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前編

 気がつけばもう秋。

 誰にも縛られることのない生活も二年目に入ったっていうことになる。


「なんで、彼氏作らないの?」


 なんでって聞かれてもなぁ…。

 

「たまたま、そういう機会に恵まれなかっただけだよ」


 職場近くのオープンカフェ。

 私と同僚のミキは、いつもココで昼休みを過ごしているのだけど。

 『そろそろ外は寒くなるね』なんて話をしているときに突然さっきの質問を投げかけられたのだ。


「チャンスなんて、いっぱいあったじゃない!私、知ってるんだからね~?」


と言うと、次から次へと会社内の情報をバラし始める。


「ミキ…なんでそんなに詳しいのよ…?」

「知らなかった?ミズホって社内での人気、結構高いんだよ?」


 どうやら、『ミズホが彼氏を作らないのはなんでか?』ということが、

 昼休み中の男性社員の話題に上がっていたことがあったというのだ。


「園田部長なんてカッコイイし、仕事も出来る上に優しそうなのに、振っちゃうなんてもったいないよ」

「……情報、早すぎよ?ミキ」


 園田部長の件は、3日前にあったばかり。

 そりゃ、私だって、いいなぁとは思ってたけど…。

 でも、実際交際を申し込まれたら…断っちゃったんだもの…。


 ヴゥゥゥゥゥ…ヴゥゥゥゥゥ…

 

 テーブルの上の携帯が、メールの着信を告げる。

 ミキに『ゴメン』と一言断りを入れて、携帯を開いた。

 その様子を見ていたミキが、こう呟く。


「なんだ。そんな優しい顔して笑う相手が、ちゃんといるんじゃない」


 え…?


「久しぶりに見たよ。ミズホのそういうカオ」


 どんな顔してたんだろう?

 それよりも。

 私、今無意識に笑ってたの?


「今度、紹介してよね~」


 紹介しても何も、メールの相手はただの元同級生。

 それに・・・紹介するような甘い間柄じゃない・・・。


「あ、そろそろ午後、始まるね。行こっか」

「待って、ミキ!何か勘違い…」

「大丈夫よ~?バラしたりしないから」


 もう!!

 ホントに勘違いなのに!!





 午後の仕事が始まっても、ミキの言葉が頭をぐるぐる回っていた。

 『優しい顔をする相手』・・・かぁ・・・。

 

 メール相手は高校の元同級生のタカシだった。

 高校生の頃は特別仲が良かったわけではないけど、ひょんなことから再開して、

 今では時間が合えばご飯を食べたり、お酒を飲んだりするような仲になったけど。

 タカシとは、本当にそんな甘い関係じゃない。


 【今晩空いてるんだけど、どう?】


 メールの内容だって、なんていうことないモノだし。

 それに・・・・・・。

 今日は断るつもり・・・なんだから・・・。


「高橋さん、応接室にお茶4つ宜しくね」


 主任が声をかけてくれなければ、多分今日の会議を忘れてたと思う。

 それくらいタカシのことを考えていた。


 ・・・『考えていた』?

 

 なんで私がタカシのことなんか、考えなきゃいけないのよ。

 彼氏でもないのに・・・。


「彼氏・・・かぁ・・・」


 給湯室で1人つぶやいた。

 ふと、とあることに気がついた。


 そうだ・・・。

 『彼氏を作らない』んじゃない。

 『彼氏の必要性を感じてない』んだ・・・。


 でも、いつから?

 

 元彼と別れた頃、ミキの主催する飲み会にも顔を出していた。

 友人の結婚式の二次会に出ては、男のヒトの情報を聞き出したりもしてた。


 それが、いつの頃からか少なくなっていって・・・。


 気がつけば、もう2年たってしまった。


「失礼致します」


 ノックをして応接室への入室を告げる。

 扉を閉めて、お客様へ顔を向けると・・・。


 なぜかそこには私が今考えていた男性、タカシがいた。


 思わず、お茶を出す手が震えてしまう。

 どうしよう・・・。

 ちゃんとしなきゃいけないのに。

 確か、今日の商談は大切なもののハズだ。


 でも・・・・・・。

 そう思えば思うほど手が震える・・・。


 かちゃかちゃと耳障りな音を立てながら机の上にお茶を乗せる。

 こぼさずに無事にお茶を乗せると、ばれないように一つ息をおとし応接室から逃げるように出る。


「高橋さん、顔赤いけど大丈夫?」


 応接室から出て溜息をついたところでそう背後から声をかけられ、

 思わず身をすくませる。


「ぶ・・・部長!」

「お客様、中?」

「はい。・・・お茶はもうお出ししましたから」


 タカシの商談相手が・・・園田部長?

 その事実になぜかどぎまぎしてしまう。

 いや、でも。

 部長は、私とタカシのつながりは知らないんだから・・・。

 それにタカシも、私が部長に告白されたことはしらないんだし。


「じゃあ、失礼します」


 何も知らない二人とはいえ、関係ないとはいえ、

 とにかく早くこの場から逃げたかった。

 部長との会話もそこそこに、私は足早に立ち去った。


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