レベル98
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電車から蹴り落された俺は、森の中を彷徨い歩きながら3日目の朝を迎えていた。
俺を置き去りにして出発した電車は、あっという間に森の中に消えてしまった。
不思議なことに地面を見ると普通に線路が走っていて、それもすぐに一番後ろの車両を追いかけるようにして消えてしまった。
猛烈な喉の渇きと空腹で体力は限界に近い。
レベルがカンストしていても飲まず食わずの状態では無理ゲーらしい。
それに、ほとんど眠れていなかった。
昼でも薄暗い森の中だ。夜になると辺りは灯り一つない真っ暗闇に覆われた。
周囲を照らすものといえば、スマホが頭の中に浮かんだのだが運の意悪いことに電車に置いてきた鞄の中で‥‥‥。
周りが何も見えないという状況で聞こえてきたのは、狼みたいな遠吠えや熊を連想させる何かの鳴き声だった。
レベルがカンストしてるとはいえこっちは普通の高校生だ。気味の悪い気配の中でまともな睡眠なんか取れるはずがない。
「このままじゃ‥‥‥」
正気と意識を保つために不安な気持ちをわざと声に出した。
異世界のスタート地点としてはめちゃくちゃハードな場所だ。普通に遭難だろう、これ。
「俺‥‥‥死ぬのか」
足音がふらついてそのまま大きな木の幹に身体を預けた。着ている学校の制服は森の中を這いずり回ったおかげで泥まみれだ。
「水飲みてぇ‥‥‥」
飢えと睡眠不足のせいか、まぶたがものすごく重い。このまま座って目を閉じればすぐに意識を失ってその後は‥‥‥肉食獣の餌。
意識が薄れ始めた。ついに体力の限界がやってきたみたいだ。
異世界でモブキャラにさえ出会えずに死ぬって‥‥‥あのコスプレ車掌ゆるさねぇー、次に会ったら覚えとけ! 絶対ぇーあのミニスカめっくってやる!
そんなことを考えていたら、
―――きゃぁあああーーー!!
いきなり甲高い女性の悲鳴が聞こえた。
身体がビクッと反応してしまい、誰もいない森の中だというのに気恥ずかしさを覚えてしまった。
「―――び、びっくりしたぁ‥‥‥!?」
遠のきかけた意識はあっという間に現実に引き戻された。
―――グォオオオーーー!
こんどは腹の底に響くようなライオンを連想させる咆哮が聞こえた。女性の悲鳴と同じ方向からだ。
不謹慎だが、人間の女性が大型の獣に食べられる場面を想像してしまう。
「ちょ、ヤバいって‥‥‥」
頭を両手でガシガシと掻きむしった。
このふらふらな状態で助けに駆け付けたとして‥‥‥熊やライオンみたいな肉食獣だったら人間の俺に勝ち目はない。
だが‥‥‥待てよ。助けを求める人間がいるということは、水や食料にありつける可能性があるということ。
俺は勇者でもなんでもない普通の高校生だ。打算的な考えは恥ずかしいことではないよな? それに―――。
俺は改めて自分自身のステータスを確認した。
視界の半分に表示されている能力値は比べる相手がいない以上、いま見ても意味はない。この場面で最も重要なのことは、一番上に表示されているレベル99という数字のみ―――。
「間違いなくカンストだよな‥‥‥。だったら俺、最強なんじゃねぇ」
楽観的とか、ご都合主義とか、誰に何と言われようとも今はカンストしている自分のレベルを信じるしかなかった。
―――だ、誰かあああーーー!!!!
助けを呼ぶ声がはっきりと聞こえた。
それは若い女性の切羽詰まった声で予断を許さない状況が伝わってくる。
「やってやる―――!」
飢え死になんてごめんだ。腹をくくるしかない。足元に転がっていた手ごろな木の枝を拾い上げぶんぶんと振り回す。
ないよりはマシ。その程度だ。それでもカンストしている俺が扱えば、木の枝もりっぱな凶器になるような、ならないような。
俺は最後の力を振り絞って声のした方へと駆け出した。
しばらくすると、あれだけ彷徨い歩いた森があっけなく途切れ、目の前の視界がぱっと開けた。
そこには綺麗な草原が広がっていた。
はるか先には西洋風の城みたいな建物が小さく見えた。
―――ゴォガアアアーーー!
再び咆哮が上がった。
少し離れた場所に、ライオンを数倍デカくしたような初めて見る獣の姿があった。頭に角が生えているので間違いなく異世界の存在だ。
頭を低くして今にも目の前の女性に襲いかかろうとしていた。
―――悲鳴はあの人か‥‥‥
距離にして300メートルほどだろうか。
例え俺がオリンピックの陸上金メダリストだったとしても絶対に間に合わない―――。
「―――くそっ! ダメかーーー!? って、あれ!? お、俺、速くね?」
自分自身の動きに混乱した。
地面を蹴る二本の足は力強く、それでいてものすごく軽い。みるみるうちに加速して女性が襲われている場所にぐんぐんと迫ってゆく。
「こ、これがレベル99の力なら―――もしかして!?」
初めてカンストの力を実感した瞬間だった。
俺の視界に獣のステータスが浮かび上がる。レベル32―――。
俺とのレベル差は大きい、「殺れる」と直感した。
木の枝を握る手に力を込め、大きく振りかぶった。
「おりゃぁあああーーーーーー!! サッカー弱小校の補欠を舐めるなぁああああああーーー!!!!!!」
魂の叫びに目の前に迫った獣の動きが一瞬止まった。
―――チャンス! 頭を叩き割ってやる!!
そう思った矢先だった。
俺は自分自身の速すぎる動きを上手く制御できなくなって―――足元がもつれバランスを崩した。
「ちょ、あ、ああああ!? うぁあああ―――!」
結果、俺の身体は地面の上をサッカーボールのように無様に転がって―――そのまま獣と激突した。
―――ゴッ! ギュギ‥‥‥
重い何かがぶつかり合う音と、大事な何かが砕ける音が辺りに響き渡り土煙が上がった。
俺の身体はぶつかった衝撃で地面に叩きつけられ、目からチカチカと火が出た。
「うぅ~~~痛てぇぇぇ‥‥‥」
猛烈な全身の痛みですぐには動けなかった。それでも不思議と手足の感覚はあった。しばらくして人の気配で身体を起こした。
すぐ横にはぶつかった獣が口から大量の血を吐いて倒れていた。ピクリともしないので、たぶん死んでいる‥‥‥。
で、気配がした後ろを振り返れば、そこには一人の女性が呆然とした表情でこっちを見つめていた。
純白のジャケットに革製のズボンとブーツを履いている。乗馬する時みたいな格好で、よく見れば歳は俺とそんなに違わないように見えた。女性というより少女と呼んだほうがしっくりくる。それにめちゃくちゃ可愛い。
「はぁ~間に合ってよかった‥‥‥そっちは大丈夫か‥‥‥?」
状況を整理すれば、俺のやった行為は結果オーライの人助けだ。
だとしたら、俺は目の前の彼女にとって命の恩人ということになり―――異世界ハーレムの始まりを予感させた。
それなのに、目の前にたたずむ少女は切れ長の目を細めると、
「下賤の者、私に話しかけるな」
凍てつくような言葉を返しやがった。それを聞いた俺は意識が急に朦朧とする。さっきの全力疾走でいよいよ体力が尽きたのだ。
地面に身体を倒して大の字になった。
もう、どうにでもなれ。そんな気持を最後に目の前が真っ暗になった。
「――――――姫様っ!! ご、ご無事ですかぁあああ‥‥‥!?」
誰かの叫ぶ声と馬の蹄の音だろうか‥‥‥俺は意識を手放した。
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