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日常と私と任務2

おやおや?

私は気づかれないように気配を殺し、そっと近づいて窺いました。

するとそこには、本来ならこの時間帯にいるはずのないお方の姿が。

あららら。なんでこんな所にいるんだろう…。


「ナリア様」


私が声をかけると、視線の先でびくりとその方が肩を揺らしました。

そうして、そろそろとこちらを振り返ります。

うーん…やっぱりいつみても可愛いですね…。

緩やかに波打つ豊かな金髪、くりくりと愛らしい緑の瞳、肌は真珠のように滑らかで…簡単に言えば絶世の美少女。

本日のお召し物は美しい青色のドレスですが、ところどころ葉がついていたり土で汚れていたり。

やれやれ、どこをどのようにしてここまでいらしたのか。

せっかくのドレスが汚れてしまっています。

その美少女が口を開くなり、


「わ、わたくしはさぼっているわけでありません!」


と宣言なされた。

いやそんな力一杯叫ばれても…。


「今日はお休みなのです!」

「そうなのですか」

「そうです!」

「…では、なぜこのような所に?」

「それは…」


何を隠そう(別に隠してないけど)、この少女がこの国の第二王女ナリア様です。

実はこの王女様、サボリ癖がある上に勉強が嫌いで、ちょくちょく王宮を抜け出しては神殿の中庭に出没しているのです。


そんなに頻繁に侵入されるなんて神殿の門番達は何をやっているのだろう、と疑問にも思ったりするが、王女様にもなれば顔が利くのかもしれない。何に対して利かせるのかわかりませんが。


というわけで逃亡した王女様を捕獲するのは私たち中庭担当の騎士なのですが、

王女様は10歳という年齢故の小さな身体をいかしてちょこまか逃げ回るので、

最終的にいつも捕まえるのは敏捷性に優れた獣人の私。

おかげで私とは、追われる者と追う者という関係の顔見知り(…というのも変か)で、毎回嫌がって暴れる王女を専属の家庭教師さんに引き渡す役をしています。


そんな王女様がさぼっているわけではないなら、どうしてこんな所にいるのか?


私が動いたことで何事かと寄って来ていた同僚に「異常なし」と伝えると、

「何かいたのか」と視線で問うてきたので「王女様」とジェスチャー。

同僚は肩をすくめて戻っていった。

さてさて。では、小さく身をすくめている王女様をどうしますかね。


「今日は、どうしたのです?」


唇を噛んで俯いてしまった王女様にできるだけ優しく声をかける。


「ディ、ディディが…」

「ディディ?…そういえば姿がみえませんね。ディディがどうかされたのですか?」


ディディとは王女様の飼っている小さな猿に似た生き物の名前で、白い毛並みをしています。とても頭がよく人語を解していて、王女様といつも一緒に行動していました。


「昨日の夜からいないのです…」


ほほう。


「それで探していたのですか」

「はい…」


王女様はこくりと頷いて、大きなおめめを潤ませました。

王女様にとってディディは大切なお友達です。

いつも一緒のご友人が昨夜から姿を見せないとなれば、心細いく不安になるのは当然ですね。

王女様のドレスに付着していた葉や土を払ってやるためにしゃがんで、そのまま目線を合わせる。


「失礼ながら、ミレイ様やガレン様はどうされたのですか?」


ミレイ様は第二王女付き侍女、ガレン様は第二王女付き護衛騎士。

どちらのお姿もみえないということは…。


「まきました」

「………………そうですか」


王女様はそんなことを、今日会ってから初めての笑顔で告げられました。

やっぱり…という不本意な納得と、10歳の少女にまかれる侍女…はまだ許せるとして、騎士はどうなんだろうと疑問に思いつつ、王女の小さな手を取り、にっこりと笑ってみる。


「では、微力ながら私がおともいたしましょう。おひとりで探されるより、ふたりで探した方が、手間も時間も省けます。それに…」

「それに?」

「私は人族より気配に敏感ですし嗅覚にも優れます。きっと役に立ってみせますよ」


王女様は私の揺れる黒い尻尾と頭に潤んだままの目をやり、大きく頷かれました。


「では、お願いします」

「承知いたしました」


恭しく頭を下げ、立ち上がった瞬間から、私の本日の任務は「中庭警護」から「第二王女のご友人の捜索及び警護」に変更されたのでした。



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