のとれる携帯とお名前も」
「えっ、はい」言われるがままに余白ペンを滑らせた。「……どうぞ」
「はい。じゃあヨシズミさん? って読むのコレ? えー、一応見つかったら後日また連絡しますんでね。そういうわけで、はいっ、お疲れ様でしたー」
ごぼ。
「待ったー!」
「……止めんの慣れてきたわね、あんた」
「見つけたら連絡します、って、どう考えても探す気ないときの対応じゃないですか。僕はちゃんと正直に答えたんだから、今すぐ返してくださいよ!」
「だからさあ、湖底にいったい何本の斧とハイパーヨーヨーが転がってると思ってんのよ。あとあんた正直じゃないし、隠し事してるっしょ」
「ヨーヨーはブームが完全に終わったからですよ! それに僕は正直に答えましたよ、斧の特徴をウソ偽りなく伝えました、何を隠してるっていうんですか?」
「好きな子のリコーダーの中にサラミを詰めこむ性癖とか」
「斧関係ねーし、そんな手に負えない性癖も持ち合わせてねーよ! 斧探すのめんどくさいだけでしょう!」
「わーったわーった。内線で聞いてみるから、ね? 少々お待ちくださいな」
「き、聞くって、いったい誰に」
「拾得係」
「いるんだ」
女神様は掌を耳に当てた。
「あーもしもしー? どーもお疲れ様でーす湖畔営業二課のイツバですぅ。えっとぉ、そちらに斧届いてたりしますぅ? なんか、樫の木製とか言ってマジウケるやつなんですけどぉ……あっ、ない? やっぱりない? あ、そうですか、どーもすいません、はーい失礼しまーすどーもぉ。……」
「その『今の会話でだいたい想像つくでしょ?』って顔やめてくださいよ! 伝えるのすら面倒なんですかあんたは!」
「ないってさ」
「知ってるわ!」
「じゃ、そういうことなんで」
「待って待って待って本当に待って! 困るんですよ、これから冬になるし、あれで燃料集めないと僕、凍え死んじゃうんですよ! イヤでしょ? 自分のせいで木こりが凍死するとか! ね? 気分悪いじゃないですか!」
そう言うと、女神様は大きく溜息をついて首を振った。
「探したら、本当に帰ってくれんの?」
「も――もちろん! だから、お願いします!」
「どの辺に落ちたか、だいたいでいいからおしえて」
僕は記憶を手繰り、できるだけ正確に斧が落ちた位置を知らせた。
「ここか。ちょっとまってね、んー……」
女神様はその位置にひざまずき、目を閉じたかと思うと、そのまま身じろぎもしなかった。
「あ、あの? 本当にそれ、探してます?」
「だまって、集中がとぎれる」
いつになく真剣な声だった。もしかしたら超能力か千里眼か、わからないけど、僕の想像を超えた力で探してるのかもしれない。すごい。やっぱり女神様は凄い!
「……あーダメだ。やっぱサンダル脱ご」
「――えっ。ちょっと? 超能力ですよね? 千里眼ですよね? 超常の力で探してるんですよね? まさか足で探してないですよね!?」
「あっ! ……あ、この感触はビー玉か」
「あんた目開けてプールに潜れない小学生かよ! 人の斧足で探すの勘弁してくださいよ! そんなんで見つかるわけ――」
「あ、今度はマジであった。棒状、これっしょ」
「えっ、マジで?」
「ほれ」
女神様は足を湖面の上に出し、僕の方に向けた。
「足の指の股で挟んで渡すなー! せめて手で、最後は手で渡してこいよ!」
「イヤなら捨てるけど」
「受け取ります! ありがたく受け取らせていただきますよ! もう……ん、あれ?」
受け取った棒状のそれを湖から引き抜いて気づいた。刃がない。というか、斧じゃない。
それは作りの甘い木製の刀だった。そして柄のところに刻まれた『祇園』の文字。
「京都の土産物の木刀じゃねーかこれ!」
「お疲れしたー」ごぼごぼぼ……。
「待ってー! お願いします本当に待って! 木刀じゃ斧の代わりにならないですよ! 大事な斧なんです、本当に、世界で一番大事な斧なんですお願いしますお願いします!」
「ちょっと、離れて。わかったから天衣にしがみつかないで」
僕が離れると、うんざりというように、虚空に肘をついた。
「あんたさあ、斧なんか、ホームセンターで代わりの買ってくりゃいいじゃん。なんであの斧にそんなこだわんのよ。だいたい、この文明の進歩した時代になんで木こりなんてやってるわけ? 素直に都会で就職でもなんでもすりゃいいじゃん。そしたら斧なんかそもそも必要ないっしょ」
「そう言われると思ってました。でも、僕はこの生き方しかできないし、あの斧は特別なんです」
「ふーん。なに、形見とか?」
「いえ、そういうわけじゃないんですが……とにかく大事な斧なんです!」
「……あんたさっき、自分は隠し事してない、つったよね」
「そ、それは本当ですよ。斧の特徴はちゃんと伝えました、し」
「へえ、本当に? 斧について喋ってないこと、あんじゃないの」
虚空に肘をついたまま、女神様の蒼い目が僕を見据える。
全てを見透かした上で、あえて僕に言わせようとしてる目だった。
「わ、わかりました、話します。話せばいいんでしょう! あの斧は、僕を解放してくれた斧なんですよ。僕を苦しめてた、世界のしがらみを断ち切ってくれた斧なんです――」
――五年前、僕には婚約者がいた。
その頃から山遊びが好きだった僕は、結婚したら田舎に住みたいねなんて言っていたし、彼女もそれに対して賛成してくれていた。
元々都会のしがらみや人間関係が苦手だった僕にとって、彼女は唯一の理解者だった。
僕が取ってくる山菜や、罠猟でしとめた兎なんかも、彼女は気味悪がらず、喜んで食べてくれていたんだ。
それが全部ウソだと気づいたのは、些細なキッカケだった。
山の天気が崩れだしたから少し早く家に帰ったとき、僕はそれを目撃した。
閉め忘れたカーテンの向こうで揺れる二つの人影。
ひとつは彼女で、もうひとつは――僕の知らない男だった。
見たとき、何が行われているか理解できなかった。
全身の血が逆流したようだった。膝から下が言うことを聞かなかった。
彼女は、僕が山遊びに行っている間、他の男と――。
僕の趣味を受け入れているフリをしながら、他の男と――。
気づけば僕は、玄関に立てかけてあった斧を手に彼女の部屋に向かっていた。
殺してやる、それしか頭になかった。本気でそう思った。
――できなかった。
裸で絡み合いながら、斧を持った僕を見る彼女と間男のキョトンとした顔を見たら、なんだか情けなくなって、涙がとまらなくなった。僕はしゃにむに斧を振り回し、彼女を真っ二つにするかわりに、彼女の携帯と自分の携帯、そして、僕と彼女とを繋ぐ思い出全てをたたき壊した。
彼女は泣き叫んだ。間男は僕に怒鳴った。
お前が彼女をほっといたから、だとか、お前の気持ち悪い趣味に付き合わされたせいで、だとか。……よく覚えてない。
「――夢だったんです。僕が庭で薪を割ってる間に、彼女が台所で料理を作ってて、薪を抱えて戻ってきたらあったかいご飯があって、みたいな、そんな静かな二人きりの生活が。皮肉ですよね、そのための斧が、夢ごと叩き壊しちゃったんだから」
「それが、あの斧に固執する本当の理由?」
「はい……」
「ふーん。へえ。ほーん」
女神様は、枝毛を気にするように髪をいじくっていた。僕ひとりの身の上話なんて、彼女にとってまるで興味のない話なのだろう。でもこれが真実だ。真実……なんだ。
「ところでさ、その彼女とアタシ、どっちがかわいい?」
「――はい?」
「だから、あんたのその元カノと、アタシのどっちがかわいいかって聞いてんの」
「いや、そりゃあ女神様に決まってますよ! 僕の彼女なんて、確かに愛嬌のある顔はしてますし、優しかったし、よく気がつく子だったし、斧を買ったときは呆れたように笑いながら、僕の夢に賛同してくれたりもしましたけど……まあ、結局それも全部ウソだったわけだし――」
彼女のことを話すうちに、胸が締め付けられるような気持ちになった。
心の蛇口をしめきって、押し込めていた気持ちが、堰を切って流れ出した。
脳裏には彼女との幸せな日々が走馬燈のように流れた。涙がとめどなく溢れた。
「――ハハハ、違うな。違いますね。女神様、僕ウソをつきました。僕はあなたより、彼女の方が可愛いと思ってます。今、気づきました。僕はまだ彼女に未練があるんだ。あの斧が、彼女とのつながりと全部断ち切ってくれたと思い込んでいたけど、あの斧自体が、彼女との最後のつながりだったんだ。僕はそれを捨てたくなかった。失うのが怖かったんです。僕はずっと誤魔化してきました。見ないようにしてきました。でも、やっとわかりました。僕は、あんな目に遭ってもまだ、くそ! 彼女をまだ、愛しているんだ、くそ、くそ――」
懺悔するような格好で嗚咽する僕に女神様が近づいた。
僕の首に腕を回し、そっと抱き寄せる。
頬が触れあうほどの距離で、女神様がやさしく囁いた。
「正直でよろしい」
途端、まばゆい光が視界を満たした。
光は、心地よかった。僕の中にわだかまる感情を全て吸い取ってくれるようだった。
光の中で僕は、眠りに落ちた。
……次に目を開けると、僕は自室で倒れていた。
「えっ、え? め、女神様は、み、湖は……?」
湖で光に包まれて以降の記憶がまったくなかった。外はすっかり夜の帳が降りていた。
ふと、僕は手の先にあたる感触に気づいた。
それは、斧だった。
僕が落とした斧じゃない。
見たこともない、刃が金色に輝く斧が一振り置かれていた。
* * *
こおん、こおんと、静かな湖畔に僕のリズムだけが響き渡る。一振りするごとに、刃が陽光を跳ね返し、朝焼けの中に黄金の蝶が舞う。
女神様にもらった金の斧は、まるで重さを感じず、吸い込まれるように立木を食い込んでいく。刃こぼれする様子もまるでない。本当に、魔法の斧だった。
「やー。精が出るね木こり青年」
湖の方から声が聞こえる。見ると、女神様が虚空に寝そべりながら、僕の方を見ていた。
「斧の使い心地はどーよ。ヨシズミくん」
「あ、はい。すごく良いです。まるで、ずっと使ってたみたいに手になじんで……ありがとうございます! それで、あの、女神様、この間のことなんですけど、本当に、その、僕……」
「いーよいーよ。やめなよ、しめっぽいのは」
女神様はひらひらと手を振った。
「いえ、言わせてください。今日はそのために来たんです! どうしても、これを返しにこなきゃって思って」
言いながら僕は持ってきたドラムバッグを開いた。
「げ」 女神様が顔を背けた。バッグから出てきたのは、およそ数十本にも及ぶ土産物の木刀とハイパーヨーヨー。
「げ、じゃないですよ。金の斧はともかく、なんでこれまで僕に押しつけられなきゃいけないんですか!」
「いやサービスっつーか。一本おまけっつーかさ」
「一本どころじゃないですよ、ただの不良在庫整理じゃないですか! とにかくこれらは全部、お返ししますからね!」
「やめてやめて、マジ迷惑。普通にカバン一杯の木刀とヨーヨー押しつけるの迷惑ってわかんない?」
「あんたが言うな!」
女神様は「顔出さなきゃよかったぜ」とかぐちぐち言いながらも、木刀とヨーヨーを引き取ってくれた。
「――で、あんたこれを返しに来ただけ?」
「まあ、それもあります。でも、本当はお礼を言いたかったんです。女神様に遭わなければ、たぶん、僕は、ずっと自分を誤魔化して生きてたと思うから」
「そっか」
「……あの、女神様」
「ん」
「僕の、もともと使ってたあの斧は、どうなってるんでしょうか」
「知らね。湖底でリヴァイアサンのおもちゃにでもなってんじゃね」
「結構聞き捨てならない神獣いるんですね、この湖」
「まあいいじゃん。どうでもいいっしょ、もう」
「そうですね」
女神様はあくびを一つして、帰るわ、と言って沈み始めた。
「あ、あの、女神様!」
「なに」
「僕、また来てもいいですか。今度は、罠猟で取れたイノシシのベーコンを持ってきます、だから、また来てもいいですか!」
返答はなかった。かわりに女神様は親指を立てた右手を湖面に出し、その、なんか見たことある格好のままゆっくり沈んでいった。
波紋が完全に消えるのを見届けてから、僕は湖を後にした。
立木をかついでいても、身体はいつもより軽かった。生まれ変わったようだった。
湖の女神様の奇跡を何度も何度も反芻した。
「ありがとう、女神様。僕はもう落としません。あなたからもらった金の斧は、絶対に落としませんから」
家に着き、立木を玄関脇に立てかけ、鼻歌交じりにドアを開けた。
「うわっ!?」
玄関に入ろうとした僕に向かって、何かがなだれ込んできた。
大量の木刀とヨーヨーだった。
……あのクソ女神。