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会話オンリーな短編集

へっぽこ勇者と最弱モンスターの穏やかなる交渉

作者: umo

 会話文オンリー第四弾ですが、第一~三弾とは毛色が違う感じなので注意ッス。

(勇者、覚悟!)

「わわ、ちょっ、ま、待つッス!」

(問答無用!)

「す、すんませんすんませんすんませんッス!」

(ど、土下座しても無駄だ!)

「そこをなんとか……」

(泣き落としも駄目!)

「そんなこと言わずに、ほら、これあげるッスから!」

(……10ゴールド、だと……)

「2ゴールドしか持ってないスライムさんにとっては大金ッしょ?」

(…………)

「…………」

(………………)

「……おおっ、助かったッス」

(か、勘違いするなよ!)

「何をッスか?」

(一時休戦なだけで、次会ったときは容赦しないんだからな!)

「わかってるッス!」

(そ、そうか……)

「そうッス」

(…………)

「…………」

(ところで……)

「なんスか?」

(お前、なぜ魔物である俺の言葉が分かる?)

「勇者だからッス!」

(……そうか)

「そうッス」

(…………なあ)

「なんスか」

(お前、なぜ語尾が変なんだ?)

「勇者だからッス!」

(…………そうか)

「そッス」

(………………なあ)

「今度はなんスか?」

(お前、なぜそんなに弱いんだ?)

「勇者だからッス!」

(そうか――――ってそれは絶対におかしいだろう!)

「どこがッスか?」

(どこの世に最弱モンスターのスライム一匹に負ける勇者がいる!)

「地味に自虐してるッスね」

(……うるさい、俺のことは俺が一番よく知っている)

「そりゃ悪かったッス」

(それで、なぜそんなに雑魚なんだ)

「レベル1ッスから」

(レベル……?)

「経験とか実績ってヤツッス」

(…………経験ゼロでも、勇者がスライムに負けるか……?)

「自分、昔から虚弱体質なんス」

(は?)

「相手がスライムでも攻撃を1、2回も受けたらやられるくらい体力が低いッス」

(…………)

「…………」

(随分残念な個性をお持ちのようで……)

「スライムに同情されたッス……」

(だがな、たとえ弱くともな……)

「なんスか?」

(命乞いはまだしも、魔物にワイロ送るとか聞いた事ないわ!)

「ワイロを平然と受け取る魔物も聞いたことないッスけど……」

(…………)

「や、自分が悪かったッスから、落ち込まないでくださいッス」

(……いや)

「どうしたッスか」

(よくよく考えてみれば……)

「なんスか?」

(お前を倒して懐を漁れば10ゴールド以上手に入ったんじゃないか……?)

「おおっ、それは盲点ッス!」

(…………)

「え、に、にじり寄ってきてどうしたッスか!?」

(……今からでも遅くはないかと)

「ケーヤク違反ってヤツッスよ、それは!」

(………………ちっ、冗談だ)

「……メッチャ本気の眼だったような気がしないでもないッス」

(気のせいだ)

「それに、あのとき倒されても10ゴールドも見つからないと思うッスよ?」

(なぜだ?)

「勇者特権としてッスね、死ぬような怪我を負った場合……」

(うむ)

「所持金の半分だけ落として教会か王様の前に自動的に送られるッスから!」

(………………………………)

「どうしたッスか?」

(いや、どこからツッコめばいいのか分からなくてな……)

「はあ、なんか大変そうッスねえ」

(他人事みたいに言うな、お前のせいだ!)

「そうなんスか?」

(そうッス!)

「…………」

(…………)

「…………」

(……と、とりあえず、だ)

「はいッス」

(あの10ゴールドを含めてお前の所持金はいくらだったんだ……?)

「12ゴールドッス!」

(なるほど、お前を倒しても6ゴールドしか手に入らなかった、と……)

「そッスねー」

(……なぜそんなに貧乏なのか訊いていいか……?)

「勇者だからッス!」

(…………万能な答えだな……)

「まじめに答えると、王様がケチだからッスねー」

(そうなのか?)

「魔王倒せって言う割に、切れ味の悪い剣とちょっとだけ丈夫な服と、50ゴールドしかくれなかったッス」

(それはたしかにケチだ)

「ッしょ?」

(世界を救う勇者にその扱いは酷いだろう)

「ッスよねー!?」

(しかし、実はお前があまり期待されてなかっただけじゃないか?)

「…………」

(虚弱体質だしな)

「……………………」

(……………………)

「…………泣いていいッスか?」

(…………と、ところで、見たところ装備は変わっていないようだが、50ゴールドは何に使ったんだ?)

「……………………」

(…………まさか)

「…………街の外に一歩足を踏み出したら角の生えたウサギに襲われたッス」

(…………)

「次に出た時はでっかいカラスにつつかれたッス」

(………………)

「ちなみに所持金が奇数で死んだ場合、端数は取られるッス」

(わかった、わかったからもう何も言わなくていい……)

「ッス…………」

(…………)

「…………」

(…………とりあえず次のツッコミ、もとい疑問点に移ろうか)

「ウッス」

(死んだ場合、自動的に教会か王の前に送られるとはどういう原理なんだ?)

「勇者だからッス!」

(またそれか!)

「死んで目を覚ましたら王様の前に立っていて唐突に、情けない、とかなんとか小言を言われるんス」

(王とやら、自分が送り出しといて、嫌味な奴だな……)

「まあ、気付けばそんな状態になるんで、原理なんて自分にはわかんないッスよ」

(そういうものか……)

「場所によっては、もも……なんとかっていう魔物が、商人をわざわざダンジョンの外まで運んでくれることもあるらしいッス」

(聞いたことないが、随分変わった魔物だな)

「いや、こうして勇者と呑気に話してるスライムさんも相当な変わりものだと思うッスよ?」

(む……)

「…………」

(…………)

「……こっちからも訊いていいッスか?」

(構わんぞ、なんだ?)

「なんでモンスターって人間のお金とか持ってるんスか?」

(……)

「あと、モンスターの種類によって持ってる金額も決まってるって聞いたことあるッス」

(…………)

「他にも、装備できなさそうなアイテムとかも持ってることあるッスよね?」

(………………)

「しかも見た目はどこにも持ってなさそうなのに、倒した途端に現れるらしいッス」

(……………………)

「明らかにそいつの体積よりデカイものが出ることもあるそうッス」

(……………………なあ、勇者よ)

「なんッスか」

(世の中にはな、知らない方がいいことってのがあるんだよ……)

「そ、そッスか……」

(そうッス……)

「…………」

(…………)

「……あれ?」

(どうした)

「さっきスライムさんに渡した10ゴールド、どこやったッスか?」

(城に送られたぞ)

「城、って魔王城ッスか?」

(ああ)

「どうやって送ったんスか?」

(…………魔物だからッス!)

「まねするなッス」

(いや、返答に窮したときは便利だな、と思ってな)

「まあ別にいいッスけどね」

(なかなか寛容なことだ)

「……ところで魔王城って魔物向けの銀行でも開いてんスか?」

(いや?)

「じゃあ送った10ゴールドはどうなるッスか」

(とられる)

「誰にッス?」

(魔王様に)

「…………」

(…………)

「…………魔物のほうの王様もケチなんスか……?」

(い、いや、そういうことではなくてだな……)

「じゃあなんなんスか」

(どう説明したものか……)

「ゆっくり説明してくれたらいいッスよ」

(……まず、前提条件として、各魔物には最大所持金額が決まっているわけだ)

「あぁ、だから魔物の種類ごとに持ってる金額が同じなんスね、その理由と原理はともかく」

(……そして上限を超えて持つことになった場合、原理は俺にも分からんが、自動的に送金される)

「あ、やっぱり原理不明なんスね……」

(……で、送られた金額が一定に達すると、俺達は成長させてもらえる)

「せ、成長ッスか……?」

(俺の場合だと、毒を持つか、簡単な回復魔法を使えるようになるか、だな)

「姿も変わったりするんスか」

(うむ、体が弾けたり触手が生えたり、魔物によっては色だけが変わる場合もあるがな)

「はじけ……しょくしゅ……」

(つまりは金を稼げば稼ぐほど、上位の魔物になれるわけだ)

「それって、歩合制みたいな……?」

(若干違う気もするが、ま、似たようなものかもしれん)

「魔物って歩合制だったんスか……」

(魔物の世も人の世も、世知辛いってことだ)

「ははあ、魔物も大変なんスねー……」

(勇者も、な……)

「…………」

(…………)

「…………」

(なあ、さっき訊きそびれたんだが……)

「なんッスか?」

(勇者ってのはお供を連れるものじゃないのか?)

「…………」

(それならこの辺りの魔物一匹程度にやられることはないだろうし)

「……………………」

(…………あ、あー、言い難いなら別に言わなくていいぞ)

「……さかばが……」

(酒場?)

「この間、仲間を集めるための酒場が経営難でつぶれたッス……」

(…………)

「…………」

(…………世知辛いな……)

「ッスね……」

(…………)

「…………ねえ、スライムさん」

(なんだ)

「よかったら、自分の仲間になってくれないッスか」

(――…………)

「…………」

(……俺は、魔物だ)

「世の中には魔物使いっていう、魔物を仲間にできる職業があるらしいッスよ?」

(お前は勇者だろう……)

「でも魔物の言葉が分かるッス」

(素質はあるということか)

「本職の魔物使いは魔物を倒して屈服させるらしいんスけどね」

(……お前はワイロによる交渉だからな……)

「いいじゃないスか、それにこれからも手に入れたお金の半分をあげるッス」

(悪くない、どころか魅力的な提案ではあるのだが……)

「だが?」

(果たして、最弱モンスターの俺と最弱勇者のお前だけで金を稼げるのか?)

「…………」

(…………)

「が、がんばるッス!」

(気合いで何とかなったら俺はスライムなんてやっていない)

「えーと、協力すればスライム一匹なら余裕で倒せるッスよ!」

(同族を倒すのは気が向かんのだが)

「じゃあ、もっと仲間を増やすッス!」

(どうやって)

「ワイロ万歳ッス!」

(……残り2ゴールドしかないのに?)

「…………」

(…………)

「ば、バイトするッス!」

(勇者がバイト……)

「金稼いで、魔物の仲間増やして、旅に出て、また稼いで、また仲間増やすッス!」

(威勢だけはいいな)

「野望は全ての魔物を仲間にすることッス!」

(どっちが魔王軍か分からなくなるな)

「でも、面白そうじゃないッスか?」

(面白い……?)

「きっと楽しくなるッスよ」

(…………)

「…………」

(…………ははっ)

「……ど、どしたッスか」

(いや、お前といたらきっと本当に退屈しないのだろうな、と思ってな)

「それで笑ったッスか」

(そうッスよ)

「そうッスか」

(うむ、だから……)

「だから?」


(……これからしばらく、よろしくッス)

「――はいッス!」


  スライムが なかまに なった! ッス!

 今回は人鳥様よりリクエスト頂きました、『スライムにやられそうになって、命乞いをする勇者』です。ありがとうございました。


 分かる人は分かるでしょうが、この小説には竜の冒険的な三作目のネタが多数含まれています。勇者や魔物の裏事情とか、こういうパロディ的な話は割と昔から存在しますよね。特にネット小説やRPGツクール作品などでよく見られ、ありがちとすら言えるかもしれません。しかしっ、それでも一遍こうゆうネタを自分でやってみたかったんや……! まあそんな私情はさて置き、既存の作品群とはどこかで一線を画するような部分を入れたかったのですが……いかがでしょうか? ただのパロディ小説と成り下がっているなら、失敗です。もしくは、その某ゲームをプレイしてないと分かりにくい部分が多いかも……だとしたら申しわけありません。

 執筆時間は五時間弱。文字数に対してかかる時間が安定してきている、と前向きに捉えておきましょう。


 リクエスト募集中。一人で複数の提案もOK。書いてほしい二人の『関係』を指定してください。細かい舞台背景・人物設定はNGです(そこまで指定されると私が自由な会話を書けないため)。例として、『スライムにやられそうになって、命乞いをする勇者』、『赤点を取った少年とそれを馬鹿にする妹』くらいまでが限度かと。基準が私の主観の部分が大きいので分かり難いかもしれませんが……まあ、失礼ながら無理なら無理と言いますので、とりあえず何か書いてきてくれると非常にありがたいです。

※追記:リクエストを受けてすぐに書けるとは限りませんことをご了承ください。


 拙作を読んで、少しでも笑って頂けたなら恐悦至極ッス。


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― 新着の感想 ―
[一言] 世知辛いな…… で吹きました。「無口な女を笑わせろ」から入りこのシリーズの1から4までは拝読させていただきました。恋愛物は基本的にあまり好きではないのですが楽しく読めました。面白かったです。…
[一言] 二度も連続して書いてもらって恐縮です。  ……スライムがやたら高圧的ですね。ちなみにぼくの中のスライムは 「命乞いなんかしてんじゃねーよ!」  とか言って、勇者さんを執拗に攻撃し続け…
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