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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

こんな断罪、ありか?

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/06/27

手慰み、第数弾であります。

が、三日前から取り掛かっておりました。

今回、読みにくく、文字にしにくい文を、科白に採用したせいであります。

分かり難いかも知れませんが、お楽しみいただければ、幸いであります。


 うちの会長は、生粋のトラベルメーカーだ。

 副会長がそう吐き捨てたくなるのは、仕方がなかった。

 そうだと思わないと、説明がつかない現状なのだ。

 この国の王太子となった第二王子と、隣国の第一王女の婚約式後の、お披露目を兼ねたその夜会に招待された副会長は、珍しく一人ではなかった。

 夫人の妊娠を機に、実務を副会長に丸投げし始めた会長が、第二子誕生後は育休を取ると宣言したため、無理矢理たてた会長代理をお得意様に紹介するため、連れ出していたのだ。

 一応、方々の世界の国々のお得意様や、王室皇室にも、書面で理由と共に代理の存在も伝えているのだが、この世界のこの国では特に、妙な誤解が芽生え掛けていた時期があった事を考慮し、王族にも挨拶しておこうと思っていた。

 それなのに……。

「晴れて成人の仲間入りした私から、この場の者たちに訴えたいことがあるっ」

 そんな言葉を、声高に発したのは、今回の主役の一人で、この国の王太子だった。

 王族への挨拶の順番を待ちながら、お得意の貴族方との挨拶をしつつ、その声を聞き流していた副会長は、次の言葉で天井を仰いだ。

「ある人気の商会で、会長を務める男の、度し難い所業についてだっ」

 ざわつく会場に負けない声音で、王太子は言い切った。

「その男は、一人の少女を娘と偽って囲い込み、淫らな行為を強要し、とうとう身篭らせてしまった、極悪人だっ」

「……おい?」

 副会長の隣に立つ長身の男が、低く呟く。

 暗に、説明を求める短い呟きだが、副会長は頑なにそちらを見ない。

 そうする事で、うちの会長の事ではないと、一縷の願いとともに主張していたのだが、王太子は容赦がなかった。

「あの銀髪の男は、甘いマスクでこの国の商業を網羅しているが、騙されてはいけないっ。きっと、叩けば埃がむせるほどに舞うはずだっ。私はここで、宣言するっ。必ずあの少女を、あの見た目だけの色男の手から、救い出して見せるとっ」

 これ、王女を含む隣国代表一同は、承知なのか?

 つい、周囲を伺ったのは、現実逃避も兼ねていたのだが、大袈裟にキョロキョロする副会長を、王太子が見つけてしまった。

「商会副会長っ。申し開きがあるなら、堂々と前へ出ろっ」

 最悪だ。

 再び天井を仰いだが、これは自分が出るべき場だと、静かに足を其方に向けた。

 その肩に、完全に動きを止める重みが乗る。

 足止めの意思が明確な、大きな手の重みだ。

「副会長? 話が、全く見えねえんだが?」

 低く、ドスの効いた声音は、懐かしいものだったが、度合いが違った。

 子供の頃に聞いていたら、完全に怯えて泣き出していた。

 今は、悪寒が走っただけですんだが。

「ただの意見の食い違いですので、お気になさらなくて、大丈夫です」

「ほう……会長と、その娘にかかった嫌疑を、気にするなと?」

「根回しは、すんでいます。今から王太子殿下とも、話をつけて参りますから、ここでお待ち下さい」

 副会長の、優しく笑いながらの宥め言葉に、見下ろした会長代理は笑いを返した。

 どんな難問も物ともしないかのような、不敵な笑いだ。

「会長のやらかしを治めるのは、代理の仕事だろうが?」

 ああ、察してしまったか。

 こうなっては、譲るしかない。

 副会長は、第二の師匠でもある男の後に従って、王太子の前に出た。


 正義感を振り翳して、件の商会の副会長を名指しした王太子は、前に立った男を見て一瞬、たじろいだ。

 男にしては小柄な副会長より、頭ひとつ半ほど大きい、黒髪の整った顔立ちの男は、不敵に見える笑いを浮かべて、一礼する。

「国照らす太陽とその御子様方に、ご挨拶申し上げます」

 まずは、上座で青ざめて立ち尽くす国王夫妻と、そんな二人の両隣りに立つ、第3王子とその婚約者、第一王女とその婚約者、そして、その家族たちより一歩前に出て演説していた、主役である王太子と、彼の横に一歩下がって立つ婚約者に、形通りの挨拶をした代理に、その丁寧な仕草にすら押されつつ、王太子が問う。

「っ、そ、そなたは?」

「この度、育休を予定している会長の代わりに、商会を取り仕切る事となった者でございます」

「そ、そうか」

 明らかに狼狽えている所を見ると、副会長である自分相手なら、言いくるめられると思われていたようだ。

 甘く見られ過ぎたか。

 背後で目を細める副会長に構わず、会長代理は丁寧に本題を切り出す。

「ところで、殿下のお話の、度し難い所業を行う商会の会長とは、もしや、我が商会の会長の事でしょうか?」

「そ、そうだっ。あの者は、私とさほど歳の変わらぬ少女を娘と偽り、淫らな行為を強要して、身篭らせたのだっ」

「成程、それは初耳です」

 わざとらしく目を見張った代理に、王太子は我が意を得たりと顔を輝かせ、捲し立てた。

「あの男、自ら私たちに話したのだっ。少女とは愛人関係で、ようやく身籠ったから、私との縁談を断れるとっ」

「……」

「きっと、私に少女を取られたくないばかりに、無体に走ったのだっ。許せる所業ではないっ」

 代理は一度、勢いよく言い切った王太子から、副会長に目線を落とした。

 男の何人目かの弟子は、上目遣いに見返す。

 東洋系の色合いの瞳と、それより暗く青い色合いの瞳が合い、無言の遣り取りが交わされたが、これは限度を超えたと判断が下った合図だった。

「成程、どうやらこの国では、全く思いもよらぬ話が、出回っているようですね」

「っ、待ちたまえ。それはっ」

低い声に剣が籠ったのに気づいた貴族は、この国の宰相だ。

 慌てて弁明しようと口を挟むが、それより先に代理は周囲に向けて問う。

「私が代理として、商会の責任者を引き受けるに至った経緯については、担当より書簡にて、伝えられているはずなのですが。文面に、婉曲されかねない言い回しが、見受けられましたか?」

「っ、そんな事はないっ。丁寧で分かりやすい文面だった」

 答えたのも宰相で、それには書簡を受け取った他の貴族たちも、一斉に頷いた。

 王太子の兄弟二人も頷いたのだが、両親の顔を見て、目を見張った。

 王妃は、白い目で夫である国王を見ている。

 その目を避けるように、国王は目を泳がせ、咳払いした。

 その様子をつぶさに見ていた副会長は、大袈裟に溜息を吐き、口を開いた。

「会長代理。これより私が、皆様にお送りした書簡の文面を、一句違わず誦じます。もし、可笑しな婉曲をされる描写がありましたら、ご指摘願えますか?」

 後の流れが見え、諦観混じりなのに気付いたのか、代理は僅かに眉を上げた。

 が、深くは問わずに頷く。

「分かった。聞かせてくれ」

 一礼した副会長は、静かに息を吸う。

「まずは、全てのお客様にお送りした、定例の挨拶文です」

 そう前置きし、小柄な男は滔々と言葉を並べ始める。

「平素は、ご贔屓いただき有難う御座います。この度、我が商会の会長夫妻が、待望の第二子を授かりました。第一子誕生から長い間を開けての祝い事となり、会長はこの機に、自身が手掛ける事業を若い人材に分散し、ゆくゆくは誕生した第二子の育児を三年間行うための、休暇を取る事を明言致しました。そこで、我々は熟考を重ね、休暇をとる会長の代理として、会長のご息女の伴侶を、指名する運びとなりました」

「は?」

 つらつらと誦じた言葉に、招待客の中のお得意様方が無言で頷く中、王太子が思わず間抜けな声を出したが、副会長は構わず続けた。

「会長が社会復帰するその日まで、代理率いる従業員一同、さらなる精進をいたす所存で御座います。今後とも、何とぞご愛顧賜りますよう、お願い申し上げます」

「……堅っ」

 代理が、思わず吐き捨てた。

「貴族の方が、大部分なので、在らん限りの言葉を並べました」

 使い方は、間違っていない、と思うが、自信はない。

 こちらのダメ出しもあるかと、身構えた副会長だが、王太子の間抜けな表情が目の端に映り、そちらに顔を向けた。

 第二王子は説明を求めて、父である国王を縋るような目で見つめているが、父親の方は哀れな息子にどう説明すればいいか、悩んでいるようだ。

 今更悩まれても、手遅れだ。

 副会長は、優しく微笑んで言った。

「以上は、定例の挨拶文で御座います。個々の客様ごとに合わせた文面を、添えるようにしておりましたが、これより王室に送りました文面を誦じます」

「っ、ま、待てっ」

 一国の王らしからぬ、焦った静止の声は、無視した。

「これにより、前々から打診されていた、会長夫人召し上げの件は、改めて固くお断りいたします事、心置き下さい」

 しんと、会場が静まり返ったのは一瞬で、次の瞬間、王太子が悲鳴に似た主張を吐いた。

「はあっ? 私が望んだのは、歳の近い息女だっ。あんな年増じゃないっ」

 代理の表情が、たった一瞬だけ、一切抜け落ちた。

 それを見てしまった王太子の兄弟二人が、上座の方で悲鳴を上げたが、その間に表情を戻した男は、やんわりと返す。

「殿下。それは、この場にいるご夫人方に対しても、失礼です」

 嗜めの言葉は、前置きだ。

 早い段階で、王太子の持ち出した断罪材料が、誤解の産物と察していた代理だが、言葉にされるともう、取り返しがつかなかった。


 最悪国存続の危機もあり得る状況だったが、王太子は嗜めた代理に、無謀にも噛み付いた。

「そなたっ、本当に、息女の伴侶なのかっ?」

「おや、そちらが気になりますか?」

 不敵に笑う代理は、わざとらしく返す。

「はい、事実です。ですが、王室への召し上げは、私もお断りします。会長夫妻と同様に、私たちも、相思相愛で御座いますので」

「う、嘘だっっ」

「嘘では御座いません。この度の就任が決まる前に、この国を二人水入らずで観光させていただきましたので、既成事実もしっかりと確保しております」

 つまり、と一度言葉を溜めたのは、わざとだ。

「私と妻は、しっぽりと出来上がっております」

「や、やめろっ、聞きたくないっっ」

 王太子は、耳を塞いで膝を折った。

 立ち直る気配が無い婚約者に近づき、途方に暮れるながらもよしよしと宥める隣国の王女を見ながら、副会長がようやく代理を嗜める。

「まだ、成人したての方に、そのようなふしだらな告白は、刺激が強すぎます」

 だがまあ、王太子が横槍入れる気力を喪失してくれるなら、この後のやり取りは楽そうだ。

 そう思いつつの嗜めだったからか、若干軽めの口調になった。

「ああ、すまん」

 代理の方も軽く謝罪し、すぐに次の標的に目を向けた。

「っ」

 強面でも目つきが悪いわけでもないが、見られた国王は思わず後退りした。

「この国の王族は、家族仲良しと聞き及んでおりましたが、それは、第二王子殿下以外、と言う事だったのですか?」

「ち、違うっ」

「では何故、王太子殿下だけ、我が商会からの書簡の内容が、伝わっていないのですか?」

「そ、それはっ」

 国王が言葉を詰まらせ、その横で王妃が溜息を吐く。

 静かに王妃が口を開いた。

「あの書簡で、陛下自身も初めて、商会長の勘違いに気づいたのです」

「まさか、夫人への打診と思われているとは、思わなかったのだ」

 あくまでも、こちらに非を被せるつもりの二人に、代理は微笑んだ。

「その頭、脳味噌入ってますか?」

 再び会場が静まり返った。

 先程より、寒い。

「代理、脳味噌入っていなかったら、こんな大人しくしてないです。せめて、脳味噌に皺あるか? にしてください」

 突然吐かれた毒に慌て、副会長が嗜めたが、代理はもう止まらなかった。

「あなた方は仮にも、そう、本当に、仮、のようですが、一国の王族の一員のはずなのに、貴族でも周知している身分の差と、常識を理解されていないようだ」

 静止が、効かない。

 副会長は早々に諦め、話の後を引き取った。

 衝撃を受けた相手にはまず、冷静に常識を思い出してもらわなければ。

「通常の釣書は、宛名は家でも、縁談打診の相手は、フルネームで指名されるものだと言うのは、常識だと思うのですが、王室からの釣書には、家名のみでした。これで、会長が勘違いしない方が、可笑しいかと」

「可笑しくはないっ。幼い王子の縁談だぞっ?」

 冷たい空気の中、ざわつき始めた会場に負けない、張りのある声での反論だが、国王の隣で王妃は扇子で顔まで隠してしまった。

 恥ずかしがるのが、遅すぎる。

 小柄な男は優しく、しかしはっきりと言い切った。

「一時期、この国の御貴族の方からの釣書が増えましたが、全てにお嬢様の名は書かれておりました。なので、すぐにお断り出来たのです」

 理由は身分差と、既にいた相思相愛の伴侶の存在だ。

「そ、そんな前から……」

 再起不能と思われた王太子が、小さな声で呟くのが聞こえたが、もう無視でいいだろう。

「我が商会の、会長率いる従業員の多くは、どの国にも属さぬ、いわば流民です。平民ですらない者を、一国の王が、お嬢様を後継者の正室にと望んでいるとは、会長も思い浮かびもしなかったかと」

 副会長は、改めて初めに王室からのそれを受け取った時の、会長の様子を思い返す。

「当時会長は、本当に困惑しておりました。王子様方と同じくらい、かなり若い娘がいるのは周知されたはずなのに、夫人を望まれるとはと」

「っ、っ」

「若いと言うか、幼かったな。名指しされなかった事が、この混乱を生んだが……まだ、ましだったな」

 感想を述べた代理の笑顔を一瞥し、副会長は王族一家に向かって一礼した。

「祝いの場を、図らずも乱してしまった事、心よりお詫び申し上げます。我々は、これにて退場させていただきます」

 退場の意を示す男を見下ろした代理は、まだやり足りなそうだったが、すぐに同じように一礼した。

 会場を出て扉を閉めた途端、我に返った国王の声が背に当たったが、二人は既に、逃走していた。


 そんな事があったので、その国どころか、その国の同盟国との取り引きも、掻き消えるかと身構えていたのだが、意外にも、折れたのは国の方だった。

「国王陛下が、譲位を決められたんですか? 王太子殿下はまだ、お若いのに?」

 赤い魔女の店で、店番をしている女が、常連になった貴族令嬢の報告に、目を丸くした。

 質素なワンピース姿の、黒髪と銀髪の二人の令嬢は、購入予定の駄菓子を手に、揃って頷く。

 黒髪の令嬢が声を潜めた。

「殿下の婚約者様が、とてもしっかりとした方で、ご自身のお国のお偉い方や、わたくしたちの親にも働きかけて、国一丸となって支える体制を、作ることになりましたの」

「そう、なのですか」

 言葉を返しながら、金髪の店番は思った。

 夫と副会長、他の国に避難済みなんだけど。

 自分も合流予定だったのだが……。

 何が、幸いし、災いになるか。

 一概には、判断出来ないものだ。

 





 


 

王太子ではなく、事実を隠した国王夫妻を断罪した、つもりです。

王太子、立ち直るか?

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