表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

私が手に職をつけるまで

私はこちらの世界で、ちゃんとした職業に就く事ができました。

それがね。もう本当にびっくりな職業です。

聞いて驚きなさい。


この私が「騎士様」ですよ!

しかも「王宮付き」ですよ!


日本でしがないOLとして働いていた私が、騎士・・・。

よもや自分は騎士になろうとは想像もつきませんでした。

さらに「王宮付き騎兵士団」といえばこの世界の職業「王宮付き侍女」と並んでの花形です。


えっと、どうして私が異世界で人気ナンバーワンの職業に就けたかといいますと。

5年前、飛ばされてきた右も左も解らぬ私をある人が救ってくれまして(あれよあれよという間に後見人なっていただいたそのお方は、今では私の大事な家族となっています)。


で、その人の勧めで、・・・えーと、こっちに来てから1年くらいだから、

今からいうと4年前くらいかな?

国で大きな剣闘大会があると言われたのですね。

国が開催する剣闘大会なので、もちろん優勝者への賞金は超高額です!

ええ、当時無一文だった私はそれに飛びつきましたとも。

あのお方にはもう本当に何から何までお世話になったので、せめてもの恩返しですね。


戦闘なんて初体験だよ!と思いながらも、今の身体の影響ですかねぇ。

妙にノリノリというか、血が騒いだというか、元女性にあるまじきというか。

剣を握った瞬間のあの衝撃は忘れられないですね。

こう、うーん。なんといったらいいのかな。

一歩間違えば命を落とすような駆け引きや斬撃も、身体に馴染んだ感じがして、

戦えるという事にワクワクしたのです。

そんな私を傍観していたあのお方は、


「ああ、さすがは戦いに生きる「大牙の一族」ですね。拾ったかいがありました。これから存分に役に立っていただきましょう」


と満足気に呟いていましたが、もうこれ以上はあがらない!ってくらいテンション高かった私にはなんのことかわかりませんでした。

で、そのテンションのまま挑んだ大会で私は奇跡的にも連勝していきまして。

おお、これは賞金も夢じゃない!と感じた私は俄然ヒートアップしていきました。


・・・だけど、まさか優勝してしまうなんてねぇ。

しかも優勝したときに知った事実に私はびっくりしすぎて腰抜かしそうになりましたよ。


実はですね、この大会はなんと国の騎士兵団への就職採用試験を兼ねているものだったらしく、

見事優勝してしまった私はめでたく「騎士様」となったのでした。

あのお方が、職探しと当面の生活費を一緒くたにして解決してくれたわけです。

もう、あのお方には頭があがりませんね。


めでたく「騎士様」として国に採用された私は、

とりあえず「騎士見習い」として働くことになりました。

あのお方の屋敷をでて、住み込みで訓練や雑用をこなす日々が始まったのです。


正直、男性としての生活に強制的に慣らされたのはこの時期ですね。

いろいろありました。

ええ、いろいろ。

たまーに女性も見かけましたが、ほとんどが男性です。

日常は男性しかいませんし宿舎も男性だけでしたので、

・・・男性の摂理?や身体の構造?など私には想像もつかない世界を垣間みて過ごしました。

自分の身体なのに不思議な事ばかりでした。すごかった。


ショッキングな日常を送っていましたが、さらに私がつらかったのが周囲の反応です。

騎士はほとんどが人族でしたので、獣人族である私は差別対象だったのですよ。

あ、申し遅れましたが私は黒い豹の獣人です。

耳と尻尾と牙と爪がありますよ。


こちらの世界ではエルフや獣人、竜などと人間が共存する世界だったんですけど、

人間というものは自分より優れた能力を持つ種族を排除しようとする種族のようなので、

酷い差別がおこっていたのです。

幸い、現国王の「種族関係なく仲良くしようよ!」という意向により、

種族意識はだいぶ昔より改善されていたようですが(長命なエルフであるあのお方談)、

それでもまだ種族に固執する少数の貴族や民はいるようでして。


もちろん、見習いである私の先輩にあたる騎士にもいたのです。

貴族の馬鹿息子達が。

私はそれに目をつけられ辛くあたられてしまったのです。

ひどいですよね。見た目はどうあれ女性ですよ、私。

見た目といえば、私をイジメていた人たちからすれば私の外見も気に食わなかったようです。

普段はあまり自分の容姿を気にしない私ですが、よく考えれば「野性的美形」で、

しかも色気もありますから、腹もたちますよね。


多少、その人たちの気持ちが解らないでもないので、はじめは我慢していました。

何をされてもじっと我慢の子でした。

しかしです。この私でも堪忍袋の緒は切れるものでして。

その堪忍袋の緒が切られてしまった事件がある日おこったのです。

あれは、・・・そうですね。

騎士見習いとして暮らし始めて半年くらいでしょうか。


なんとあの人達は、数で押し寄せて私を押さえ込み、


「獣人なんて下等な種族では、ここはいきにくいだろう?

だからこの俺が生きやすくしてやろう。

これが無くなったからといって、汚らしい獣の血は消えないがな」


と言って私の大事な尻尾を切り落とそうとしたのです!


獣人になってから痛感したのですが、尻尾はとても大事なのです。

無くてはならないものです。

獣人としての存在理由だとかなんたらかんたらまだ先輩騎士は喋っていましたが、

尻尾を何の遠慮も無く掴まれた瞬間、そんなこと構っていられないくらいカッと頭に血が昇りました。


しかも、この頃から私はちょっと周囲に感化されすぎて、性格が若干乱暴者に変わってきていたので、

気づいたら十数人は居たはずの先輩騎士達がぼこぼこにされて泣きべそかいてました。

血もあちこち飛び散ってました。

すごいな私。なにやった私。

でも自分の剣を抜かなかった私を褒めてやりたい。

「騎士は感情で剣を抜いてはならない」とは騎士兵団の教えの一つです。

先輩達の抜刀された剣は折られて周りに転がっていましたがね。

たぶん私が折ったのでしょう。たぶん。


その後、先輩達は騒ぎを聞きつけた他の騎士によって取り押さえられ連行されていきました。

現場だけ見れば私の方が加害者のようでしたので、私も連行されました。

しかし、嬉しい事に他の先輩騎士が擁護してくれたので私は解放されました。

普段の行いの差です。

私をイジメていた先輩達が貴族の馬鹿息子連中だったので、

普段は強く出られなかった見習い仲間もここぞとばかりに援護してくれて嬉しいかぎりでした。

私は普段、獣人であることも相まって周囲から敬遠されていたので、

この時は本当に嬉しかったですね。

イジメの騎士先輩達は騎士兵団を除隊になって私はこの事件をきっかけに周囲と馴染むようになり、

結果的には「雨降って地固まる」だったわけです。


というわけで、2年の見習い期間を経て、私は無事に騎士へと昇格しました。

晴れてこの世界で職にありつけたわけです。

一生ものの職です。目指せ騎士長。

嘘です、給料をくれるなら構いません。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ