守る命~愛する恋人の為に~
忙しさの合間の久しぶりの休日。
疲れもあってか、目が覚めて時計を見たのはもうお昼を過ぎていた。
気だるそうに体を起こすと、ベットから降りた。
寝室からリビングへと足を向かい。
キラリと光った何かに加賀宮は目線を移した。
そこには…輝がしていたリング。
確かに小さな箱に入れていた筈だったのに。
夕べ病院から帰ってきて自分は何かしたのかと考えるも思い出せない。
頭をかきながらため息ついた。
加賀宮は心臓外科の医者。
その加賀宮の患者が小さい時からの輝。
そんな長い付き合いの二人は心臓外科内では公認の恋人同士。
…だった。
秋に変わる季節に輝は亡くなった。
手術も海外でと決まった矢先の事で。
「輝、ちゃんと行くから」
着替えした加賀宮はコートを羽織るとマンションから出る。
雪も降りそうなグレーの雲に、車に乗り込み北へ…
輝の地元へと走らせる。
お昼過ぎから出ると着く頃にはもう夕方になるだろうか。
明日も一応に休みを貰った。
輝が亡くなった日は必ず休みにしている加賀宮。
ずっとずっと一緒だよと口癖のように言っていた輝に加賀宮はもう新しい恋なんてしない。
高速をおりると、雪が降ってきたのか白いものが車に。
「雪降ってきたな…」
輝が亡くなって数ヶ月。
一人になれば何もしたくなくて。
結局輝に何も出来なかった自分に悔しくて。
今は落ち着いて来た。
「…もう、冬なんだな」
そう呟き、いつもの花屋の前で止まった。
加賀宮が入ってくると待ってたと言うような顔をした女性の店員。
「今日は遅かったですね、いつものでいいですか?」
「あぁ、今日は寝坊してしまって」
「そうですか、雪も降ってきたので帰り気をつけて下さいね」
「ありがとう」
輝に花束を渡すようになってから顔見知りになった店員。
真っ白い花だけ集めた花束は入院中の輝のようで。
金を払い向かった先は輝の実家。
チャイムを鳴らすと出てきたのは母親で。
どうぞと言う母親に玄関に入ると帰宅した父親が来た。
「おかえりなさい」
「ただいま、今来たのか?」
「寝坊してしまいました」
苦笑いした加賀宮に父親はゆっくりしていけと。
仏壇がある和室に入ると、加賀宮は膝を折った。
持っていた花束を置き。
手を合わせる。
「輝、ごめんね…寝坊して遅れた…起きれないのは年かな?輝に会った時、二十四歳だったからね…もう、四十近いよ」
病院であった事。
同じ心臓外科の医者、巽の事…
加賀宮は1ヶ月あった出来事を輝に話したあと顔を上げた。
「先生」
襖を開けると母親は夕食出来たからどうぞと。
「輝、また来るからね…大人しく待ってるんだよ」
入院中に言っていた言葉が未だに出てくる。
それを気にもしていない加賀宮
和室から出てリビングに向かうとテーブルに夕食が並べてあった。
ストーブもつけなくては寒いリビングは暖まって。
「どうぞ」
「すみません」
座る加賀宮に父親は聞いた。
「嫌な意味ではないんだが…」
「はい」
「花束はもういいと」
「あの、気を使ってるとか言うなら遠慮します、俺は輝の為にあげたいだけで…」
「そうか…いや、来てもらうだけでもありがたいと思っていたからな」
「そこは…譲りません」
笑みを浮かべた加賀宮に、本当に輝を大切にしてくれてると納得した顔をする。
この日ばかりは輝の話をしながら夕食は終わり、加賀宮は再び仏壇の前へ。
今じゃそんな加賀宮を何も言わなくなった親。
付き合うとか言われた日には偏見で納得いかず。
先の見えない輝だから、認めた。
「輝、そろそろ…色入れていいかな?花束に」
今の輝はきっと…水色が似合うと思うよ。
「大人な輝に、来月からは色が入った花束に変えるから楽しみにしてて」
輝の為に…毎月花束を。
それが、輝に何も出来なかった償い。
自ブログにてのお題にふと浮かびました。
11/08/26にブログUPしたものです。
※守る命はR18なのでご覧になる際はお気をつけください。